ホンダの新型「ヴェゼル」は音がいいクルマだ。「エンジンのホンダが作ったんだから、当然だろう」と思われた方、少し待っていただきたい。今回はエンジンではなく、オーディオの話をしたいのだ。新型ヴェゼルはホンダの技術者がこだわったサウンドシステムを搭載している。
チューンド・バイ・ホンダは車内にも
山中湖で開催された新型ヴェゼルの試乗会では、2種類のパワートレインである「e:HEV」(ハイブリッド)と純ガソリンエンジンを搭載するモデルにそれぞれ乗ってみて、どちらも優れたクルマであることがわかった。では、走り以外の点はどうか。
コロナ禍で生活様式はニューノーマルへと変化し、「密」を回避するためクルマでの移動が増えた昨今。となると、長い時間を過ごすことになる車内でいかに気持ちよく、より楽しく過ごせるかがますます重要になる。そんな状況もあってか、新型ヴェゼルのカタログには「こんな“車内”はほかにない」として、さまざまなアイデアやアイテムが紹介されている。今回はその中でもオーディオに注目し、エンジンや足回りだけではない“チューンド・バイ・ホンダ”の味付けを、実車に乗り込んで確かめてみた。
ホンダ純正「プレミアムオーディオ」とは
ロングドライブなどで長い時間を車内で過ごす時、お供になるのはやっぱり音楽だ。当然、ホンダだけでなくどのメーカーも、それを発生させるオーディオにはこだわっているはず。ただし、オプションとして用意されるのは、BOSE(ボーズ)やハーマンカードン、マッキントッシュ、マークレビンソン、バング&オルフセンなど、海外のハイエンド・オーディオメーカーのものであることがほとんどだ。
今回のヴェゼルにも、オプションとして高音質オーディオが用意されているのだが、カタログを見てもメーカーの名前が載っていない。単に「プレミアムオーディオ」としか書かれていないのだ。この分野を担当したホンダ第8技術開発室の手塚智章氏にその理由を聞いてみた。
「ホンダには、社内に音響専門のエンジニアがいるんです。耳で音の良し悪しを聞き分け、目標値として設定した音づくりを目指し、アンプやスピーカー、ウーファーのサプライヤーを探すという、プロデューサーのような仕事をする人です。通常、このあたりは音響メーカーに丸投げになるのですが、今回のようにホンダ独自で音のチューニングをしたのは約10年ぶりです。直近では電気自動車(EV)の『ホンダe』に続く2例目となります」
「例えば取り付け部の剛性に関していうと、ドアパネルの強度はホンダ、トヨタ、日産では皆違いますし、内装の素材に関しても同様です。各パーツの組み合わせが決まってからも、現場のスタッフは『コンパクトなヴェゼルの車体に大きなウーファーBOXを入れる場所はないし、こんなのムチャだよ』などと言いながらも、各部と調整して場所取りを行い、最終的には音質を落とさず組み込むことに成功しました。ヒトがいる空間にメカをどれだけ凝縮して入れるかという独自の『MM思想』(マンマキシマム、メカミニマム)はホンダの得意分野なので、担当者は頑張っちゃうんです」
ヴェゼルが搭載するプレミアムオーディオの構成を見ると、インストルメントパネル上部のセンタースピーカーに8cmケブラーコーン(有機繊維)スピーカー、フロント/リアのドアパネルに17cmケブラーコーンスピーカー、左右のAピラーとリアドアにアルミドームツィーター(マグネットはネオジウムを使用)、トランク左サイドに13cmBOXバスレフウーファーと、合計10個のスピーカーを使っている。音を増幅させるパワーアンプユニットには、DSP(デジタルシグナルプロセッサー)で各スピーカーを独立して駆動する10chのパイオニア製を採用した。
手塚氏によると、量産車の金型を造る直前までスピーカー取り付け部などの試作を続け、形状などを検討していたという。通常、試作は2回程度で終わるものらしいが、今回は合計で4回も行ったそう。採用したサプライヤーはパイオニアをはじめとする3社で、その音は、クルマのコンセプトである「移動が楽しいクルマ」にふさわしいものに仕上がったとのことだ。
実際の音は? 『September』を聴いてみた
ヴェゼルのカタログはプレミアムオーデオについて、「ここにしかない、音が鳴る。アーティストが作り出した音楽をそのまま再現する」と説明している。今回はスタンダードなオーディオを搭載する「G」グレードとプレミアムオーディオを搭載する「PLaY」グレードに乗ることができたので、同じ音源で聴き比べてみた。
選んだのは、筆者のAmazon Musicライブラリの邦楽の1曲目に入っている、原田知世による竹内まりやのカヴァー曲『September』だ。オリジナルをジャズ風にアレンジした楽曲で、出だしのエレクトリックベースの低音と彼女のふわりとしたヴォーカルが、ドライブにぴったりのなんとも心地よい曲である。これをiPhone12proからBluetoothで飛ばして再生した。
最初に聴いた「G」のスタンダードなシステムでは、同行した編集者も「これはこれでなかなかいいですね」との感想をもらしていたのだが、PLaYに乗り換えてプレミアムオーディオで再生したとたん、ぶっ飛んだ。イントロを奏でるベースとギター、キーボードの音が明確に分離していて、「からし色のシャツ~」で始まる彼女のちょっとハスキーで優しい声が、目の前で歌ってくれているように聞こえてきたからだ。これはイイ! 12.76万円(マルチビューカメラシステムとセットのオプション)ならば、ぜひ装着したいアイテムだ。
ほかにもある! ホンダ独自の装備
インテリアの装備面ではオーディオのほか、ダイヤルを回せば乗員に風が直接当たらなくなるアイデア空調「そよ風アウトレット」や、熱を従来比で50%カットするLow-Eガラスを採用した「パノラマルーフ」など、オリジナルなアイテムがそろっている。
コネクテッド面では、ゼンリンによるナビゲーション地図の「自動地図更新サービス」(自車位置や目的地付近をさりげなく更新してくれるナビ。ホンダ初)、スマホでドアロック解除やエンジンスタートができる「デジタルキー」(量産車初)、車内Wi-Fiなどが使える。
ナビ画面にはスマホのようにアプリを落として使用することができる。「ホンダアプリセンター」には使いやすいアプリが満載だ。例えば、全国で好きなラジオ局を聞くことができる「radiko」は筆者も普段から利用しているし、NAVITIMEが提供する「よりみちスポット検索 よってこ! by NAVITIME」では、ドライブの途中で立ち寄る場所の提案を受けたり、経由地を選んだり、滞在時間を設定したりしてナビのルートが設定できる。「AWA」はご存知の音楽ストリーミングサービスで、車内で同乗者たちと好きな曲を選ぶ作業ができるので、それだけでも楽しい時間を過ごすことができるはず。試乗した日は雨だったので、大好きな大瀧詠一の「雨のウェンズデイ」をAWAで聴きながらドライブした。
これらを「ホンダチューン」と呼んでいいのかどうかは読者の判断に任せるとして、新しい装備を詰め込んだ新型ヴェゼルが、ライバルを一歩リードする魅力にあふれたクルマであることは間違いない。