テレビ解説者の木村隆志が、先週注目した“贔屓”のテレビ番組を紹介する「週刊テレ贔屓(びいき)」。第31回は、4日に放送された『マツコ会議』(日本テレビ系、毎週土曜23:00~)をピックアップする。
同番組は、話題のディープなスポットと中継を結び、人間の知られざる生態を深掘りするトークショー。タレントはマツコ・デラックス1人で、残りはスタッフと一般人のみ、会議室から出ずロケ先との中継、リサーチに頼りすぎることなく話の展開によってネット検索……23時台の番組らしいローカロリーな構成であり、だからこそ「マツコの持ち味が発揮されている」と業界内外で評価が高い。
今回の中継先は、銀座老舗店の若手跡取り会。「銀座」「老舗」「跡取り」……マツコにとってごちそうのようなフレーズがそろうだけに、どんなイジリが炸裂するのか? いつも以上に必見の回となりそうだ。
「共演タレント0」ゆえのセルフツッコミ
番組冒頭、今回のテーマが紹介されるとマツコは、ややけげんそうな顔に。「簡単に言うけど、『銀座や日本橋の店が江戸時代から今も続いている』ってことはすごいことなのよ」と不満を漏らした。
もちろんこれは不満を言いたかったわけではなく、企画を一段階掘り下げるためのコメント。「だからこそ、銀座老舗店の若手跡取り会はディープなスポットである」ことをさりげなく説明しているのだ。
会場の様子を見たマツコの第一声は、「ちょっといい感じじゃない」と好意的だった。しかし、すぐにラフな服装の怪しげな男性を見つけて、「1人、売人(のような男)がいない? あれは老舗の跡取り?」とイジリはじめる。男性は老舗煎餅店の跡取りだったのだが、ホームページで店の様子を見ると、「うわ~おしゃれ煎餅屋!」「八代目!」「もう社長になってるの? お前がつぶすことにならないのか?」、視聴者の声を次々に代弁していく。
次に、あんぱんで有名な木村屋總本店の女性が登場すると、マツコ節が加速。「(高級宝飾店)和光の隣であんパン売ってるんだからね、すごい話よ」「あたしがもし跡継いだら絶対この土地売るぞ。100%売る。三越と松屋に(テナントで)入ればいいんだから」と畳みかけて笑いを誘った。
その後、別の女性2人と年齢の話になると、「あっ、(年齢は同じだけど)学年は違うのね。……いつまでも学年に引きずられている私たちって何だろうね。46(歳)になってもまだ学年とか言ってる!」と自分の発言にツッコミを入れた。スタジオにタレントがいないがゆえのセルフツッコミであり、「マツコは数人分のコメント力を持っている」とされるゆえんだろう。
最後は、家業を継がずにトレーニングジム経営をしている男性を「変態」と決めつけ、結婚予定の相手がCA(キャビンアテンダント)と聞くと、マツコ「いくつ?」、男性「20代です」、マツコ「絶対制服着させてるわよ!」、男性「いや、持ち出しできないので」、マツコ「やらせようとしたじゃねえかよ!」と畳みかけてオチを作り出した。
スタッフを“準タレント化”するマツコ
『マツコ会議』は「夜のストレンジャー」(フランク・シナトラ)というオープニングの曲名通り、変わった一般人を掘り下げた番組だが、今回の放送ではその変わった人が少なかった。その分、マツコが盛り上げなければいけないため、フリ、オチ、フォローのすべてを1人でこなしていた。
すると必然的に多くなるのが、スタッフいじり。中継担当の川端ディレクター(通称ヤギ)に、「ダメでしょ、あのシャツのヨレ方。あいつテレビに出る気ないもん」「カリカリしていたら身が持ちません。みんなでヤギを楽しみましょう」。石原プロデューサーの「すごいっすよね」というつぶやきに「(あんたは)老舗感ないよね」。スタッフをタレントのようにいじることで、“準タレント化”しているのだ。
