テレビ解説者の木村隆志が、先週注目した“贔屓”のテレビ番組を紹介する「週刊テレ贔屓(びいき)」。第27回は6日に放送された『全力!脱力タイムズ』(フジテレビ系、毎週金曜23:00~)をピックアップする。

同番組は、報道・情報番組の形を借りたコントで笑いを誘うニュースバラエティ。2015年4月の番組スタートからジワジワとファンを増やし、評価を積み重ねてきたことから、「近年のフジテレビでは一番のバラエティ」との声もある。

純粋なコント番組が絶滅しつつある中、新たな切り口で道を切り開いているだけに、ここでは奇をてらわず「どんな笑いを狙っているのか?」を探っていきたい。

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    『全力!脱力タイムズ』MCの有田哲平

冒頭で「芸人VS出演者全員」の図式を鮮明に

この日の放送は、コメンテーターに出川哲朗、オダギリジョー、池田エライザを招いた70分スペシャル。冒頭からオダギリと池田が「ファンだから緊張している」と出川を持ち上げ、出川は「番組のチョイスを間違ってる。番宣の効果ないから!」とツッコミを入れるなど、“芸人VSすべての出演者”の図式をハッキリ見せるのが、この番組のスタイルだ。

その後、「2018年正月テレビCMランキング2位」「名人芸のリアクション芸」「番組MCも務める大人気芸人」と、さらに出川を持ち上げ、「大人気の出川哲朗と徹底的に語り合う」という特集を用意。元経産官僚・岸博幸から「デフレ脱却」、オダギリから「俳優の演技論」、小澤陽子アナから「女性アナのバラエティでの役割」、池田から「スーパーパウダー」、明大教授・齋藤孝から「万葉集と古今和歌集」の話を振られた出川は、「あたふた」「しどろもどろ」という持ち味を見せる。

ここから構成・演出のギアを一段階アップ。「出川が語れる」という観点からテーマに“大谷翔平”を選んだが、「急きょ変更したためパネルにミスが多く、間違い探しをしながらツッコミを入れていく」というコーナーに変わってしまう。

「報道・情報番組では最もやってはいけないミスを笑いに変える」という正攻法のコントを選んだ理由は、「出川のポンコツぶりがいかに面白いか」に他ならない。スタッフ側が仕掛けるタイプの番組は、とかく自分の色を出そうと「やりすぎ」「凝りすぎ」の傾向があるが、当番組は、その抑制が効いている。モチーフである報道・情報番組とゲスト芸人という素材の良さを信じ、トゥーマッチにならないギリギリの線で留めるバランス感覚が生命線だ。

最後に飛び出した出川の3語が番組を象徴

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「THE美食遺産」の滝沢カレン

実際、この日は“出川のリアクション待ち”というシンプルな仕掛けだった。そんなスタッフの期待に応えるべく出川は、「INPO? ソーリー、ベリーセクハラ」の迷言を披露。さらに、おりも政夫の名前が出ず、頭上で手を合わせて謝るポーズを見せ、有田に「まだ死んでないです」とツッコまれるなどのミラクルを連発した。

「セクハラも先輩への無礼もカットせずに使ってしまう」という編集方針は、いかにもこの番組らしいだけに、未視聴の人はぜひTVerで見てほしい(20日21時49分まで視聴可能)。

その後、安定の品質保証を誇るナレーター・滝沢カレンの「THE美食遺産」をはさんで、最後のコーナーは出川の十八番・熱湯風呂。しかし、「人気ベテラン芸人に熱湯風呂はやらせられない」とおあずけをくらい、出川は「営業妨害」と不満顔に。上半身裸になっても最後まで熱湯風呂には入らせてもらえず、そのままオダギリと池田の番宣に突入する。

番組は、2人がマジメに番宣をしているとき、上半身裸の出川を含めた3ショットを映すことで爆笑を誘った。ここで出川が放ったツッコミは3語。「5カメ、バカか!」「悪ふざけと面白さの境界線がこのスタッフは分かっていないんだ!」「(でも)今のは面白かった」。

バカで、悪ふざけで、でも面白い……この3語が番組を象徴している。ちなみにこのとき、出川の表情は生き生きとしているように見えた。まるで「やっぱりこの番組好きだわ」と言っているかのように。

苦境のフジテレビに咲く一輪の希望

当番組は、「笑いを学ぶとき、真っ先に教えられる」と言われる“緊張と緩和”の教科書を彷彿(ほうふつ)とさせる。

その他にも、マジメさのアピールとして「メガネをかけさせる」という古典的な手法。堅物の印象が強い人物にふざけさせる設定。出演者が必死に笑いをこらえるカット。いずれも、昭和の時代に慣れ親しんだコントに原点回帰している感が強い。

もちろん、1人の芸人を徹底的にハメる流れや、ドラマのようにめまぐるしいカメラのスイッチングなど“今っぽさ”もあるが、それよりも視聴者を魅了しているのは、予定調和と非予定調和の共存ではないか。

「メインキャスターのアリタ哲平や全力解説員たちがふざけ、ゲスト芸人だけがハメられる」というお約束の展開と、「ゲスト芸人がどんな反応をするのか」「芸人としてどんな底力を見せるのか」という未知数の部分。2つのストーリーが化学反応を起こしたとき、スタッフの目論見や台本を超えた笑いが生まれている。

そんな番組のコンセプトは、放送スタートから3年が過ぎた今、揺らぐどころか、ますます磨かれている。「このままで十分面白い」「マンネリを気にして変える必要はない」と思っている視聴者は少なくないだろう。

事実、クールごとの平均視聴率は、昨秋(17年10~12月)が5.7%、今冬(1~3月)が6.2%、今春(4~6月)が6.3%(ビデオリサーチ調べ・関東地区)と3クール連続で上がり、全局横並びトップを記録しはじめている。

視聴率の低迷が続き、特にバラエティの不振が叫ばれるフジテレビにとっては、谷間に咲いた一輪の希望。しかし、「このようなコント番組は23時台にしか放送できない」という厳しい現実は変わっていない。2つの意味で「頑張ってほしい」と応援せずにはいられない番組だ。

次の“贔屓”は…シンプルドキュメンタリーの旗頭『ドキュメント72時間』

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『ドキュメント72時間』13日の放送より

今週後半放送の番組からピックアップする"贔屓"は、13日に放送される『ドキュメント72時間』(NHK総合、毎週金曜22:45~)。同番組は、ある場所を3日間72時間に渡って定点観測する人間ドキュメンタリー。同じNHKの『ノーナレ』や、テレビ東京系ドキュメンタリーの好調も含め、「やっぱりドキュメンタリーはシンプルが一番」を印象づけた旗頭的な番組と言える。

今回の舞台はバク転教室。子どもからサラリーマン、主婦まで、老若男女が教室に集い、マット上で悪戦苦闘しているという。数ある習いごとの中で、なぜバク転を選んだのか? 生徒たちだけでなく、番組の意図も、そこから見えるのではないかと思っている。

■木村隆志
コラムニスト、テレビ・ドラマ解説者。毎月20~25本のコラムを寄稿するほか、解説者の立場で『週刊フジテレビ批評』などにメディア出演。取材歴2,000人超のタレント専門インタビュアーでもある。1日の視聴は20時間(2番組同時を含む)を超え、全国放送の連ドラは全作を視聴。著書に『トップ・インタビュアーの聴き技84』『話しかけなくていい!会話術』など。