テレビ解説者の木村隆志が、先週注目した“贔屓”のテレビ番組を紹介する「週刊テレ贔屓(びいき)」。第32回は、12日に放送された『ザ・ノンフィクション』(フジテレビ、毎週日曜14:00~ ※関東ローカル)をピックアップする。

同番組は1995年から放送されている長寿ドキュメンタリー。出演者の大半は市井の人々で、苦闘の日々を送る姿を追うものが多く、毎週さまざまな反響を集めている。

今回の放送は、「32歳、離島で生きる ~4年間の記録~」。なぜ女性は人口300人の島に嫁いだのか? 離婚歴、子宮頸がん手術、嫁ぎ先の悲しい過去、後継問題など、濃密な4年間を映し出したものになるという。

『家、ついて行ってイイですか?』(テレビ東京系)、『ドキュメント72時間』(NHK)といった夜のドキュメンタリーが支持を集める中、老舗番組はどうなのか。定点観測するには、絶好の内容と言える。

  • 001のalt要素

    『ザ・ノンフィクション』 (C)フジテレビ

次々に試練が訪れるドキュメンタリーの醍醐味

今回の主人公は、32歳の佐藤千里さん。中学生の時、父親が知人の保証人になったことで借金を背負い、事業は経営危機に…。大学進学をあきらめ、父親の取引先に就職した。その後も、結婚に失敗し、子宮頸がんの手術をするなどの苦しい日々を送ってきたという。いきなり明かされた不幸話は、いかにも『ザ・ノンフィクション』らしく、視聴者をグッと引きつける。

そんな千里さんが嫁いだのは、札幌から高速バスで3時間30分、フェリーで1時間半をかけてようやくたどり着く北海道の天売島。「商店が2軒しかない」「時化が続くと1週間物資が届かない」などの不便さからか、人口は2,000人超から300人に減ってしまった。そんな島に札幌育ちの千里さんが嫁いだのだから、テレビドキュメンタリーの題材としては申し分ないだろう。

千里さんの夫は、島の漁協に勤める35歳の佐藤貢さん。遠距離恋愛のため、「2人きりでデートをした記憶がない」など相手がどんな人なのかあまり知らなかったが、何度もプロポーズを受けたことで結婚を決意する。しかし、嫁ぎ先の佐藤家も千里さんに負けず、悲しい過去を抱えていた。10年前、家業の漁師を継ぐはずだった貢さんの兄が急性すい炎で亡くなってしまったのだ。

貢さんは漁師を一からはじめるには遅すぎる年齢のため、借金をして買った船を継ぐ人がいなくなってしまった。それを知った千里さんは、「跡取りのいない佐藤家のために子どもを産みたい」と思いはじめる。

しかし、千里さんは慣れない島の生活や、がん再発の不安と戦いながら、町おこしの団体で契約社員として働き、家業の手伝いや民宿掃除のパートもこなす多忙な日々の中、生理不順で排卵がなくなってしまう。ところが島には産婦人科がなく、検査すら受けられない。その上、イベント「島民感謝祭」の責任者を任され、葛藤しながらも何とかやり遂げた。

そんな苦労が報われたのか、千里さんのお腹に待望の赤ちゃんが授かる。仕事を抑えて体調管理に専念し、貢さんも喜びを隠せなかったが、札幌での定期健診で切迫早産のリスクが発覚して緊急入院。2か月もの入院を余儀なくされてしまう。

次々に試練が訪れる展開に驚かされるが、これぞドキュメンタリーの醍醐味。近年、ドラマ業界では「シリアスな展開の続く索引は視聴率が獲れない」と絶滅気味だけに、ドキュメンタリーの希少価値が高まっている。

説教くさいジャーナリズムは皆無

千里さんの不安で孤独な入院生活を支えたのは貢さんだった。秦基博の「ひまわりの約束」をギターで弾き語りする映像を撮影して、千里さんに渡していたのだ。照れ屋の貢さんは顔を映さず、首から下のみの映像だったのだが、「そばにいたいよ 君のためにできることが僕にあるかな」という歌詞による、不器用だがまっすぐな思いは千里さんにしっかり届いていた。

昨年7月、千里さんは長男・凪音(なぎと)くんを無事出産。さらに2カ月後の9月、首の座っていない長男を連れて天売島に帰り、「ここで生きていくって決めて嫁に来たんで、この子には不便をかけるかもしれないけど、そのぶん愛情を注いで育てていきたいなとは思っています」と噛みしめるように語った。

約半年後の2018年4月、やりイカ漁の作業をする貢さんの「(妻は)もちろん俺にとって一番必要な人なんですけれども、島にいて欲しいというか、必要な人なんですよ。俺にとっても、島にとっても」というコメントを流し、最後に「1歳になりました」という3人の記念写真で番組は終了した。

終わってみれば、すごくいい人たちの心温まる物語であり、『ザ・ノンフィクション』の最大公約数となっている人間の闇や弱さをクローズアップしたものではなかった。がん再発の不安や、離島の過疎化問題を掘り下げなかったことを踏まえると、今回は“30代女性の結婚ドキュメント”という一点に絞っていたのだろうか。

