――米田さんは、Kis-My-Ft2さんの番組もずっと担当されていますが、長年見てきたメンバーの魅力は何ですか?

収録が終わった後やオンエアを見たりした後に、「あのシーンはどうすれば良かったと思います?」とか、「ああいう編集にしたのは何でですか?」とか、終わりっぱなしにしないで疑問・質問がガッツリ来るのがキスマイの皆さんの一番好きなところです。玉森(裕太)さんは『10万円でできるかな』じゃない自分がゲストで出た番組でも質問が飛んできますし、北山(宏光)さんは話した後に家に帰って、やっぱり納得いかなかったんでしょうね、マネージャーさん経由で電話がかかって来て「あのシーンなんですけど、やっぱり僕は…」って(笑)

デビューした年に始まった『濱キス』という番組からずっと一緒にやらせてもらっていますが、どの番組・企画に対しても、お客さまではなくて、自分たちで面白くするものなんだというプレイ―ヤー意識がすごく強い人たちだと思います。その最たるものが宝くじやガチャの検証企画に出ていて。今、芸人さんも含めて宮田(俊哉)さんより面白くスクラッチ宝くじを削れる人はこの世にいないと思います。

■自分の進路を変えた『くりぃむナントカ』

――東京理科大で大学院まで進まれていたと伺ったのですが、そこから就職先にテレビ局を選ばれるのは珍しいですよね。

大学院ではずっと自動車のバンパーを支える円柱の研究をしてたんですけど、就職課の先生に自己分析を勧められてやっていくうちに、自分はその時にテレ朝でやってた『くりぃむナントカ』という番組がとにかく好きで、来週やる「芸能界ビンカン選手権」(※)が楽しみすぎて、そのことに頭の中が支配されちゃってることに気づいたんです。そこから自分が“テレビがすごく好きだった”と分かって行って…という感じです。

(※)…出場者たちがロケ場所でのさまざまな間違いを当て、敏感度を競う企画。

  • くりぃむしちゅーの上田晋也(左)と有田哲平

――この連載では毎回、「ご自身が影響を受けた番組」を伺っているのですが、間違いなく『くりぃむナントカ』ですね。

自分の進路を変えた存在なので、そうですね(笑)。入社当初は違う番組に配属されてたんですけど、どうしても『くりぃむナントカ』がやりたくて、演出の藤井(智久)さんに思いの丈をぶつけたら、トイレの中で話しかけてきたことに怒られましたけど(笑)、その後本当に『くりぃむナントカ』に配属してくれました。夢のような時間でした。

企画が面白いのはもちろんなんですが、演者さんの“この番組でしか見せない感じ”の顔がすごく好きだったんですよね。有田(哲平)さんの“番組との共犯者っぽい顔”とか、当時司会者としての地位を確立し始めていた上田(晋也)さんの“イジられるのがうれしそうな顔”もそうですし、土田(晃之)さんも次長課長さんもバナナマンさんも、この番組には心を許してるんだろうなぁというのが素人ながらに伝わってきて、大好きでした。

それが原体験になっていて、他のディレクターの方もみんなそうだと思うんですけど、「『帰れマンデー』のサンドウィッチマンが好き」とか「『家事ヤロウ!!!』の中丸くんいいよね」って言われると、めちゃくちゃうれしいです。でも、今すごい悔しい番組があって…

――どの番組ですか?

テレ朝でやってる『伯山カレンの反省だ!!』なんですけど、あの番組の滝沢カレンさんを超えられないんですよ。カレンさんは『帰れマンデー』にも結構出ていただいて、毎回面白いところが引き出せていると思うんですけど、あの番組はもう1個上をいってる気がするんです。他の番組では“天然”としてイジられることが多いカレンさんが、イジる側にも回ったりしてて、番組に対して心を許してる感じがして(笑)。そうやって、演者さんの表情を見てうれしかったり、嫉妬したりするのは、『くりぃむナントカ』からかもしれません。

■失いたくないテレビ番組作りの演出

――今後、こういう番組や作品を作っていきたいというものはありますか?

やっぱり『くりぃむナントカ』が好きでテレビの世界へ来たので、お笑い色が強い番組もやってみたいなと思いますね。あと、ゲームを作ってみたいというのもあって、例えば「ゴチになります!」とか「帰れま10」とか、番組で作ったゲームがずっと人気企画として続いてるって、すごいと思うんですよ。最近、そういう番組発のゲームが発明されてないなと思って。どうやって作ったらいいのか全然分からないんですけど(笑)、『めちゃイケ』の「しりとり侍」みたいな子供が楽しめるものとか、ブームになるゲームを作ってみたいです。

――最近はタレントさんがどんどんYouTubeチャンネルを立ち上げたり、動画配信サービスの伸びも加速していたりしますが、その中でのテレビの役割はどのように認識されていますか?

テレビはどうしてもリアルタイムの視聴率が優先される時代が長かったので、磨いて来た演出方法の中には、次の展開に対しての「あおり」とか「ふり」とか言われる、“今”見てもらうためのテクニックがたくさんあると思うんです。でも、今後はアーカイブとして“見返してもらえる価値のある”コンテンツが重要視されていく思うので、そうなると“今”見せるための技術を磨くよりも、作品としての価値を高めようという流れになってくると思うので、それは結果としてコンテンツにとって良いことなんじゃないかなと思います。

ただ、失いたくないテレビの演出もあって。僕がテレビのすごく好きなところは、自分の知見の外にあったものを面白く提案してくれるところなんです。“今”見てもらう工夫の一方で、受動的に見られるメディアだからこそ、新しい価値を分かりやすく提案するという工夫もすごく磨かれてきたと思うんですよね。その工夫は、アーカイブを見返す流れになったとしても、絶対にあるべきだと思います。自分の好きなものを深堀りすることに関して、インターネットはすごく優秀ですが、自分の守備範囲の外にあった価値に出会えるテレビ番組作りの演出は、失いたくないし、磨いていきたいなと思います。

――いろいろお話を聞かせていただき、ありがとうございました。最後に、気になっている“テレビ屋”をお伺いしたいのですが…

何の面識もなくて、一方的に憧れてるんですけど(笑)、日テレで『天才!志村どうぶつ園』『ザ!鉄腕!DASH!!』『幸せ!ボンビーガール』や『50日間で女性の顔は変わるのか!?』をやられている清水星人さんです。それぞれの番組ごとにまるで憲法があるような、番組コンセプトとはまた違う次元の“思想”とも言えるものを感じます。動物にも個性があって人間と共存できることを伝えたい!とか、地方から日本を元気にしたい!とか、貧乏でも楽しい!とか。

番組を立ち上げるときに、そういったものを考えたり提示したりしても、だんだんやっていくうちに揺らいだり変わっていったりするんですが、清水さんの番組を見ていると、その憲法や思想みたいなものが長寿番組でもずっと変わらないようにお見受けして。どうやって番組を作っていったらそうなるんだろうって、めちゃくちゃ興味あります。

あと、ナレーターに『ボンビーガール』で山咲トオルさん、『50日間』で岩下尚史さんとかクセのある方を起用したり、普通ならガイドとなるBGMを入れるシーンで曲を流さなかったり、登場するスタッフの方にも個性を付けて描いたりとか、演出の手法にすごく独自性があって…。どんなお考えで番組を作ってるのか、すごく聞いてほしいです。

次回の“テレビ屋”は…

日本テレビ『天才!志村どうぶつ園』『ザ!鉄腕!DASH!!』『幸せ!ボンビーガール』総合演出・清水星人氏