企画はチョイスするほうに腕がいる

――最近のバラエティ番組について、思うところはありますか?

たぶん視聴者の人と一緒だと思うんですけど、1つの企画が当たると、みんな同じものを始めて、大ヒットを狙うより、ギリギリ10%取れれば二番煎じでも三番煎じでもいいやっていう番組がすごく増えてると思います。バラエティが視聴率をとるのが苦しい時代だからそうなるんでしょうけど、危機感を覚えますよね。

――最近は『池の水ぜんぶ抜く大作戦』(テレビ東京)が当たって、「『池の水』みたいな企画」という発注が来るようになったといいますよね。

まさにそうですね。編成からそんなオーダーが来たりするんだけど、『池の水』みたいな企画が0から出てきたら、本当にGOサイン出たのかな?って思いますよ。あれは伊藤(隆行)さんという馬力のあるプロデューサーだから実現できたと思います。そういう意味で言うと、10月からレギュラーになる『ポツンと一軒家』(ABCテレビ)なんて、最近一番のヒット番組だと思いますよ、『イッテQ』の裏だけど(笑)

作家の中野(俊成)に聞いたら、前身の番組の数字が悪く打ち切りが決まったときに、やりたいことをやって終わろうと会議で企画を提案したら、翌週、若いディレクターが「こないだ言ってた企画、撮ってみました」と自主的にロケしてきて、見たら面白くて、その企画を放送してみたらいきなり数字を取って、再度、この秋からレギュラーに復活という感動的な話なんですけど、もし『ポツンと一軒家』が0から編成に企画書として提出されたとしても「そんな家あるの?」とか「ヤバい家なんじゃないの?」とか言われて捨てられると思うんです。紙だけだったら、ネガが目立つ企画だし。だから番組の企画って、考えるよりもチョイスするほうに腕がいるんだと思いますね。

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    『所&林修のポツンと一軒家』(10月スタート、ABCテレビ・テレビ朝日系 毎週日曜19:58~ ※一部地域除く)
    (C)ABCテレビ

ストライクゾーンを広くする作業が必要

――今後、こういう企画を作ってみたいという構想はありますか?

『関ジャム』って音楽の専門家がプロ目線で教えてくれる番組じゃないですか。テレ朝って『GET SPORTS』とか『フルタの方程式』とかプロが教えてくれるスポーツ番組のレベルもダントツに高いんですけど、例えばその映画版みたいなのができないかなと思ったりするんです。「映画監督が絶賛する実はすごいあの映画」とか「俳優たちが嫉妬するあの俳優のこの演技」とか。僕、基本的にリスペクトが好きなんですよ。別に、映画に限らず、漫画やアニメでも、小説でも、建築でも、ファッションでも何のジャンルでもいいんですけど、同業者のプロが何でそれが素晴らしいかを教えてくれる番組。今の世の中ってやたら人の揚げ足をとったり、誰かが何かミスをしでかすとみんなで叩き潰したりする感じじゃないですか。だから、そういう番組ができるといいなと思ったんですけど、たぶん数字取らないから通らないと思います。この前、藤城にも言ったんだけどスルーされちゃってるから、さてはアイツ、乗ってねえな(笑)

――『アメトーーク!』の「芸人ドラフト会議」とか、見てるとワクワクしますよね。

あとは、地雷のギリギリを行くような番組もやらなきゃいけないなと思いますね。今、コンプラだらけで、「あれをやったらこんな風に怒られる」って全部止められちゃう。伊藤さんや土屋さんも、よく「塀の上を歩く」とおっしゃいますけど、過激な企画をやるというよりも、ここまでやっていいんじゃないかっていうことを誰かがやっていかないと、どんどんどんどんストライクが狭くなりますからね。ストライクゾーンを広くする作業というのを誰かがやらないといけないと思ってるんです。

――TBSの藤井健太郎さん(『水曜日のダウンタウン』演出)が孤軍奮闘してる感じですかね?

