テレビ解説者の木村隆志が、先週注目した“贔屓”のテレビ番組を紹介する「週刊テレ贔屓(びいき)」。第86回は、8月30日に放送された日本テレビ系バラエティ番組『沸騰ワード10 取り憑かれた芸能人&たけのこ王2時間スペシャル』をピックアップする。

同番組は「あらゆる業界の沸騰ワードをのぞき見れば、現代日本のリアルな姿が見えてくる!!」がコンセプトで、2015年10月にスタートしたリサーチバラエティ。各業界のトレンドをドキュメントタッチでテンポよく見せる構成がウケて根強い人気がある。

今回の放送は、「ニコル&みちょぱがタケノコ王へ突撃」「出川哲朗が取り憑かれたものとは?」など、ど真ん中の企画がそろうだけに、番組の現在地点を探っていきたい。

  • 『沸騰ワード10』MCのバナナマン

■ナレーション&テロップに込めた願い

番組冒頭、「真夏の初解禁3連発スペシャル」というナレーションが聞こえてきた。さらに、「出川哲朗の取り憑かれた私生活に完全密着。さらにあの大物芸能人も緊急参戦」「そして、ニコルとみちょぱが不仲説を吹き飛ばし、タケノコ王と幻食材を追う」と、いかにも自信満々な様子でブチ上げる。

ところが最初のコーナーは、その2つではなく、「まずは、街に見かける謎の行列や人だかり。一体何をしているのか? 人の集まる沸騰イベント大調査」だった。

次に映し出されたのは、「バラエティ初解禁! 福井県の田舎町に2万人が殺到! 燃え盛るヤグラドラゴン」。画面いっぱいに広げたテロップは、青、黄、赤の立体文字で、背景はミラーボールのようにキラキラ。「ここまでデコレーションするか?」と思わせる派手さと、それで押し切ろうとする勢いこそが、この番組のカラーだ。

「ヤグラドラゴン」は、市販花火を30万発ぶっ放すという街おこしのイベントで、2万人が殺到するなど、すでに17年続いているという。ド迫力の花火大会であるにもかかわらず、花火師はいないなど、何かとエッジの立ったイベントだった。

15分あまりで「ヤグラドラゴン」は終了し、いよいよ2大メインコーナーへ。「あの超人気芸能人があるものに取り憑かれているという情報をキャッチ。いったいその人物とは?」という映像が流れたが、それが出川であることは冒頭で知らせたはずだ。

その後も、「はたして出川は何に取り憑かれているのか?」「羽田空港のスイートチェックインをバラエティ初解禁」「竹富島に取り憑かれた出川哲朗55歳」「いったいこの島の何に取り憑かれているのか?」などのナレーション&テロップで、視聴者の期待値を上げようとする様子が感じられた。

CM前の「取り憑かれた出川哲朗! いったいどこへ向かうのか!?」「はたして出川が言う大物芸能人とは誰!?」「さらに中岡が謎の号泣」というナレーション&テロップも含め、終始あおりまくり。このような演出には、「やりすぎ」「あざとい」という批判がつきものであり、作り手たちにも多少の葛藤はあるだろう。

ただ、「やれることはすべてやる」「テンションを下げさせないぞ」「どうかチャンネルは替えないで」という必死さがこの番組を支えているのではないか。

■休日に突入する金曜夜のファミリー向け

結局、出川が竹富島に取り憑かれている理由は、「実家・横浜で田舎(故郷)がないから」であり、旅の相棒は“大物芸能人”ではなく親友の中岡創一だった。

2人の旅は「レンタサイクルで島をめぐり、ビーチで泳ぎ、名物料理を食べ、小中学校で地元の子どもたちとふれ合い、リゾートホテルに泊まる」という何てことのないものだったが、爆笑ロケに変えてしまうのは、さすがとしか言えない。

続いて、藤田ニコル&池田美優とタケノコ王のコーナーへ。ニコルとみちょぱは、雑誌『Popteen』時代からの大親友であるにも関わらず、2人だけの共演はテレビ初。さらに、「幻食材ハンター 静岡のタケノコ王」は8カ月ぶりの登場と、番組きっての人気キャラながら、久々であることに驚かされる。

