かねてから日本企業の女性活躍のハードルとして知られるものに、「遅い選抜」の慣習があります。今回は、パーソル総合研究所 上席主任研究員 小林 祐児が、「遅い昇進」という大きな課題について話していきます。

■遅い選抜という構造的なハードル

最新のパーソル総合研究所の調査では、管理職への平均登用年齢は課長級で38.5歳、部長級で平均43.4歳でした。業界別に見ると、宿泊、飲食サービス、娯楽業などは比較的若いですが、その他の業界は課長になるのが40歳前後。電気・ガス・水道などのインフラ業や建設業などではさらに遅い傾向が見られました。

新卒採用のイベントでは、多くの企業が「弊社は早いうちから活躍できる」とうたうものですが、実際は高齢化に引きずられるように、日本企業の課長昇進・部長昇進タイミングはともに高年齢化してきています。

この長い選抜慣習は、なぜ女性活躍のハードルになるのでしょうか。その理由をシンプルに言えば、管理職への選抜時期よりも、結婚・出産・育児というライフイベントが先に来てしまうことです。そして、パーソル総合研究所の調査でわかっているのは、男性は結婚すると管理職意向が上がり、女性は結婚によって「時間」重視の就業意識に大きく変化することです。

  • 出所:パーソル総合研究所「女性活躍推進に関する定量調査」、厚生労働省 令和元年(2019)人口動態統計/人口動態統計「出生に関する統計」/総務省「令和2年国勢調査」

すでに皆婚時代はとっくに終わり、未婚化は進んできていますが、未婚率を見ても女性は16%程度なのに対して、男性は25%程度。こうした男女のライフイベントの大きな違いと、日本企業の選抜慣習が組み合わさって、遅い選抜は女性活躍の大きなハードルであり続けています。

  • 出所:パーソル総合研究所「女性活躍推進に関する定量調査」

■“オプト・アウト方式"の昇進メカニズム

そして、日本の昇進構造のもう一つの特徴は、昇進機会が総合職社員に対して広く平等に与えられることです。正社員であれば、卒業大学に限らず画一的な育成の対象となる未経験からの一括育成入社という慣行は、「頑張れば幹部になれる」という可能性を広く、長く与えるものです。平等に機会を与えつつ、ジョブ・ローテーションしながら長い選抜期間の中で、「自然に目立ってくる若手を30代半ばまで待つ」という選抜になっています。

学歴フィルターのような「学歴差別への批判」は日本の就活につきものですが、正規雇用として入社してしまえば、どの大学を出ていてもこのタイミングで育成に大きな差をつけられることはありません。ビジネスパーソンからは、「会社に入ってしまえば大学なんて関係ない」という言葉も、さも当たり前のように飛び出します。

一方で先進各国は、ハイレベルの教育を受けていなければ、役員候補や管理職候補としては扱われない国が大半であり、ますますそうした傾向は強くなってきているように見えます。

  • 出所:筆者作成

今や欧米の大手企業の幹部層はほとんどが修士号を持っており、大学新卒で未経験でも採用されるのは主に生え抜きのエリート学生です。高度な教育を受けることが出世の可能性に直結し、幹部候補となる若手は、最初からスタートラインが異なります。だからこそ、日本では15年から20年かかる選抜が、アメリカやドイツでは、おおよそ半分程度の期間になります。

こうした特徴をまとめて言えば、日本の正規雇用は「オプト・アウト方式」の平等主義的・競争主義的な昇進構造と呼べます。オプト・アウトとは、不参加や脱退という意味。同意がなくとも原則的には参加が決められており、抜けるときに意思表示する方式のことです。ちなみにオプトインはその逆で、参加したい人だけが意思表示することを言います。

■「平等主義的」選抜の副作用

飛び級や留年が少なく、同年代の男女が「同期」という疑似的な共同体を形成し、そのほとんどが「未来の幹部層候補」として表面上扱われ続ける。こうした「えこひいき」のない一括育成の慣習は、女性活躍にとっていくつかの「副作用」を持っています。

まず一つは、この構造が一見「平等」な選抜であるために、男性側に自分たちが優遇されているという意識を発生させないということです。家事や子育てを選ぶのはあくまで女性の「選択」であり、「女性側の自己決定」として理解されがちです。これが「オプト・アウト」であるゆえんです。

また、遅い選抜は、出世のために長期間、会社へのコミットメントを必要とします。調査からは、本部長・役員クラスへの登用年齢が高い企業ほど、出世するために努力してきたという経営層の「サンクコスト」意識が高いことがわかっています。

サンクコストとは、「埋没したコスト」のこと。もう取り返しのつかない過去のコストです。そして解析の結果では、そうしたサンクコストの意識が強い経営層は、ダイバーシティ推進への積極性が低いことがわかっています。自分の努力こそが昇進の理由であり、女性を優遇することはそのメカニズムそのものを否定することだからだと推察できます。

  • 出所:パーソル総合研究所「女性活躍推進に関する定量調査」

つまり、「遅い自然選抜」慣習は、単純なライフイベントという時期だけの問題だけではなく、選抜において「下駄を履いている」感覚のない、ダイバーシティに理解のない経営陣を再生産し続けている可能性があるということです。

■必要なのは、「健全なえこひいき」

こうした理由から、女性活躍推進のためには日本の頑強な昇進構造を変えていく必要があります。

実際に、調査から女性管理職比率と登用平均年齢の関係を見ると、課長・部長どちらも、登用年齢が低いほどに女性管理職の比率が高い傾向も見られていますし、早い選抜を行う企業で女性管理職が多いというのは、先行研究でも指摘されてきたところです。

  • 出所:パーソル総合研究所「女性活躍推進に関する定量調査」

必要なのは、若手の管理職候補者を早めにリストアップし、計画的に「可視化」することです。男女平等に選んだ候補者のリストを20代のうちには整えて、選抜的な教育訓練の機会を与える必要があります。ポイントは、出産育児におけるキャリアブレークが来るよりも以前に、経験と期待を女性にも厚く振り分けることです。

選抜層には、早期からの管理職・上級管理職とのパイプライン強化、個別育成計画策定、メンター体制整備など、優先的な育成機会の分配といった早期の特別な育成を図ります。経営との距離が近い中小企業であれば、「カバン持ち」的な経営陣のサポート業務を早めに経験させるといった施策もやりやすいでしょう。

このように、意識的に早期登用を加速させていかなければ、社会の高齢化の波に流され、管理職登用のタイミングはさらに遅れかねません。入社から20年頑張らないと課長になれないような状況は、今の若者のキャリア観全体に照らしても、時代遅れなものです。

平等意識の強い日本企業は、こうした"えこひいき"をとにかく嫌がる傾向にあります。しかし、意図的に「早めに選び、早めに育てる」ことを行い、「平等主義による不平等」を脱しなければ、女性活躍推進の速度は上がらないと筆者は考えています。


次回をどうぞお楽しみに!