テレビ解説者の木村隆志が、先週注目した“贔屓”のテレビ番組を紹介する「週刊テレ贔屓(びいき)」。第57回は、9日(21:00~23:40)に放送されたフジテレビ系バラエティ特番『明石家さんまのFNS全国アナウンサー一斉点検』をピックアップする。

番組のコンセプトは、「車に車検があるように…フジテレビ系列アナウンサー351人を明石家さんまが一斉点検」。VTRに加えてフジのアナウンサー25人とFNS系列アナウンサー16人の計41名をスタジオに集めてトークを繰り広げるという。

「さんまがMCを務める」=「笑いを求められる」=「ヤバイアナウンサー決定戦」になること必至。さんまからイジられ、スターアナとして発掘されるのは誰なのか? このところ「フジはスターアナ不在」と言われがちなだけに、ニュースターの誕生に期待したい。

冒頭の「離婚イジリ」に番組の意志

明石家さんま

オープニングのナレーションは、「最近、アナウンサーがちょっとヤバイの知ってますか?」「半年間、カメラ72台、総動員417名」「裏からこっそり、徹底的に調べ上げたところ、彼らは予想以上にヤバかった…!」。さらに、「職場でイチャイチャ」「裏は別の顔」「略奪愛大好きアナ」という予告映像が流れる。往年の『ロンドンハーツ』(テレビ朝日系)を思わせるエグいムードを感じさせた。

まず、さんまが「一番会いたかった」として指名したのは生田竜聖アナ。「(離婚できて)おめでとう! あんなに苦労してなあ……嫁は? 元嫁(の秋元優里アナ)は来てない?」とイジリはじめる。生田アナが「ちょっと言えないことがありまして…」と苦笑いで返すと、「ウチみたいに仕事したらいいのにな。ウケるし、離婚ネタって」と笑わせた。

このやり取りを見た瞬間、「この番組はタブーのない形で攻めるぞ」という番組の意志を感じた。さんまと中嶋優一チーフプロデューサーなら行くところまで行ってくれるはずであり、番組の盛り上がりはアナウンサーのハジケっぷりにかかっている。

トピックスを挙げていくと、「神聖な職場でイチャイチャしているアナウンサー夫婦」(フジ・生野陽子アナと中村光宏アナ)、「会社から夫にラブラブメッセージを送る」(フジ・山崎夕貴アナ)、「年上の男性を手玉に取る魔性」(石川テレビ・河合莉菜アナと新潟総合テレビ・井上綾夏アナ)、「勝負服が全身ヒョウ柄」(テレビ宮崎・榎木田朱美アナと関西テレビ・杉本なつみアナ)、「裏の顔がヤバイ!? 他人のモノは俺のモノ」(テレビ西日本・大谷真宏アナ)。

「コソコソ日焼けサロンに通う」(フジ・榎並大二郎アナ)、「親の歌い方に寄せすぎな二世」(フジ・藤井弘輝アナとダサイ踊りの永島優美アナ)、「女性に求める結婚条件が厳しすぎる」(フジ・倉田大誠アナ)、「バツ2だけど…結婚相手に求める条件が厳しい」(フジ・佐野瑞樹アナ)、「マジメそうだけど、恋愛は略奪愛じゃないと燃えない」(福井テレビ・田島嘉晃アナ)。

文字にしてしまうと面白さが伝りにくいのだが、彼らの「体を張って笑いを取ろう」という姿勢は『踊る!さんま御殿!!』(日本テレビ系)の出演者並み。いろいろ言われがちだが、この日のパフォーマンスを見る限り、「フジのアナウンサーは今なおタレントぞろい」と言っていいのではないか。さんまが生き生きと進行していたのが、何よりの証拠だ。

さんまの好むタブーなき“笑いの戦場”

個人の活躍に目を向けると、夫・おばたのお兄さんに「L・O・V・E」ダンスを送った山﨑夕貴アナ。日焼けサロン通いをひたすら隠しつつ「タンニングスタジオ」「ゴールドブラウン」「キープ・タンニング」と専門用語を連発し、「アナウンサーにもイップスがある」の名言を残した榎並大二郎アナ。年末に1人で局内に残ってウクレレで「涙そうそう」を弾き、年始のカラオケで山崎まさよし「One more time, One more chance」を歌った生田竜聖アナ。