そんな気がしますね。うちの子供、高校生なんですけど、『水曜日のダウンタウン』はリアルタイムで見てます。夜10時前になると、母親が「もうすぐ始まるよ」と声かけて、テレビの前に慌ててやってくる。そんな昭和な光景は久しぶりに見ましたよ。僕は、作家の興津(豪乃)にも言ったんですけど、あの番組のラテ欄を見るのが好きなんですよね。どことも似ていない。独自の道を歩んでる(笑)。普通の番組のラテ欄って、数字の匂いのするワードを散りばめたり、いろいろと保険をかけたりとか、何となく会議やプロデューサーの気持ちが見えるんだけど、そんな中、『水曜日のダウンタウン』のラテ欄は輝いて見えますね。あれと、テレ朝の舟橋(政宏)くんがやってる『激レアさんを連れてきた。』のラテは楽しみです。レアすぎて腹壊しそうな文字が踊ってますもんね(笑)

番組は“総合演出”で見てほしい

――テレビ離れが進んでると言われる高校生が、毎回リアルタイムで見るって、すごいですね。

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最初から見てた訳じゃないから、それまでの回はYouTubeで一気に見たみたいです。そこは今の高校生ですよね。そうすると関連動画で同じような香りがする番組を探し、『クイズ☆スター名鑑』を見つけたり、『カイジ』のバラエティ版を見て「これ、同じ人が作ってるでしょ」って言ってくるんですよ。『うわっ!ダマされた大賞』を見ても、「これ『イッテQ』の人が作ってるでしょ」とか言ってきます。

映画を監督で見るように、本当はバラエティも総合演出で見てほしいんですよね。スターディレクターや名物ディレクターがどんどん出てきてほしい。名前が看板になると、昔の伊藤さんや土屋さんみたいに「あの人の番組だからしょうがないか」ってなってくるじゃないですか。今だとナスD(『陸海空 地球征服するなんて』の友寄隆英氏)なのかな。「よく分からない企画書だけど、たぶん面白いんでしょ」で通してもらうとか、「アイツの今回の新番組、派手にスベってるなぁ(笑)」とか、もっといろんなことが寛容になってほしい。

――ご自身が影響を受けた番組を1つ挙げるとすると、何ですか?

記憶に残ってる影響を受けた番組は、たけしさんがやってた『タケちゃんの思わず笑ってしまいました』(83~87年、フジ)ですね。でも、作家になってからは、人の番組はなるべく見ないようにしてるんですよ。面白い番組って、どうしても影響を受けるじゃないですか。「あ、今こいつ、あの番組に影響受けてるな」ってバレちゃうんですよ。バラエティの方法論は進化していくから、多少は見ますけど。サンドウィッチマンの『病院ラジオ』(NHK)みたいなすごい番組もたまにあるから。でも、テレビを見てテレビを作ってたら、それ以上にはならないなと思って、昔はなるべく映画や本から発想するようにしてました。今はその時間すらなくなったけど。

――いろいろお話を聞かせていただき、ありがとうございました。最後に、気になっている“テレビ屋”をお伺いしたいのですが…

『有吉ゼミ』をやってる日テレの橋本和明さん。あの人不思議なんだよなぁ。誰とも似ていないニュータイプ。気づいたら坂上忍さんが家買おうとしてたり、ヒロミさんがリフォームしてたり、タッキー(滝沢秀明)が黙々と働いてたり、田中美佐子さんが全国で漁をしてたり...他にもなかなかのオールスターがものすごく労力を割いて、しかも結果、誰も損をしてないんですよね。みんな素敵な一面が出てるし、どんどん仕事が舞い込んでいる。橋本マジックというか。どうやって口説いたんだっけ、そのあたりのパワーが面白いですよね。他にも『マツコ会議』でおしゃれな画作りをするし、『有吉の壁』に『日本アカデミー賞』もやってるし、バカリズムやシソンヌじろうのドラマを撮ったりするし、この前の『24時間テレビ』も総合演出をやったし、とにかく引き出しが謎なんだよな。それに、橋本さん、東大出身なんだけど、会議で壁にぶち当たると、よく「う~ん、解けない」って口に手を持っていって「解けた」とか「解けない」とか言うんです。え、企画は数学の問題なの?フェルマーの定理かと思いましたよ(笑)

伊藤さんは『元気が出るテレビ』と『ねるとん』をやってましたけど、僕は昔からディレクターはベクトルの違う2つの番組をやるべきだと思っていて、それが振り幅にもなるし、片方の番組を客観的にも見れる。やってみたいと思ったことに対して、どっちがいいか別の角度、別のアプローチで見ることができるし、それが余裕にもなる。そういった話を5年ぐらい前、伊藤さんに「だから伊藤さんはよかったんですよ」と言ったら、本人も「なるほど!」と言ってましたけど(笑)。伊藤さん、大ヒット企画「ダンス甲子園」に続く第2弾として考えたのが「野球甲子園」ですからね。人は死ぬほど自分を追い込んで考えに考え抜いた時、2周も3周もして全てのデータが消えるんだなと思いました。その領域に僕は達していない。まだまだですよ。

次回の“テレビ屋”は…

日本テレビ『有吉ゼミ』『マツコ会議』演出・橋本和明氏