ある企業の営業部では、新入社員の離職率が問題になっていました。最初のテレアポ(新規開拓)がつらいと「脱落」してしまうのです。

根性論でいえば、「甘い」ということになるのかもしれません。しかし、きちんと新人を戦力化するのが上司・先輩の役割です。

  • 新人の教育はスムーズにできていますか?

新人すべてがメンタル強者ではない

テレアポは、断れるのが当たり前。時につらい当たられ方をすることもありますね。確かに「しんどい側面」があるのも事実でしょう。

ただ「しんどさ」を乗り越えてこそ身に付く強さや能力もあります。前のめりで負けん気の強いタイプの若手には、「乗り越えさせる」経験を積ませる育成方法でも効果があるかもしれません。

しかし、そうではないタイプが「つらい、うまくいかない……」といった経験ばかりを積むと、自己効力感が失われ、何事に対しても「どうせ無理」という思考パターンができてしまいます。

新人に仕事を任せる

そこで、求人広告代理店のA社の手法を紹介します。離職率が低く、育成もうまくいっている同社が取り入れている「バックワード・チェイニング」という、新人に仕事を任せる際に役立つやり方です。

「同社の営業職の仕事」を説明すると、以下の流れになります。

1.顧客とのアポ取り
2.顧客での(自社)紹介
3.顧客の課題のヒアリング
4.顧客への商品の提案
5.受注
6.契約の締結
7.納品
8.顧客に対する運用のアドバイス

通常は1→8の前工程から後工程で、新人に経験を積ませていく「フォワード・チェイニング」という手法が多いでしょう。

ただ、この手法は商品や運用事例などに関する本人の知識が求められ、それらを蓄積できるまでは業務負荷が大きくなりがちです。

強く前向きなメンタルを持ち、自分で工夫できるタイプなら、失敗をバネに這い上がろうとするかもしれません。そうでないと、「つらさ」「失敗体験」ばかり残るリスクがあります。

新人は成功体験の積み重ねが大切

そこで、A社では、「バックワード・チェイニング」という後工程から前工程へ、つまり8→1の順番で経験を積ませる手法を取り入れています。

まず先輩が「8.運用アドバイス」を既存クライアントへ提供する業務を新人に経験させます。通常は「最後の経験」からスタートし、7→6→5……の順に仕事を任せ、経験を蓄積してもらうのです。

こうすると、「クライアントや自社に貢献できる『自分の仕事の最終イメージ』を持てる」「仕事の全体像をつかみやすい」「事例などのノウハウが蓄積されやすい」「比較的負荷の軽いところから『仕事の達成経験』を積める」といったメリットがあります。

このように経験を積んでいくと、仕事を前向きにとらえ、つらいテレアポの精度が上がるのではないでしょうか。

「打たれ強いと言えない」新人を育成するには、小さな成功体験を積み上げることが必要です。今回のような、任せる順番を変えてみるのも一つの手です。