テレビ解説者の木村隆志が、先週注目した“贔屓”のテレビ番組を紹介する「週刊テレ贔屓(びいき)」。第85回は、24~25日に放送された日本テレビ系特番『24時間テレビ42 愛は地球を救う』をピックアップする。

42回目を数える今年のメインパーソナリティーは嵐、チャリティーパーソナリティーは浅田真央、総合司会は羽鳥慎一と水卜麻美アナ。令和という新たな時代になり、チャリティーマラソンが駅伝方式になるなど、いくつかの変化が予想されている。

近年は感動と同等以上に、チャリティー番組としての意義を問うような声も飛び交っているだけに、ポイントをかいつまんで掘り下げていきたい。

  • 『24時間テレビ42』総合司会の水卜麻美アナウンサー(左)と羽鳥慎一

■駅伝への変更が功を奏した理由

オープニングは、東日本大震災の被害が大きかった宮城県東松島市に嵐の松本潤が1人で現れ、「人と人 ~ともに新たな時代へ~」という今回のテーマを丁寧に紹介した。一方、メイン会場の東京・両国国技館には、大野智、櫻井翔、相葉雅紀の3人のみ。二宮和也は24時間駅伝のスタート地点にいるなど、嵐のメンバーを分散させるアクティブな形で幕を開けた。

そこで明かされたのは、「駅伝スタートまでに映った誰かが4人目のランナーである」こと。約1時間半後に4人目は水卜アナであることが発表されたのだが、最も早い6月上旬から練習をはじめるなど、もともと彼女ありきの企画だった様子がうかがえる。

水卜アナは「総合司会が走るのは初めて」「日テレの社員が走るのも初めて」という事実を自覚し、「私が走ることをみなさまがどう受け止めるのだろう…」という不安を抱えていた。芸能人ではない日テレの社員を、例年のように1人で走らせるのは、暑さを踏まえても、明らかにやりすぎ。

「初めて」というインパクトがあり、総合司会との兼任が可能で、日テレの社員が出しゃばりすぎず、暑さ対策にもなり、さらに、日本人が好きで箱根駅伝の撮影ノウハウがある駅伝方式は、あらゆる点で理にかなっている。

当日まで4人目のランナーを明かさず、「4人目は誰?」「20時ごろ発表」と繰り返しあおる演出は、多くの人々に視聴率狙いのあざとさを感じさせてしまった。しかし、結果的に水卜アナの好感度と笑顔が、そんなネガティブなムードを打ち消した以上、それなりに成功と言っていいのではないか。

ただ、看板アナとはいえ、「一社員に重大な責任を負わせ、秘密を背負わせる」という戦略は、「日テレはブラック企業」と言われる炎上と紙一重。走り終えてすぐ国技館に戻り、幸せそうな顔で進行を務めたほか、翌朝の『スッキリ』出演も含めて今年の『24時間テレビ』は水卜アナが事実上の主役であり、そのポテンシャルに救われた感が強い。

■「何でもアリ」のチャリティー番組

駅伝以外のコーナーをざっと挙げていくと…

「松本潤が震災復興の祈りを込めた和太鼓と花火を応援」「櫻井翔が下半身まひとなった少女のピアノを応援」「二宮和也が義手の野球少年を応援」「大野智が義足の少女によるダンス応援」「相葉雅紀が障害を抱える少年のスポーツアートパフォーマンスを応援」「浅田真央が耳の不自由な少女たちのタップダンスを応援」「土屋太鳳が難病少年のアルプス登山を応援」「羽生結弦と松任谷由実が北海道胆振東部地震被災者をスペシャルコラボショーで応援」「有働由美子が視覚障害のある少年の1500m走を応援」などの応援企画がズラリ。

さらに、「『イッテQ!』メンバーが子どもたちの錦江湾横断遠泳を応援」「南原清隆ら『ヒルナンデス!』メンバーが島で唯一の少年が夢見る野球大会を応援」などのレギュラー番組連動企画。

「嵐×高校生ブラスバンド甲子園応援ソングメドレー」「ジャニーさんの想いを歌いつなぐジャニーズ名曲メドレー」「嵐が20m最速フライングディスクリレー、吉田沙保里が1分間最多イス座り、イモトアヤコと子どもたちが長縄跳び最多人数のギネス記録挑戦」などの生放送の臨場感あふれるエンタメ企画。