さらに、さんまから「渡辺アナも(スキャンダルを)やらかす前は真面目だったはず」と言われて「オフホワイトのシャツが少しずつ白く……」と返した渡辺和洋アナ。さんまから「お前、昔ワールドカップのときに(風俗の)デリバリーして怒られたやないか!」と言われて「さんまさんから『百点満点や』と言ってもらえて喜んでいたら(上司から)『佐野くん』と呼び出されて…」と返した佐野瑞樹アナ。やはりこの番組は、さんまの好むタブーなき“笑いの戦場”であり、2時間40分がアッと言う間に過ぎていった。

フジアナウンサーたちのバラエティ対応力は芸人並みであり、FNS系列局のアナウンサーを圧倒。「略奪愛じゃないと燃えない」というネタでトリを任された福井テレビの田島アナがプレッシャーに耐えきれず「帰りたい…」と本音をこぼし、さんまからお笑い指導を受けたのとは対照的だった。

また、目を引いたのは、その田島アナに「東京に爪痕を残そうとけっこう言っちゃったみたいだけど、根は真面目な好青年なんです。恋愛観がマジでヤバイだけなんで、これからもよろしくお願いします!」というナレーションでフォローを入れたこと。最後の「一番ヤバイアナウンサー=ヤバウンサー」にテレビ西日本の大谷アナを選んだことも含め、気の利いた演出が随所に光った。

アナウンサーは決して素人ではない

その他のフリートークでも、「海ほたる」を「ホタルイカ」、「毛沢東」を「毛沢山」、「眉間のしわ」を「股間のしわ」など、伝説の言い間違いを次々に披露。アナウンサーたちは笑いのエピソードを持っている上に、「マジメなニュースを読んでいる」という普段の立ち位置が絶好の前振りとなっている。ダサイ踊りの永島優美アナ、オンチの三上真奈アナらも、日々の番組とは別人の姿を見せて、しっかり爪痕を残していた。

フジのアナウンサーが爆発的な人気を博した1990年前後との比較ではもちろん、21世紀に入ってからもアナウンサーのバリューは落ち続けている。各局ともに新たなスターアナは生まれず、若くして退社する女性アナウンサーが増え、年末恒例となっている「好きなアナウンサーランキング」の顔ぶれは安心感のあるベテランばかりになってひさしい。

しかし、“お笑い怪獣・明石家さんま”と渡り合おうとするガッツと話術は、中堅芸人のレベルと何ら遜色ないものだった。そもそも彼らは、中堅芸人と同等以上の撮影を経験している、言わば現場のプロ。SNSが発達したことで、「芸能人ではなく社員のクセに」「フジはすぐにアナウンサーを芸能人扱いする」という批判を受けやすくなったが、彼らは決して素人ではない。少なくとも素人では、さんまの仕切る“笑いの戦場”で爪痕を残すことはできないだろう。

私個人が現場で会う彼らは、礼儀正しく丁寧に仕事をこなすだけでなく、サービス精神があり、人間として面白い人が多い。能力や資質の問題はなく、制作費削減という意味もあり、彼らを有効活用しない手はないはずだ。「『社内外で過小評価されがちなわりに、プライベートがなく不自由』などのストレスをどう軽減させるか」も含め制作サイドのセンスが問われている。

その意味で今回の特番は、特定のスターアナこそ生まれなかったものの、「フジの復活にはアナウンサーの活躍が欠かせない」と再認識させる有意義なものだった。視聴率も11.8%(ビデオリサーチ調べ・関東地区)をマークし、第2弾につながる結果を出している。

次の“贔屓”は…斬新な生放送番組が早9年目に突入『おやすみ日本 眠いいね!』

宮藤官九郎(左)と又吉直樹

今週後半放送の番組からピックアップする“贔屓”は、16日に放送される『おやすみ日本 眠いいね!』(NHK 24:05~)。

コンセプトは、「日本中の眠れない声に耳を傾け、あなたが眠れるまでとことんつき合う真夜中の生放送」。宮藤官九郎と又吉直樹の醸し出す気だるいムードと、「視聴者が眠くなったときに押す『眠いいね!』が一定数以上になるまで終了しない」という斬新な構成がウケ、番組スタートから9年目に突入した。

昨年4月から月1回のレギュラー放送となって、どんな変化があるのか。時代と人々の嗜好に合わせた番組だけに、現在地点と今後の可能性を探っていきたい。

■木村隆志
コラムニスト、テレビ・ドラマ解説者。毎月20~25本のコラムを寄稿するほか、解説者の立場で『週刊フジテレビ批評』などにメディア出演。取材歴2,000人超のタレント専門インタビュアーでもある。1日の視聴は20時間(2番組同時を含む)を超え、全国放送の連ドラは全作を視聴。著書に『トップ・インタビュアーの聴き技84』『話しかけなくていい!会話術』など。