8月も終わりが見えてきた週末の夜、バラエティで立て続けに「退席」をめぐるネットニュースが報じられ、物議を醸した。

1つ目は、22日放送の『ザワつく!金曜日 絶対ダマされないぞ!緊急!特殊詐欺2時間スペシャル!』(テレビ朝日系)。長嶋一茂がクイズの解答に対する不満から「帰るからな!」とスタジオから退出。ネットメディア各社が扱い、Yahoo!トピックスにも掲載されたこともあって、放送時から翌朝にかけてトップニュースとなっていた。

2つ目は、23日放送の『人生最高レストラン』(TBS系)。ゲストの深田恭子が「人生最高のレストラン」と番組名を間違えたことをMCの加藤浩次から指摘されて帰ろうとしたシーンが報じられた。こちらは週が明けてもエンタメニュースランキングに留まるなど、多くの人々の目にふれている。

なぜバラエティの「退席」がこれほどニュースになり物議を醸すのか。制作サイド、出演者、視聴者、メディアそれぞれの角度から、その本質をテレビ解説者の木村隆志が掘り下げていく。

  • 長嶋一茂(左)と深田恭子

    長嶋一茂(左)と深田恭子

「演出なのは明らかだが面白くない」という声

真っ先に書いておきたいのは、長嶋も深田も本当に帰ろうとしたのではなく、番組を盛り上げようとして行ったこと。また、制作サイドもそれを「是」として採用したこと。

『ザワつく!金曜日』を見ていた多くの人々は、高嶋ちさ子と石原良純が爆笑していたこと。長嶋がすぐにスタジオを出ず「帰るからな!」と10回も連呼し、わざわざカメラが撮れるところでマイクを外したこと。高橋茂雄がそれに応えるように戸惑う姿を演じていたことがわかっただろう。

『人生最高レストラン』の深田も笑顔で「ごめんなさい、帰ります」と席を立っただけ。MC・加藤のツッコミが厳しかったという批判もあったが、「ごめんなさい」と断りを入れていた上に、「帰らなくていいのよ。“の”をつけていいよな」とスタッフに求めるなど全力でフォローしていた。

番組を見た人のほとんどが笑う、あるいは「よくある感じ」と受け流すレベルのシーンであり、これが大きなトピックスとなり、個人が批判されることの理不尽さを感じさせられる。

ただ、制作サイドがこれを見どころの1つと考えていたことは間違いないところ。『ザワつく!金曜日』はカットすることもできたはずだが、むしろCMをまたぐなど最大の見せ場というニュアンスの編集だった。また、放送前の段階から「番組史上初の大ハプニングが発生」とあおるように長嶋の退席を予告していたことからも、制作サイドの狙いがうかがえる。

同様に『人生最高レストラン』も編集でカットできたはずだが、逆に本題のグルメに入る前の“つかみ”として使うことを選択。「これでひと笑いしてもらってから本編に入っていこう」という意図が見えた。

しかし、問題はそのような笑いの取り方を「つまらない」と感じる人が増えたこと。実際ネット上には、長嶋、深田、加藤を批判する声ばかりではなく、「演出とわかったが面白くなかった」というニュアンスの声が散見された。さらにその理由を見ていくと、かつてより「芸能人のわがままな振る舞いを見ても笑えない」「『帰る・帰らない』で何が面白いのかわからない」という感覚の人が増えた様子がうかがえる。

“昭和のムード”でもお約束は通用せず

『ザワつく!』はMCの年齢層を見ても、扱うテーマやクイズの内容を見ても、どこか昭和のバラエティを思い出すような番組であることは間違いないところ。『人生最高レストラン』もグルメ番組ながらゲスト本人の食事シーンがないなど、トークメインの構成は古き良き昭和のバラエティを思い起こさせる。

昭和のバラエティにはゆったりとしたムードが漂い、意図をわかった上で楽しむ“お約束”を盛り込むことで視聴者を引きつけていた。その点、両番組は「週末にくつろぎながら見てもらう」という点で長寿化に成功しているが、今回のように時折はさまれる“お約束”はウケず、逆に批判を浴びてしまう危うさを感じさせられる。

そして「退出」にまつわる論点でもう1つ挙げておかなければならないのは、現在はそれが「ハラハラドキドキさせるシーンではない」こと。昭和のテレビ好きなら、やしきたかじんや上岡龍太郎ら昭和の大物芸能人たちが退席したことを覚えている人は多いだろう。また、平成でも水道橋博士の退席が多くのネットメディアに報じられたが、それらのインパクトがあったのは、番組に視聴者がハラハラドキドキするような緊張感があったから。

しかし、令和の今そのような緊張感はほとんどうかがえず、ネット炎上を避けるための安全運転がベース。さらにそれを知る視聴者から「どうせ退出なんてしない」と見透かされている。振りとしての緊張感が乏しければ、それを緩和することで発生する笑いの量はおのずと減ってしまう。

ただ、テレビ業界ではそんな過去の名残なのか、いまだに退席で笑いを誘おうという作り手は少なくない。「もう笑えない」「過去を知らない」という人が増えた時代の変化に対応していないのではないか。

そもそも長嶋や深田が本当に怒って帰ってしまうようなキャラクターと思っている人はほとんどいないだろう。

実際、長嶋を取材したことがあるが、「番組を盛り上げるためなら悪役になるし、恥をかいてもいいし、自腹を切ってもいい」というスタンスだった。それを踏まえて今回のシーンを見ると、「解答への対応が中途半端だった高橋の進行を長嶋がキレたフリをすることでフォローした」というニュアンスが感じられる。深田も取材時には自身の天然キャラを自覚したように振る舞ってきたし、30年に迫る芸歴を持つ彼女が本当に退席すると考えるほうが不自然ではないか。