連載コラム『美人すぎる公認会計士がこっそり教える、やわらかマネー知識』では、公認会計士の平林亮子氏が、その豊富な経験を生かした「お金」に関する知識を、分かりやすく説明します。あなたの人生を変えるような、とっておきのマネー知識が得られるかもしれません。
いろいろな企業と接していると、「お金を儲けるって本当に大変だな」と感じることがあります。
そう感じる理由はいろいろあるのですが、「最後の最後まで、本当に儲かっているかわからない」ことが、一番大きな理由だと言えるかもしれません。
100円ショップ、儲けるために商品をいくつ売らなければならない?
たとえば、100円ショップをイメージしてみます。
100円ショップは、一般的に70円で商品を仕入れてきて100円で販売するという構造になっていると考えて差し支えないと思います。
つまり商品が売れれば1個あたり30円の儲けになるわけですが、1個売ってやっと30円ですから、ビジネスって本当に大変です。
もちろん、その30円全額が手元にのこるわけではありません。商品を売るための人件費や店舗の家賃がかかります。1個あたり30円の儲けから、人件費や家賃などをまかなうことになります。
店舗にお金が残るくらい儲けるためにいったい商品をいくつ売らなければならないのか、考えただけで途方にくれてしまいそうです。
閉店するその時まで「本当に儲かったかどうか」はわからない
企業における儲けとのあくなき戦いは、それだけでは終わりません。もし、毎月、毎年、儲けることができたとしても、閉店するその時まで「本当に儲かったかどうか」はわからない可能性があるのです。
なぜなら、店舗を運営するためには、前回お話した「初期投資」がかかっているはずですし、それに加えて、閉店するためにもお金がかかるからです。
仮に、100円ショップを開店するための初期投資に、1,000万円かかったとしましょう。
税金や減価償却費などといった厳密な話は無視しますが、たとえば毎年100万円儲けることができたとしても10年でやっと初期投資を回収できるにすぎません。
さらに、いつか店舗を閉める日が来ると考えると、そのためのお金もかかります。
日常の粗大ゴミの処分や家電製品のリサイクルのためにもお金がかかるこの時代。店舗を閉めるためにもお金が必要になると想定しておくのが自然です。
店舗の原状回復や在庫の処分のためなど、ビジネスの規模が大きければ大きいほど、閉店費用も多額になる可能性を秘めています。
一時的に大きな利益を出しても、多額の借金を抱えて倒産することも
余談ですが、企業会計の世界では、現在、設備などを処分する際に必要になる費用を事前に見積もって、負債として認識しようという基準があります。
具体的には、有形固定資産(建物や設備など)を除去する際に、法令又は契約で要求される法律上の支払義務及びそれに準ずる支払を「資産除去債務」と定義し、将来、資産を処分する際にかかるお金を事前に負債として認識することになっているのです。
少し乱暴な表現となりますが、もしも閉店のために500万円かかる、となったら、その分も最初から必要な額として考慮しておこうというわけです。
そして、それを上回る儲けを得ていなければ、儲からないビジネスになってしまうということです。
もちろん、店舗を閉鎖することなく、売却するといった選択肢もありますが、いずれにしても、その時がくるまでトータルで本当に儲かったのかどうかはわからない可能生があるのです。
大きな利益を出してマスコミなどに取り上げられたような企業(や社長)が、多額の借金を抱えて倒産することも珍しい話ではありません。
儲けるというのは、なかなか大変なことなのです。
人生も、刹那的な「成功」や「失敗」にとらわれないことが大切
ところで、最後まで結果はわからない、という点は、人生も同じかもしれません。
ビジネスと同じで、最期の時が来るまで、本当に良い人生だったのかはわからないのだと思います。
もちろん、それは「今が幸せだからといって将来も幸せであるとは限らない」という悲観的な意味を込めて申し上げているのではありません。むしろ、人生いろいろあるけれど、トータルで幸せだったと言えたらいいな、という私自身の願望が根底にあります。
そのためには、刹那的な「成功」や「失敗」にとらわれないことが大切になるでしょう。一方で、矛盾のように聞こえるかも知れませんが、最期の時に「幸せだった」と言える人生のためにできることは、今を一生懸命、幸せに生きることしかないのだと思います。
ビジネスにおける最終的な儲けについて考えるたびに、そんなことを考えてしまうのは、飛躍しすぎでしょうか?
執筆者プロフィール : 平林 亮子
公認会計士。「美人すぎる公認会計士」としてTVやラジオ、雑誌など数多くのメディアに出演中。お茶の水女子大学在学中に公認会計士二次試験に合格。卒業後、太田昭和監査法人(現・新日本有限責任監査法人)に入所。国内企業の監査に多数携わる。2000年、公認会計士三次試験合格後、独立。企業の経営コンサルタントを行う傍ら、講演やセミナー講師など多方面で活躍。テレビの情報番組のコメンテーターを始め、ラジオ、新聞、雑誌など幅広いメディアに出演している。