すでに3万台の受注を獲得したホンダの新型「ヴェゼル」だが、販売の内訳を見るとユーザーの90%以上がハイブリッドモデルを選んでいる。ということは、ガソリンエンジンのみで走るヴェゼルは、全体の数%しか売れていないということでもある。ヴェゼルを買う上で、あえてガソリンモデルにする意義はあるのか。試乗して考えてみた。

  • ホンダの新型「ヴェゼル」

    ホンダの新型「ヴェゼル」でガソリンエンジン車を選ぶ意義は?(本稿の写真は撮影:原アキラ)

もちろん安い!(相対的に)

つい先日の試乗会でホンダに聞いたところ、ヴェゼルの受注台数2.95万台のうち、93%は「e:HEV」(ホンダ独自の2モーターハイブリッドシステム)を搭載するいずれかのグレード(PLaY、Z 、Xのどれか)だった。つまり、ガソリンモデルを選んだユーザーは、たったの7%ということになる。新型車を買おうという人たちが、メーカーが推す最新のパワートレインを選んだというのは当たり前といえば当たり前だが、かたやガソリンモデルには、純エンジン車ならではのよさがあるはず。悪天候の中、山中湖畔の道路に乗り出してみた。

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  • 主にハイブリッド車に乗った新型「ヴェゼル」の試乗会で、短時間ではあるがガソリンモデルも借り出して試してみた

ガソリンモデルの「G」には、e:HEVと同様にFFと4WDという2つの駆動方式が用意されている。筆者が乗ったのは4WDモデル(255.97万円)だ。ここで価格差を確認しておくと、ヴェゼルはガソリンエンジン搭載車が227.92万円~249.92万円、ハイブリッド車が265.87万円~329.89万円。もちろん、HVに比べて安いというのがガソリンモデルの大きな強みのひとつである。

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    試乗したガソリンモデルは「プレミアムクリスタルレッド・メタリック」と呼ばれる陰影のある赤に塗られていた。ホワイトやグレー、ベージュなど渋めのカラーが多い新型ヴェゼルの中にあると、雨に濡れたボディが一層目立っている。ちなみに、ハイブリッド車でも赤のボディカラーは選べる

「G」が履く「ブラック+切削」の16インチアルミホイールと215/60R16タイヤ(こちらの銘柄はダンロップ製エナセーブEC300)の組み合わせは、立派な18インチのホイールを履いたe:HEVの上位モデルに比べると、ホイールハウスとタイヤとの隙間が大きく見えて、チョット優しい感じを与える。「G」のエンブレムは車体のどこにも付いていない。リアハッチ右側のスペースに「e:HEV」のエンブレムがないことにより、このクルマが「G」であることを識別できる。

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    「e:HEV」のエンブレムが付いていないことがガソリンモデルの証だ

インテリアはブラック一色。シートの表面はざらりとした感じのファブリックで、幾何学模様のラインを入れることで見た目に変化をつけている。4WDモデルにはアウトドアでの使用を想定し、前席左右のシートヒーターや親水/ヒーテッドドアミラー、熱線入りフロントウインドウなどを装備する。

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  • インテリアはブラック一色

コックピットのメーターは、左側が6,800rpmからレッドゾーンとなるタコメーター、右側がスピードメーターというアナログの丸型2眼式で、その間にデジタルのモニター部が収まるレイアウト。これはシンプルでとても見やすい。フルオートエアコン(左右独立ではない)や「そよ風アウトレット」、「チップアップ&ダイブダウン」のリアシートなども装備している。このあたりでハイブリッド車との間に差はなく、不満は出ないはずだ。

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    見やすいメーターレイアウト

100キロも軽い!

ボディサイズや最低地上高がほぼ変わらないのは当然として、e:HEVモデルと大きく異なるのはその車重だ。重い電池やハイブリッドシステムを搭載してしないので、タイヤや装備がほとんど同じのe:HEV「X」グレードと比べると、ガソリンモデル「G」は100キロも軽い1,330キロ(FFは1,250キロ)となっている。

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    ハイブリッドと比べると100キロ軽いガソリンエンジン搭載モデル

搭載するパワートレインを見比べてみると、排気量は1.5Lと同じながら、e:HEV用の「LEC-H5型」アトキンソンサイクルエンジンとは異なる「L15Z型」の直列4気筒ポート噴射式i-VTECエンジンを採用している。性能は最高出力118PS(87kW)/6,600rpm、最大トルク142Nm/4,300rpm。パワー的には先代に比べて11PS、9Nm低い数値になったが、エンジン自体の静粛性は向上しているし、走りのほうは最終減速比を5.436とローギア化することで対応している。トランスミッションはステップダウンシフト付きのCVTを採用する。

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    1.5リッターのL15Z型直列4気筒ポート噴射式i-VTECエンジンを搭載する「G」

その走りについて結論からいうと、本当にすばらしかった。さすが「エンジン屋」のホンダらしく、エンジンのパワーと車重のバランスが上手に取れていて、悪天候の中でも加減速が滑らかで気持ちいい。廉価モデルだからといって遮音材の量をケチっている感じもなく、防音もしっかり。「FFモデルに比べて少し柔らかめにセッティングにした」(開発担当者)というサスペンションも絶妙な乗り心地をキープする。4WDモデルなので、深い水溜りを通過する際も常にどこかのタイヤが接地して駆動し続けているという感覚が伝わってきて、安心感があった。

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    さすがはエンジンのホンダ、新型「ヴェゼル」の「G」グレードも走りはすばらしかった

トランスミッションのCVTも、いい仕事をしているようだ。アクセルを強く踏み込まない限り、エンジン音と加速感にギャップが出る「ラバーバンドフィール」が顔をのぞかせることはない。シフトレバーを最下段まで下げると「S」レンジに入り、下り坂などで減速するとシフトダウンするような動きまで見せてくれる。ただし、ひとつ気になったのは「D」→「S」へのシフトチェンジ。ロックも何もなく軽くスライドするので、「N」→「D」のシフト時に勢い余って「S」まで入れてしまうことが何度かあった。

試す時間がなかったけれども、シフトレバー下にある「ヒルディセントコントロール」スイッチを押せば、アクセルとブレーキを自動調整して急坂の下り時に設定した速度がキープできるようになる。こちら、従来モデルでは「WET」と「悪路」までだったものが、新型では「雪道」まで対応できるよう作動領域が広がったとのことだ。

トータルでその走り味に感心したガソリンモデルの「G」グレード(4WD)は、新型ヴェゼルの中では隠れた名作かもしれない。