テレビ解説者の木村隆志が、先週注目した“贔屓”のテレビ番組を紹介する「週刊テレ贔屓(びいき)」。第252回は、27日に放送されたテレビ朝日系特番『タモリステーション~ドイツに歴史的勝利!!日本サッカー運命の決戦直前SP~』(17:00~)をピックアップする。

「さまざまなジャンルに幅広い興味を持つタモリが各回のテーマを徹底的に掘り下げる」というコンセプトの特番で、これまで「大谷翔平」「ウクライナ戦争」「カーリング」の3テーマが放送されてきた。

今回のテーマは、サッカー日本代表とワールドカップカタール大会。同局で同日18時40分からの日本代表VSコスタリカ代表を試合直前で盛り上げる形で放送された。タモリが「番宣番組におもねる」とは思えないが、ドイツ戦の勝利で日本中が盛り上がる中、どんなスタンスで臨んでいたのか。

『タモリステーション』MCのタモリ

『タモリステーション』MCのタモリ

■タモリのリアクションににじむ重み

タモリの発言シーンを中心に番組を振り返っていこう。

オープニングで斎藤ちはるアナから話を振られたタモリは「(ドイツ戦は)見ましたよ。いや~、前半ちょっとハラハラ……押されまくってましたからね。後半あれだけ変わるとは思いませんでした」と矢継ぎ早にコメント。その声は思いのほか弾んでいて、いきなり「あのタモリも前のめりだったのか」と驚かされた。

続いて、タモリはスタジオゲストの川淵三郎を紹介。川淵はJリーグ初代チェアマンの重鎮で現在85歳だけに、77歳のタモリとの並びはレジェンドらしい重厚感が漂っていた。裏では『笑点』(日本テレビ系)、『大相撲九州場所』(NHK)が放送されていたが、特に中高年層にとってはどれを見るか迷う時間帯だったのではないか。

画面左上に「キックオフまで1時間58分10秒」というカウントダウンが表示されていた。民放では見慣れた演出だが、“ワールドカップの日本代表戦+生放送”はこれ以上ないほどフィットしていたし、「あと〇分か」と何度も見た人は多かっただろう。

続いてバスに乗ってスタジアムに向かう日本代表の姿が映し出されると、タモリは「この時間に行くんですね」と関心を示し、さらに「それではドイツとの一戦を振り返りましょう」と番組を進めた。当番組でのタモリは「ウクライナ戦争」がテーマのときに1時間を超える沈黙が話題になるなど動きが少ないのだが、今回は世間のムードに合わせてややアクティブなスタンスにしたのかもしれない。

ただ、ドイツ戦の映像が流れると、たびたびワイプにタモリの姿が映し出されたが、無表情で微動だにせず。「あれ? いつものモードに戻ったのかな」と思ったらVTRが終了すると、「これ今、結果が分かってるから冷静に見れるんですけども、こうやって見ると日本すごいですね」と再びテンションを上げた。

さらに、「私も(うつむき加減で)こうやって見てて、(同点ゴールの瞬間)アア~って顔上げましたけど、日本中が一瞬元気になったんじゃないですかね」と満面の笑みを見せると、これを見た川淵も「さすがのタモリさんもアア~ってやりましたか」と笑顔に。日ごろリアクションの大きいタレントばかり見ている視聴者ほど、タモリのリアクションに重みを感じたのではないか。

■“にわか”にベーシックを伝える

続いて、日本が属するグループの順位表が紹介され、タモリは今後の展望を川淵に振る。「コスタリカ戦は絶対に勝たないと、最終戦まで持ち込まれるとほとんど難しい。そこまで相手は弱くありませんから」という川淵のコメントに、タモリは「(2014年のブラジル大会で)ベスト8、一度残ってますからね」とデータを交えて返した。

スタッフサイドからの資料はあっただろうが、タモリは興味を持ってきっちり目を通していたことは間違いない。「タモリとスポーツは結び付かない」というイメージの視聴者が多いかもしれないが、当番組で4回中3回スポーツを扱い、関係者たちに質問する姿を見れば、興味関心の高さが分かるだろう。実際、タモリは野球、サッカー、ラグビーなどのほか、五輪種目などさまざまな競技をひと通り熟知しているという業界評価を聞いたことがある。

スタジアムの内田篤人との中継がつながると、すかさず「日本代表が会場に向かうときのバスの中の雰囲気はどういうものなんでしょうか?」と質問。台本通りかもしれないが、あくまでファン目線での質問であり、試合直前のタイミングにもフィットしていた。

次に、スタジアム外に集まる日本人サポーターと、バスから降りてスタジアム入りする選手たちが映されたあと、カメラがスタジオに切り替わると、歴代の日本代表ユニフォームがズラリ。それを見たタモリが「赤(のユニフォームだった時代)もあったんですね」とつぶやき、川淵がその歴史を解説した。

サッカーファンの間ではそれなりに知られたエピソードだが、“にわか”を含めて盛り上がる今、これを伝えるベーシックさこそ『タモリステーション』らしさなのかもしれない。なかでも特筆すべきは、日本代表の歴史を1964年の東京オリンピックから振り返ったこと。他の番組はせいぜい1993年の「ドーハの悲劇」からだけに、「さすが『タモリステーション』」と言うべきか、それとも単に日曜夕方のメイン視聴者である中高年対策か。

タモリはここでも、「僕らの世代は(東京)オリンピック前はもっともっとサッカーはマイナーでしたからね」と川淵に振ってJリーグ創設の話を引き出したほか、「“Jリーグ”という響きも新鮮でしたよね」「“アウェー”とか“サポーター”とかって初めて聞きましたから」「ドーハの悲劇はやっぱり驚きましたね。自宅で見てました」など前向きなコメントを連発。結果的にサッカーファンにとっても見応えのあるものになっていた。