テクノロジーが進化し、AIの導入などが現実のものとなった今、「働き方」が様変わりしてきています。終身雇用も崩れ始め、ライフプランに不安を感じている方も多いのではないでしょうか。
本連載では、法務・税務・起業コンサルタントのプロをはじめとする面々が、副業・複業、転職、起業、海外進出などをテーマに、「新時代の働き方」に関する情報をリレー形式で発信していきます。
今回は、コンサルティング会社と会計事務所の代表を務め、スタートアップを中心に会計面・資金調達面からサポートを行っている岡野貴幸氏が、黒字倒産しないよう「キャッシュフロー経営の重要性」について解説します。
黒字倒産する可能性があるケースとは
「黒字倒産」という言葉があります。企業は赤字であってもすぐに倒産するわけではありませんが、黒字でも資金ショートすれば倒産します。このような、利益は計上されて黒字が出るにも関わらず、運転資金や手元に残っている資金が枯渇したため倒産することを黒字倒産と言います。
損益計算書で利益を意識する社長は多くいます。しかし、損益計算書とキャッシュフローではずれが出てきます。
たとえば、借入金の返済です。借入金の返済は元本部分の返済と利息がありますが、このうち元本部分の返済は損益計算上費用にはなりません。これは借りたお金を返しているだけであるため費用にはならないわけです。つまり、損益計算上で生じた黒字の部分から返済を行わなければならないのです。
下記のような場合、損益計算書では利益が出ているので健全経営のように見えますが、実際はキャッシュフローがマイナスになっているという状態です。
損益計算書:売上100-経費90=利益10
キャッシュフロー:売上100-経費90-借入金の元本返済20=△10
さらに、仕入があるビジネスも注意が必要です。物を仕入れた時にお金の支払いが生じますが、物はまだ売れていないので在庫として資産を保有していることになります。つまりこれも損益計算書では費用になりませんが、キャッシュフローはマイナスとなるわけです。
在庫という資産を持っているのだから悪いことではないかと思うかもしれませんが、キャッシュフローを悪化させる要因ですので、在庫は出来るだけ持たないようにしなければなりません。
正確に売れる量を考え、適正な在庫を保有するようにする、もしくは売れることが分かってから仕入を行うようにするといった工夫をしましょう。損益計算書と貸借対照表、キャッシュフローの関係を表すと下記となります。
損益計算書:売上100-経費90=利益10
貸借対照表:在庫(資産)20
キャッシュフロー:売上100-経費90-商品の仕入20=△10
上記2点は損益計算書とキャッシュフローのずれが生じる典型的な2点です。それぐらい簡単だ、分かっている、と感じる方も多いのではないかと思います。しかし、実際のビジネスではこれらが複雑に絡みあってきます。特に在庫の管理、把握はどの会社も苦労する所です。
正しい「支払サイト」を構築しよう
黒字倒産しないために、支払サイトも重要となってきます。物の仕入れを行う際、購入して物は届いたが、支払は3ヶ月先となっている場合、物は届いているのでそれを加工、販売出来る状態になっていますが、キャッシュフローがマイナスとなるのは3ヶ月先です。そうすると、損益計算書と貸借対照表、キャッシュフローの関係を表すと下記となります。上の仕入を行った後にすぐに支払を行っている例と比較してみて下さい。
損益計算書:売上100-経費90=利益10
貸借対照表:在庫(資産)20、買掛金(負債)20
キャッシュフロー:売上100-経費90=10
一見損益計算書では同じ利益に見えても、キャッシュフローがマイナスとなるかプラスとなるかの違いが出てきます。
さらにその間に販売を行えば売上が計上され、お金の入金もされれば、キャッシュフローのプラスが先になるかもしれません。入金になる債権(売掛金等)の回収はなるべく早く、出金となる債務(買掛金等)の支払いはなるべく遅くと言われるのはこのためです。
利益の水準が同じぐらいであっても、入金サイトが早い、支払サイトが遅いという状態になっていればその差が企業の力の大きな差となってきます。
これをつきつめて行っているのが世界的なEコマースの会社であるAmazonです。Amazonは商品の仕入代金の支払いを行う前に、売上の代金を回収している状態を作り上げていることが数字にも表れています。
また、Amazonの財務戦略はとにかく「フリー・キャッシュフローの最大化」となっています。では、どのようにそれを行っているのでしょうか。次回以降記載していきます。
世界的な大企業も取り組んでいるキャッシュフロー経営ですが、スタートアップの企業ほど取り組んだほうが効果が出ます。また入金や支払のタイミングを後から変えようと思っても難しいので、最初から意識して取り組んでいくことが重要です。成長する仮定の中で借入金に頼ることなくキャッシュフローを生み出していく仕組みを構築していきましょう。
執筆者プロフィール : 岡野貴幸
ゴージュ株式会社 代表取締役、ゴージュ会計事務所 代表公認会計士
立教大学経済学部卒業。大学在学時に公認会計士試験に合格。大学卒業後、あずさ監査法人国際部に入社。上場企業の法定監査、国際会計基準導入支援業務を経験。実家は埼玉県で3代続く税理士事務所を経営しているが、ゼロから立ち上げ新しい会計事務所の形を作りたいと一念発起し、2014年に独立。岡野公認会計士事務所(現、ゴージュ会計事務所)を設立。同時にコンサルティング会社であるゴージュ株式会社を設立。成長する企業を会計面・資金調達面からサポートしたい想いから、スタートアップを中心にサービスを行っている。クラウドを駆使し徹底した経理の効率化、事業計画の作成、資金調達を得意とする。