コロナ禍を機に海外出張の代わりに、ウェブ会議を頻繁に行うことが国際業務のスタンダードになりました。英語関連事業を行う当社(レアジョブグループ)の調査によると、英語で仕事をしている人の8割(N=578名)が、「オンラインのコミュニケーションが定着する」と言っています。
急に英語のウェブ会議に参加することになっても、コツさえ押さえておけば、怖くありません。今回は英語のウェブ会議におけるダイバーシティ(多様性)について考えてみましょう。
1.多様性は受け入れるだけでなく、積極的に活用しよう
近年、日本の企業ではSDGsや人的資本経営などの流れで、ダイバーシティへの取り組みがますます重要視されるようになっています。 一方、海外の企業では「DE&I (Diversity, Equity and Inclusion)」という表現が主流になっています。Equityは多様な人々が公平に活躍しやすいように土台を整える措置をとることを意味し、日本のダイバーシティよりさらに踏みこんだ取り組みです。この感覚の差は英語で海外の人とのウェブ会議をするときに心得ておくとよいでしょう。
最近、ダイバーシティは次のように分けて考えられるようになっています。
【1】デモグラフィック・ダイバーシティ(外面的にわかりやすい多様性)
人種・民族、性別、言語、年齢・世代、体格、障がいの有無など
【2】コグニティブ・ダイバーシティ(知識・スキル・経験の多様性)
教育・研修や職業経験などにより得てきたスキル・知識・経験
【3】イントラパーソナル・ダイバーシティ(個人の内面的な多様性)
個人の価値観や信条など
これまでダイバーシティというと、【1】を念頭に、様々な人を職場に受け入れていく取り組みを示すことが多かったのですが、今では【2】【3】も重要視されています。
実は、多様性には「受け入れる」という側面と、「活用する」という側面があります。多様な人を会社に受け入れようという側面は【1】と捉えられることが多いですが、チームメンバーの多様なスキルや知識や価値観を活用しようという側面では、【1】に加えて【2】【3】が大事になります。
そして、【2】【3】は話してみないとわかりません。つまり、ダイバーシティを活用するにはコミュニケーションが不可欠ということになります。
私たちは、ビジネス環境が目まぐるしく変化し、未来が予測不可能な時代に生きています。こんな状況下では、仕事で何かの課題にぶつかったときに、チームで様々なアプローチから解決策を考えていかねばなりません。新しい技術で業務が簡略化できることに気づかなかったり、変化しつつあるユーザーニーズを見逃すこともありえます。
国際的な調査でも多様性のあるチームのほうが画一的なチームより中長期的なパフォーマンスが高いという結果が出ています。
とくに海外の人との仕事では、文化や価値観やスキルや解決アプローチについての違いの幅がより大きくなります。このように考えると、多様な人が参加する英語によるウェブ会議は、多様性から新しい価値を生み出す格好の場であることにお気づきになるでしょう。
2.ダイバーシティを活かす英語コミュニケーション
では、英語によるウェブ会議で、「スキルや知識、価値観」といったダイバーシティを活かす場合、どのようなコミュニケーションが求められるか、要点をご紹介していきましょう。
英語のウェブ会議では率直に意見を述べ合う場です。たとえば、海外のある拠点で製造する自社製品の品質低下の問題に対して、あなたが改善案を提案したとしましょう。それに対して現地スタッフのJustinが真っ向から、その品質は守る必要がないと反対しました。さらに、Sarahが同社の品質チェックの方法は時代遅れで、もっといい方法があるとコメントしました。
これらの意見についてあなたはどんな反応をしたらよいでしょう?この企業グループの経営理念として「高い品質を保つことが最優先」であることは伝えてきたので、正直、二人の発言は突拍子もないものに聞こえました。
さて、このようなケースには正解はありませんが、筆者である私ならこうする。という前提で解説していきます。
まずはJustinについて。相手が意見をいってくれたことに感謝するポジティブな姿勢と、要点を繰り返したりしながら、意見を受けとめたと伝えます。
Justin, thank you for your comment. So you're saying that...
(ジャスティン、ご意見ありがとう。あなたが言っているのは...ということですよね。)
その後で、相手が答えやすいように、その背景や理由を尋ねます。ここでは、相手の意見にどんなに違和感があっても、自分の意見に戻さないことがポイントです。
Could you tell me a bit more about your concern with keeping the quality guidelines?
(品質ガイドラインを守ることで気になっていることをもう少し話してくれますか?)
その後で、双方の品質低下に関するリスク、メリット・デメリットや予想されることについて説明します。
I see your point. You feel that for the local customers, delivery speed is more important than a 0.1% decrease in quality. However, if our quality decreases by 0.1%, our customer complaints will likely increase by 5%, which means we'll have to hire one more customer service employee. What do you think about this?
(なるほど。あなたは、ここのお客さんにとっては、品質が0.1%下がることよりスピードのほうが大事だと感じているのですね。でも、もし品質が0.1%下がるとクレームが5%増えると予想されるから、CSスタッフを1名増員しなきゃいけません。これについてはどう思いますか?)
また、Sarahの主張には、自社のやり方が時代遅れと言われたことにはこだわらず、どんな改善アイデアがあるのかを聞き出すのが得策です。
Sarah, thank you for sharing your opinion. I'd be really interested to hear more about how you think we can change the way we control product quality.
(サラ、ご意見ありがとう。製品品質の管理方法は変えられるということについて興味があるので、もっと話してくれますか。)
相手の自己主張が強いなと感じてもヒートアップせず、その背景や理由や詳細などを辛抱強くオープンクエスチョン(回答範囲を制限せず自由な回答を求める質問手法)で掘り下げていくと、新しい気づきが生まれることもあります。
このプロセスで他のメンバーにも声をかけて巻き込み、皆で問題解決を考えていくのが良いと思います。他のメンバーの意見も聞きながら、どこが共通点・相違点なのか、メリット・デメリットの比較、妥協点やリスクなどを話し合います。さらに各人が得意なことを引きだして、役割分担し、解決策を決めていく多様性のあるチームを作り出せます。
結論にいたった場合でも、決定事項についてDo you have any concern about this? (これについて何か気になることはありませんか?)のように、あえて懸念事項がないかを再度聞くのもおすすめです。スタッフのなかには、シャイな性格の人もいるかもしれません。意見を言う場をあえてもう一度つくることにより、意外なリスク回避ができることもあります。
相手への興味を示し、反対意見でも意見を述べたことについてポジティブに反応し、オープンクエスチョンでその背景を掘り下げて、論点整理をする、落としどころを見つける、あるいは思いもよらなかったアイデアに発展させていく、こんな展開ができるとダイバーシティの活用につながっていくと思います。
英語力が高いからと言って、ダイバーシティ活用を意識しないかぎり、こうした話の展開はなかなかできるものではありません。ゆっくりでも、聞き直してでも、多様な意見を尊重して生かしていきましょうという姿勢は自然と相手に伝わるものだと思います。
ダイバーシティを活かすコミュニケーション術は《イノベーション創出》という点から益々注目されています。
次回は、いよいよ最終回。信頼関係を作るコミュニケーションです。