テレビ解説者の木村隆志が、先週注目した“贔屓”のテレビ番組を紹介する「週刊テレ贔屓(びいき)」。第266回は、12日に放送されたNHK総合『NHKのど自慢』(毎週日曜12:15~)と日本テレビ系『行列のできる相談所』(同21:00~)のコラボをピックアップする。
毎週日曜に放送されているNHKと日本テレビの人気番組が意外性十分のコラボ。テレビ開局70周年という縁のある両局だが、12日から19日にかけて行われる「NHK×日テレ コラボウィーク」の口火を切るコラボは、どの程度のものだったのか。
■「公開生放送」で見せる超高速進行
まず昼の『NHKのど自慢』がスタート。小田切千アナが登場し、青森県八戸市での開催と、ゲストの吉幾三と純烈を紹介する。さらに、『行列のできる相談所』から青森県出身の王林を招き、前日の予選を吉田沙保里が勝ち抜き、北村晴男弁護士が落選したことを明かした。
そして、わずか1分あまりでトップバッターが登場。民放に多いもったいぶるような演出は一切なく、いい意味での“駆け足感”が公開生放送の同番組らしさであり、小田切アナらしさにも見える。
トップバッターの男性は「1番、『できっこないを やらなくちゃ』」と元気よく歌うが鐘2つに終わり、小田切アナのインタビューは短いやり取りのみで終了。結局、画面左下に「医療系専門学校の広報 社会へ出る3年生へ勇気を」という出演者紹介のテロップが表示されたのみで、名乗らせてもらうシーンはなかった。一般人に名前すら言わせない厳しさが、やる気満々の出演者や番組のゆるいムードとのギャップがあって面白い。
6番目の女性でようやく合格の鐘が鳴り響き、初めて名前を名乗った。女性は亡き父を思って涙を流していたが、それでもひいきせずすぐにインタビューを終わらせる公平さもNHKの矜持か。
9番が合格したあと10番目に吉田沙保里が登場し、歌ったのはKiroroの「未来へ」。鐘2つに終わったが、「八戸は亡き父の地元で歌えて幸せ」「(これからの目標は)結婚して幸せな家庭を築くことです」と宣言して会場を盛り上げた。
結局19人中、6番、9番、12番、14番、15番の5人が合格。20番目に“特別版”として王林が倖田來未の「愛のうた」を歌い、合格の鐘に飛び上がって喜んだ。その後、純烈と吉幾三のステージを挟んで審査結果の発表へ。
会場を盛り上げた男性に特別賞が贈られたあと、女子高校生がチャンピオンに選ばれた。小田切アナは最後に、「青森県八戸市からお送りしてまいりました。来週は大分県佐伯市です。北村弁護士、応援ありがとう!」とコメントして番組は終了。50分で20人の「のど自慢」とインタビュー、2組のプロが歌唱するという超ハイテンポな進行だった。
特筆すべきは、地元の観客を入れた公開生放送で、一般人のトークや振る舞いをこれだけコントロールできる統制力。小田切アナのMC力、スタッフの事前準備、出演者のセレクトなど、すべてが噛み合わなければこうはいかないだろう。出場者の大半が素直に喜びを表現し、家族や地元への愛を叫ぶキャラクターであることも含め、日曜の昼に放送され続けている理由があふれていた。
■『行列』側も2度収録の特別版
続いて夜の『行列のできる相談所』が始まり、『NHKのど自慢』の鐘の音が鳴る中、出演者たちがスタジオに入場。すぐにMCの東野幸治が「テレビ放送と同じ1953年にスタートした」「8万組以上が参加」「美空ひばり、北島三郎らも出場」など、『NHKのど自慢』の歴史を語り、コラボ相手に敬意を表する。
同番組から小田切千アナと鐘の秋山気清がゲスト出演。小田切アナはNHKのアナウンサーが絶対に言わないであろう、「ここで一旦コマーシャル」というセリフを言って番組を盛り上げる。
一方、『行列』の制作サイドは、NHKの映像をたっぷり使って両者のプロフィールや番組の裏側を徹底的に紹介。なかでも、2日前から現地入りして取材し、予選会にも参加している小田切千アナを「まさに司会者の鑑」と持ち上げ、「収録が終わったらすぐ帰る東野や後藤(輝基)は見習ったら」と下げるくだりは、普段通りだった。
続いて、吉田沙保里と北村弁護士の『NHKのど自慢』挑戦をクローズアップ。王林はプロ扱いのため特別編になったという。小田切アナいわく「芸能人の挑戦は過去になかった」というだけに、この点は「日テレとコラボしたからこそ」の希少価値が高いところだろう。
予選では北村弁護士がサザンオールスターズの「真夏の果実」を熱唱するが、歌詞を間違えるなどボロボロでサビ前に強制終了。吉田も緊張からか声が上ずっていたが、合格の声を聞いて笑顔をこぼした。
ここまでのパートは12日より前の収録であり、「結果が分からない中での収録だけでは物足りないのでは」と思って見ていた。しかし、ここで東野が「NHKの生放送を見ながら収録を行っている」ことを告白。つまり、事前と12日の2度に分けて同じ出演者を集めて収録をしていたことになり、その労力は普段の2倍近いものがあったのではないか。
それにしても、メインが『NHKのど自慢』で、ワイプに『行列のできる相談所』メンバーのリアクションという映像は実に新鮮。実際、『NHKのど自慢』の出場者3人の歌とチャンピオンの顔が映されたほか、最後は青森の会場と中継をつないで、吉幾三、純烈、会場の観客もコラボを楽しむようなシーンが見られた。