そもそも『ザ・ノンフィクション』は、「ジャーナリズムにとらわれて説教くさい」「あれこれ詰め込み過ぎて刺さらない」というテレビマンが陥りがちな失敗パターンが少ないため、視聴者の年齢性別を問わず間口が広い。実際、私の周りにも「毎週楽しみにしている」という小・中学生のファンがいる。

「人間が苦しみ、前を向く姿には必ず意味がある」というシンプルな視点は、深さこそ感じないものの、穏やかな休日の午後に心地よくフィット。「苦しいのは自分だけじゃない」と安心し、「明日からまた頑張ろう」と活力になるプレゼントのような番組なのかもしれない。

  • 002のalt要素

    「32歳、離島で生きる ~4年間の記録~」のナレーションを担当した仁科亜季子(左)と仁科克基親子

「事実は創作より面白い」時流に合致

当番組のようなドキュメンタリーは偽りのない事実を映し出すものだが、構成や演出ありきであり、ディレクターとプロデューサーの果たす責任は大きい。たとえば、今回はしっかり目線をもらうようなインタビューカットが多く、終盤の展開はやや急ぎ足だった。これによって見やすかった人もいるし、感情移入しにくかった人もいるだろう。

ただ、どんな構成や演出でもドキュメンタリーである以上、「やっぱりそうか」ではなく、視聴者の想像を超えるシーンが1つはあってほしいところ。今回で言うなら、貢さんが弾き語りした映像がそれに当たる。私自身「あの寡黙そうな島の男性が弾き語り?」「首から下だけの映像って…」「この曲を選んだのか」と引き込まれてしまった。

生き方、嗜好、文化などが多様化する一方の今、人々の間で「事実=ノンフィクションは、創作=フィクションよりも面白い」という見方が広がりつつある。また、ドラマがリアルより、けれんみたっぷりのエンタメ路線に舵を切っているだけに、ドキュメンタリーのニーズが高まっているのは間違いない。ひいては、両者がそれぞれの質を高める形で共存・差別化できれば、テレビそのものへの評価が上がるのではないか…と感じている。

その意味で、冒頭に挙げた『家、ついて行ってイイですか?』や『ドキュメント72時間』のようなエンタメ性を採り入れることは、当番組に相応しくないだろう。週替わりゲストのナレーションや、テーマ曲の「サンサーラ」も含め、この番組らしさを失うことなく生き残り続けられるのか。もし、それらが損なわれたとき、フジテレビが思っている以上に多くの人々から、不満や「ロス」の声が挙がるのかもしれない。

最後に1つふれておきたいのは、スタッフの粘り強い仕事ぶり。私が知る限り、当番組に限らずテレビドキュメンタリーのスタッフには、経験豊富なベテランが多い。ネットの普及やコンプライアンス対応で一般人への取材が難しくなる中、現場で撮影・編集を続けるスタッフには、もっと報われてほしいと願っている。

次の“贔屓”は…「子供に見せたくない番組」の子供向け企画『金曜★ロンドンハーツ』

003のalt要素

『金曜★ロンドンハーツ』ロンドンブーツ1号2号の田村淳(左)と田村亮 (C)テレビ朝日

今週後半放送の番組からピックアップする"贔屓"は、17日に放送される『金曜★ロンドンハーツ』(テレビ朝日系、毎週金曜21:00~)。同番組は1999年の番組スタートから今年で20年目を迎える長寿バラエティ。

芸人にクローズアップする形に切り換えてから、「The Bl@ck Mail」「格付けしあう女たち」「50TA」(狩野英孝)シリーズなどのヒット企画を連発しつつ、「子供に見せたくない番組」アンケートで8年連続1位という、ある意味で名誉な記録を持っている。

次回放送は、「子供に大ウケ-1グランプリ団体戦 イマ旬芸人代表vsチョイ前芸人代表」。現在ブレイク中の芸人と、ちょっと前にブレイクした芸人が、YouTuber世代の小学1・2年生100人を相手にネタバトルをするという。

イマ旬芸人チームは、千鳥、くっきー&ガリットチュウ福島、ひょっこりはん、チョコレートプラネット。チョイ前芸人チームは、平野ノラ、トレンディエンジェル、サンシャイン池崎、そして世界のナベアツが10年ぶりに復活する。

なぜ審査員がちびっ子たちなのか? という点では、芸人以上に子どもたちが企画のエッジになるのではないか。近年は低視聴率が取りざたされ、何度か打ち切り説も飛び交っているが、ひさびさに『ロンハー』ならではの笑いが見られるのでは…と期待している。

■木村隆志
コラムニスト、テレビ・ドラマ解説者。毎月20~25本のコラムを寄稿するほか、解説者の立場で『週刊フジテレビ批評』などにメディア出演。取材歴2,000人超のタレント専門インタビュアーでもある。1日の視聴は20時間(2番組同時を含む)を超え、全国放送の連ドラは全作を視聴。著書に『トップ・インタビュアーの聴き技84』『話しかけなくていい!会話術』など。