女性活躍推進において、男女の格差を端的に示す指標の1つが「管理職に占める女性の割合」です。管理職に占める女性の割合は12.3%(厚生労働省「令和3年度雇用均等基本調査」)であり、依然として低い水準にとどまります。
パーソル総合研究所が実施した調査で女性管理職が少ない理由を紐解いていくと、女性管理職を増やすにあたって、昇進意欲のなさとともに企業が問題視しているのが女性の「経験不足」でした。十分な経験を積んだ女性が不足していることが大きな問題だと企業側は考えています。
一方で、女性本人側に目を向けると、女性は管理職になるにあたって多くの不安を抱えています。不安が払拭(ふっしょく)されないままでは、女性は管理職への挑戦意欲がわかず、登用されたとしても管理職として働き続けられないリスクもあります。
したがって、女性管理職を増やすためには、女性の「経験不足」と「管理職になる上での不安」という2つの問題を考える必要があります。結論を先取りすると、これらの問題を解決するためには、いずれも上司の働きかけが重要です。上司が女性部下に期待をかけて管理職になる上で必要な経験を与えること、そして、登用前後のコミュニケーションによる伴走で不安を低減することが女性部下の昇進を後押しします。
本コラムでは、パーソル総合研究所の研究員・砂川 和泉が同社の調査結果をもとに、女性管理職を増やす上で有効な"上司の働きかけ"について見ていきます。
■期待や経験に男女差があった!?
まず、女性の経験不足について見てみましょう。女性は、さまざまな経験が少ない傾向がみられます。具体的には、「転勤」や「部門横断的なプロジェクトへの参加」、「新規プロジェクトの起案・提案」といった経験が全般的に乏しくなっています(図1)。
なぜ男女で経験の差が生じるのでしょうか。その一因は、上司からの期待が部下の性別によって異なることにあります。女性部下は、「現場の戦力」として「職責・職務」に見合う期待はかけられているものの、「将来の幹部候補」としての期待はかけられていないと感じています(図2)。
つまり、女性も「期待」自体はかけられていますが、その期待は幹部候補としてのキャリアを念頭に置いたものではなく、現場の戦力としての期待にとどまっているということです。
そうした幹部候補としての期待の乏しさが女性部下本人の認識だけの問題かというと、そうではありません。上司に聞いても、男性上司は女性に対して期待をかけていません。女性上司は独身の女性部下には期待をかけるものの、小さな子どものいる女性部下には期待をかけない傾向があります。
上司は、「小さな子どもがいる女性が幹部を目指すのは大変だろう」と気遣いをしているのかもしれません。しかし、上司が期待をしなければ、管理職登用につながるような業務の割り当てが少なくなるのは当然です。幹部候補としての期待がかけられている人では、業務の経験率が全般的に高い傾向が見られます。
このことから、女性の経験不足を解消するには、まず、上司の先入観や思い込みによる「期待」と「経験」の男女格差の是正が重要だといえます。女性も幹部候補であるという認識のもとで、上司は意識的に業務割り当ての偏りをなくす必要があります。例えば、新規の企画提案や部門横断的なプロジェクトの機会があれば、そうした仕事を女性にも積極的に割り当てていくことが大切です。
さらに、女性に経験を与える時期も重要です。家庭内の負荷が女性に偏っている現状では、結婚や出産後の働き方に制約が生じることもあります。そのため、育成・選抜のタイミングを早期化し、結婚や出産といったライフイベントの前から幹部候補としての期待をかけて経験を積ませることが必要です。
■登用時の働きかけが女性の意欲アップに!
続いて、女性の不安について見てみましょう。管理職になるにあたって、女性は、「精神的な負担が大きい」「自分の性格に向いていない」「プライベートとの両立ができなくなる」といった不安を抱いている割合が高くなっています。不安を払拭して女性の背中を押すには、登用時に上司からポジティブな働きかけをおこなうことが有効です。では、上司からのどのような働きかけが、管理職をやってみようという気持ちにつながるのでしょうか。
女性の意欲喚起につながる働きかけでよく実施されているのは、①候補となった「理由」、②将来に対する「期待」、③管理職の「メリット」の3つの伝達です(図3)。
例えば、管理職に向いていることや十分な経験があることを詳細に説明すると、女性の背中を押すことになります。また、上司が本人ならではの期待を伝えることでも意欲を高められます。さらに、給与・手当ての増加や高い視座でやってみたいプロジェクトを推進できるといった裁量余地の伝達も有効です。
一方で、意欲を向上させるにも関わらず、あまり実施されていない働きかけもあります。
1つは、本人の不安に対する具体的な支援方法の伝達です。学校行事への配慮などで両立をサポートする準備があることはもっと伝えられてよいでしょう。また、子育てがひと段落するタイミングを待つといった登用時期の調整も、女性の不安を払拭する一助になります。
もう1つは、上層部とのコネクション形成です。上司のネットワークを通じて、女性は自らの昇進を後押ししてもらえる人脈を広げることができます。中には、「課長OJT」と称して、登用前に課長の権限をもってチームをまとめる経験をした例もあります。管理職の仕事を事前に経験することは、管理職に向けた準備になるだけでなく、その上の部長とのコネクションにもつながるでしょう。
■働きかけは"管理職としての就労継続意思"も高める
また、上司からの働きかけは、登用後の就労継続とも関係します。登用時に働きかけを受けた女性課長では、そうでない女性課長と比べて、管理職として働き続けたい割合が1.7倍高くなっていました(図4)。さらに、登用後にも上司が密にコミュニケーションを取ってくれ、その時の状況に合わせたアドバイスをくれることによって精神的なプレッシャーを感じずに済む人もいます。
実績・実力があっても自信がもてずに自分を過小評価する傾向は「インポスター症候群」と呼ばれ、社会的に成功した女性に多いことが知られています(※注)。したがって、自信がもてない女性も管理職として前向きに進めるよう、登用時も、その後も上司が女性部下に寄り添ってサポートすることが大切です。
■まとめ
女性管理職を増やすには、上司が女性部下に幹部候補としての期待をかけ、適切な経験を付与しながら育成することが必要です。そして、登用時には、自信がない女性部下の気持ちに寄り添い、その部下ならではの活躍に対する期待を伝えるとともに両立の不安も払拭していくこと。さらに、登用後も女性部下を孤立させずにサポートすること。そうした上司の育成と伴走が女性の管理職への昇進を後押し、管理職としての活躍を支えるのです。
(注)Clance, P. R., & Imes, S. A. (1978). The imposter phenomenon in high achieving women: Dynamics and therapeutic intervention. Psychotherapy: Theory, Research & Practice, 15(3), 241–247.