タケノコ王は登場直後、ディレクターに「何で最近来なかったの? 半年ぶり以上だら。ずいぶん俺のことほっといてくれたな。『沸騰ワード』も囲ってると思って安心したら大間違いだぞ!」とクギを刺して笑わせる。どこまでも正直で、思っていることが顔や口に出てしまう裏表のない言動は、芸能人同士の予定調和に慣れた現在の視聴者に最も好まれるキャラクターだ。

その後3人は、山梨のキノコ王&鬼嫁と合流して、幻食材「森の貴婦人」探しへ。5時間のタイムリミットがある中、ハナビラダケ、モリノカレバタケなどのレアキノコを見つけながら山をひたすら登り、標高2,000mに到着。ラスト15分で、ついに森の貴婦人・タマゴタケを発見し、タケノコ王が作った全長50mの流しそうめんとともに味わうシーンで番組は終了した。

異色の花火大会、出川哲朗と竹富島、ニコル&みちょぱ×タケノコ王。いずれも子どもから中高年までの幅広い年齢層に対応したコーナーであり、なかでも「休日に突入する金曜夜に、家族で安心して見られる」という意味合いは大きい。

■番組名と内容が違っても気にならない

番組がスタートした2015年は、ホテル、航空、飲食店、スーパー、インテリアなど、各業界を掘り下げたコーナーが中心だったが、2017年ごろから「取り憑かれた芸能人」がメインになった。

事実、今年だけでも、「味噌ラーメンをこよなく愛する堀田茜」「JALのステータスポイント集めに取り憑かれたサバンナ・高橋茂雄」「週4立ち食いに行く佐藤栞里」「週1で通うコストコマニアの矢田亜希子」などが放送されてきたし、出川哲朗の竹富島ロケが、かつてのレギュラーコーナー「沸騰島」ではなく、「取り憑かれた芸能人」だったこともそれを証明している。

「芸能人の知られざる一面を引き出す」というコンセプトは、『人生が変わる1分間の深イイ話』『有吉ゼミ』『しゃべくり007』『踊る!さんま御殿!!』『今夜くらべてみました』『行列のできる法律相談所』など日テレの十八番。しかし、この番組は芸能人だけでなく、タケノコ王、怪人コスパ男、はんこ対決などの超個性派一般人がミックスされているため、互いの良さを引き立て合うようなバランスの良さがある。

もはや番組名の「沸騰ワード」でも、「ワード10」でもないのだが、それほど気にならないのは、タケノコ王をはじめとする「本当に面白い人」が出演しているからだろう。賢明な視聴者たちは、「この番組はときどきスタッフが手がける台本や演出を超えた瞬間が見られる」ことを知っている。

だからこそ芸能人たちは、負けじと取り憑かれた姿を見せようと奮闘するし、視聴者にとっては、わざわざリアルタイムでテレビ番組を見る理由になり得るのではないか。

サスペンダー姿で現場を駆けめぐる沸騰レポーターに、元気で、明るく、貪欲な朝日奈央や沙羅などを起用していることも含め、随所に日テレらしい抜け目なさを感じてしまう。

■次の“贔屓”は…ゲスト・竹中直人で波乱必至か『有田Pおもてなす』

くりぃむしちゅーの有田哲平

今週後半放送の番組からピックアップする“贔屓”は、7日に放送されるNHKのバラエティ番組『有田Pおもてなす』(総合 毎週土曜22:10~)。

コンセプトは、「くりぃむしちゅー・有田哲平がプロデューサーとなって、ゲストを喜ばせるために、この番組でしか見られないオリジナルネタを生み出す」というもの。有田Pがゲストの趣味嗜好をリサーチして好みのネタに仕上げていくのだが、有田らしいトリッキーなプロデュースで笑いの幅を広げている。

今回のゲストは、かつてコメディアンとして活躍していた俳優・竹中直人だけに何かと波乱含み。ハナコとライスが「竹中の名ネタ“笑いながら怒る人”をコントに採り入れるのか?」など見どころは多い。

■木村隆志
コラムニスト、テレビ・ドラマ解説者。毎月20~25本のコラムを寄稿するほか、解説者の立場で『週刊フジテレビ批評』などにメディア出演。取材歴2,000人超のタレント専門インタビュアーでもある。1日の視聴は20時間(2番組同時を含む)を超え、全国放送の連ドラは全作を視聴。著書に『トップ・インタビュアーの聴き技84』『話しかけなくていい!会話術』など。