「『嵐にしやがれ』生スペシャル」「生『しゃべくり007』」「『笑点』大喜利」「相葉雅紀からメンバーへの手紙」などの嵐を軸にしたバラエティ企画。

朝方放送の「復活!ズームイン朝!!歴代MC集合」で復活したウィッキーさんのワンポイント英会話なども含めて、“何でもアリのチャリティー番組”というスタンスは例年通りだった。

さすが作り慣れているだけあって破綻こそなかったが、令和の新時代に入ってもほとんど内容を変えなかったことで、ネット上には「お涙ちょうだいの演出が醒める」「ギャラを払う時点でチャリティーではない」などの否定的な声が増した感がある。

ただその反面、世帯視聴率(ビデオリサーチ調べ・関東地区)は全平均16.5%、瞬間最高39.0%を記録し、昨年の番組平均15.2%、瞬間最高34.7%を上回る結果を得たのも事実。たとえば、「中高年層以下の層にどれだけ見られているのか?」「どんな人がどんな理由で否定的な声をあげているのか?」などの来年以降に向けた検証が必要ではないか。

■来年はパラリンピックとバッティング?

近年、批判の声が増えたからと言って、「『24時間テレビ』を終わらせるべきか?」と言えば、決してそうではないし、終わらせないだろう。

『24時間テレビ』以外にこれほど身近なチャリティー番組はないし、「尊重」「支援」の姿勢は2011年以降の日本人に合致するものとも言える。募金箱を持って会場にかけつける子どもたちの姿は尊いし、報じられないだけで募金に助けられている人は多い。

また、日テレ系列局にとっては、社員の結束を深め、地域や住民との関係を築く重要なイベント。1年のスケジュールに組み込まれ、リズムを作っているものであり、視聴率という結果も出ているだけに、「終了させる」という選択肢は考えられない。

ただ、チャリティーというフレーズに対する人々の意識は大きく変わりつつある。『24時間テレビ』がスタートした1978年はチャリティーに対する日本人の意識は低く、だからこそ「障害者の頑張る姿を健常者に見せて感動してもらおう。それで募金を集めて還元しよう」という形が定着した。

しかし現在は人々の意識が上がり、「なぜ私たちに募金させるのに、タレントに高額ギャラを払うのか?」という声を筆頭に、「本物のチャリティー」が問われはじめている。初期の形を踏襲している以上、どんなに謙虚な姿を見せようとしても、「上から目線」「商業主義」に見えてしまう感は否めないのがつらいところだ。

時代は進み、「障害者は弱者、健常者は支援者」「タレントを連れていけば障害者は喜んでくれる」という一方的な特別視では個人の尊重につながらないことを多くの人々が知るようになった。さらに、年に一度の“点”ではなく、1年間の継続した“線”の関心・交流を持つことの大切さに多くの人々が気づいている。

奇しくも、来年も例年通り8月最終週末に放送するとなると、8月29日・30日は東京パラリンピックの真っ最中であり、多くの競技が行われている。放送とチャリティー、どちらの面で考えても、後倒しにすることが現実的であり、だからこそ新時代にふさわしい変化のチャンスとなるのではないか。

いろいろ言われてはいるが、令和の新時代にふさわしいチャリティーを行えるとしたら、この番組しかないだけに、変化への期待値は大きい。

■次の“贔屓”は…ニコル&みちょぱがたけのこ王へ突撃! 『沸騰ワード10』

みちょぱ(左)と藤田ニコル

今週後半放送の番組からピックアップする“贔屓”は、30日に放送される日本テレビ系バラエティ番組『沸騰ワード10 憑りつかれた芸能人&たけのこ王2時間スペシャル』(19:00~20:54)。

同番組は、「あらゆる業界の沸騰ワードをのぞき見れば、現代日本のリアルな姿が見えてくる!!」をコンセプトに、15年10月にスタートした業界リサーチバラエティ。各業界のトレンドをドキュメントタッチでテンポよく見せる構成がウケて根強い人気がある。

次回の放送は、「ニコル&みちょぱがたけのこ王へ突撃」「出川哲朗に密着」など、ど真ん中の企画がそろうだけに、番組の現在地点を探っていきたい。

■木村隆志
コラムニスト、テレビ・ドラマ解説者。毎月20~25本のコラムを寄稿するほか、解説者の立場で『週刊フジテレビ批評』などにメディア出演。取材歴2,000人超のタレント専門インタビュアーでもある。1日の視聴は20時間(2番組同時を含む)を超え、全国放送の連ドラは全作を視聴。著書に『トップ・インタビュアーの聴き技84』『話しかけなくていい!会話術』など。