そもそも、マツコの隣に座っている男性に「ディレクター・栗原」のテロップを出しているほか、何度となく笑い顔を映すなど、当番組はスタッフを出演者として扱っている。マツコ以外はスタジオも中継先も一般人のみなのだが、多くのタレントが出演している番組と遜色ないのは、やはりその話術がなせる業に他ならない。番組上の肩書は“総合演出”だが、自分の強みを分かり切っているマツコだから、こんな番組構成が成立するのだろう。
マツコはスタッフに対して厳しく、小さなミスでも容赦なく罵声を浴びせているが、その反面、中継先の人々にはめっぽう優しい。「取材をさせてもらう」という前提で話しかけ、偏った言動や嗜好の人ほど温かい言葉をかけている。そして、話を聞き終わると、「ありがとうございました」と画面越しに頭を下げるなど、感謝の意を隠さない。
もちろんマツコは視聴者目線も忘れていない。視聴者の代弁者として話を振り、視聴者の理解を促すために補足説明し、視聴者の笑いそうなボケをはさんでいる。スタッフ、中継先、視聴者の3方を気づかう姿を見ると、「番組そのものはかなりのローカロリーだが、マツコにとってはハイカロリーではないか」と思ってしまうくらいだ。
直後の『有吉反省会』との親和性
最後に、番組そのものについてふれると、2010年代に入ってから2~3時間特番が常態化するなどバラエティが長時間になる中、潔く30分番組を貫く『マツコ会議』は貴重。直後に放送されている『有吉反省会』(毎週土曜23:30~)も30分番組であり、内容の親和性も高いため、「もしかしたら両番組は、『マツコ・有吉の〇〇〇』という冠番組内の各コーナーではないか?」という印象すらある。
見やすさは、長さだけでなく、演出面も同様。パソコンの検索結果として映すホームページや入力風のテロップを見れば分かるように、日テレの番組にありがちな過多感はない。「あまり事前打ち合わせはしない」「『これを見せてやろう』という押し付けはしない」というマツコ自身のスタンスが、ゲスト出演者やスタッフを生かし、ウソのない番組を作ることにつながっているのではないか。
前番組『マツコとマツコ』も含めると、マツコがMCを務めるようになってから、早3年4か月が経過した。「土曜の夜23時はマツコの時間」というイメージが染みついたのは、どの出演番組よりも役割が多く、自身のスタンスと番組のコンセプトが一体化しているからだろう。
次の“贔屓”は…苦闘の日々に密着するドキュメンタリー『ザ・ノンフィクション』
今週後半放送の番組からピックアップする"贔屓"は、12日に放送される『ザ・ノンフィクション』(フジテレビ、毎週日曜14:00~ ※関東ローカル)。同番組は1995年から放送されている長寿ドキュメンタリー。出演者の大半は市井の人々で、苦闘の日々を送る姿を追うものが多く、毎週さまざまな反響を集めている。
次回の放送は、「32歳、離島で生きる ~4年間の記録~」。なぜ女性は人口300人の島に嫁いだのか? 離婚歴と子宮頸がん手術、嫁ぎ先の悲しい過去、後継問題など、濃密な4年間を映し出したものになるという。
『家、ついて行ってイイですか?』(テレビ東京系)、『ドキュメント72時間』(NHK)など、夜のドキュメンタリーが支持を集める中、老舗番組はどうなのか。定点観測するには、絶好のテーマと言える。
コラムニスト、テレビ・ドラマ解説者。毎月20~25本のコラムを寄稿するほか、解説者の立場で『週刊フジテレビ批評』などにメディア出演。取材歴2,000人超のタレント専門インタビュアーでもある。1日の視聴は20時間(2番組同時を含む)を超え、全国放送の連ドラは全作を視聴。著書に『トップ・インタビュアーの聴き技84』『話しかけなくていい!会話術』など。