若手ビジネスパーソンの悩みのひとつが、「仕事(業務)がうまくいかない」ことであることに、異論はほとんどないでしょう。
もちろん、「苦手な人が職場にいる」なども若手にとってはそうとうヘビーな悩みになりますが、そのような悩みは、その人が運よく? 他部署に異動でもしてくれればそれで一気に解消します。しかし、自分自身が「仕事がうまくいかない」場合は、そのような解決も期待できないだけに、悩みはより深くなります。
私自身振り返ると、新人から3年間は、あまりに仕事ができなくて、毎日がとてもブルーだったことを鮮明に記憶しています。私はある食品メーカーの法人営業としてキャリアをスタートするのですが、最初はアポを取ることすらできず、売り上げをみるみる落とし、商談ではお客様を怒らせ、本社に開発を依頼したらあきれられて電話を切られ……と散々な毎日だったのです。
そんな私ですから、残念ながらみなさんにかっこいいアドバイスはできません。逆にいえば、私の「うまくいかなかった経験」なら、オープンに語ることができます。ということで、私がよかれと思ってやってしまった「しなくていい努力」を正直に振り返ってみます。
未経験者は試合で活躍できない
まず、「うまくできない」ことを、過度に気にし過ぎたことが、私の最大の失敗だったと今はわかります。うまくいっていないのは、何も私だけではなかったのです。同期はもちろん、ものすごく仕事ができる先輩だって、新人のときは大なり小なり、仕事がうまくいっていなかったのです。
このことは、スポーツでたとえてみればすぐにわかります。十何年ずっと陸上競技をやってきた選手がいたとしましょう。その人が、サッカーに転向しました。さて、質問です。この人は、初年度からいきなり試合で活躍できるでしょうか?
さすがにそれは無理ですよね。ボールを蹴るのもドリブルするのも初めての人が、いきなりサッカーの試合で活躍するなんて、まずありえません。
仕事も同じです。十何年か学校で「勉強」してきた人が、いきなり「仕事」のフィールドで活躍できるのでしょうか? やはりそれは無理なのです。勉強と仕事はまったく別の種目です。
そして、サッカーと同じで、やったことない人がいきなり活躍できるほど、簡単な種目ではないのです(逆にいえば、もしいきなりできてしまっていたら、それはおそらく仕事ではなく、大学生でもできる「作業」なのかもしれません)。
もし、サッカーをはじめて1年とか、あるいは3年の人が、「ワールドカップの試合で、うまく活躍できない」と悩んでいたら、なんてアドバイスしますか?
おそらく、「できなくて、あたりまえ!」と言うのではないでしょうか。
そうです。どんな種目でも、新しくはじめた1~3年くらいは、「できないのがあたりまえ」なのです。
仕事と勉強は違う
具体的な私の失敗をひとつ紹介しましょう。仕事は勉強と違って、「実技」の種目です。商談"する"、設計"する"、研究"する"、生産"する"……仕事はすべて「する」ものであり、受験勉強のように「わかればいい」ものではないのです。
それなのに、商談ができない私は、どうしたかというと……
商談の本を読んだり、先輩の商談に同行したり、人にコツを聞いたりと、一所懸命に頭でわかろうとしてしまったのです。
もちろん、頭で理解すること、それ自体は悪いことではなく、むしろいいことです。しかし、繰り返しになりますが、商談は実技です。いくら頭でわかっても、それだけでは決してできるようにはなりません。水泳の本をいくら読んでも、それだけでは泳げるようにならないのと同じです。
10回しかボールを蹴ったことがないサッカー選手と1万回蹴ったサッカー選手では、どちらがサッカーがうまくなる可能性が高いか……その答えは、聞くまでもないはずです。商談ができるようになりたければ、できるだけ多く商談をすべきだったのです。
それなのに私は、できない自分が嫌で、失敗するのが嫌で、恥をかきたくなくて、「できるだけ商談をしないように」という方向を選択してしまったのです。
その結果、「できないから→やらない→できるようにならない→だからやらない……」という負のスパイラルにハマりこんでしまったのです。
失敗し続けることが必要
実技である仕事ができるようになるためには、「できないけど、やり続ける」というある一定の期間が絶対に必要です。つまり、うまくなりたかったら、必ず、うまくいかない、みっともない、恥をかく段階を経なければならないのです。
私は、「できることだけをやっている」から、「できるようになったらやろう」と考えていたから、いつまでたっても、新しい種目である仕事が「できないまま」になってしまったのです。
執筆者プロフィール
堀田孝治(ほった・こうじ)
クリエイトJ株式会社代表取締役
1989年に味の素に入社。営業、マーケティング、"休職"、総務、人事、広告部マネージャーを経て2007年に企業研修講師として独立。2年目には170日/年の研修を行う人気講師になる。休職にまで至った20代の自分のような「しなくていい努力」を、これからの若手ビジネスパーソンがしないように、「7つの行動原則」を考案。オリジナルメソッドである「7つの行動原則」研修は大手企業を中心に多くの企業で採用され、現在ではのべ1万人以上が受講している。著書『入社3年目の心得』(総合法令出版)、『自分を仕事のプロフェッショナルに磨き上げる7つの行動原則』(総合法令出版)他。