テレビ解説者の木村隆志が、先週注目した“贔屓”のテレビ番組を紹介する「週刊テレ贔屓(びいき)」。第154回は、27日に放送されたTBS系バラエティ特番『爆笑!明石家さんまのご長寿グランプリ2020』をピックアップする。
『さんまのスーパーからくりTV』内の人気コーナーだった「ご長寿早押しクイズ」を軸に、2016年から年末特番として定番化。今年はコロナ禍に対応してリモートで行われるというだけに、さらなる珍解答が期待できそうだ。
「高齢者はコロナ感染で重症化しやすい」と言われるなど、何かと不安な日々を過ごす人の多い中、「陽気でパワフルな姿を見て年を越してもらおう」という制作姿勢は受け入れられるのか。
■リモートの違和感はなく自由度が加速
番組は、昨年放送された「ご長寿早押しクイズ」の決勝戦と、「ご長寿ビデオレター」の傑作選からスタート。内容の説明をほとんどせず、いきなり始められるところに、コンテンツの明快さと強さを感じさせられる。
続くコーナーは、さんまとスタッフの盟友と言える中村玉緒の特別企画。81歳にしてYouTubeとLINEに初挑戦する様子を映し、期待通りの笑いを生み出した。さらに、「その動画の完全版がTBSのYouTubeチャンネルで配信される」という連動も注目に値する。番組内コーナーの完全版をネット上で見せられるだけでなく、玉緒のような高齢の有名人をネットにつないだこと、YouTuberたちとは差別化した動画をアップできることなども意義深い。
19時をまたいで、いよいよ今年の大会がスタート。やはりリモートでの開催なのだが、映像的な違和感はまったくと言っていいほどない上に、かえって全国各地のお年寄りに参加してもらいやすかったのかもしれない。また、リモートになったことで、お年寄りたちの自由度が加速。もともと空気を読まずにしゃべり、人の話をあまり聞かないお年寄りが多いのだが、周囲に人がいないリモートは、より気をつかう必要がなく、気ままに振る舞う様子がうかがえた。
「ご長寿早押しクイズ」全国予選の合い間に組み込まれた「ご長寿と若者 熱海の夜」には、ハイテンションキャラとお説教キャラという、また別のお年寄りが登場。「野呂佳代とジャニーズWEST・濱田崇裕が熱海の旅館でご長寿に悩み相談」というギャップを見せる企画なのだが、奇抜なファッションや「マー」の奇声で、終始お年寄りたちが圧倒していた。笑いの爆発力があり、密度も濃い上に、テーブル上のカメラから顔を見上げる形での映像を多用するなどの視覚的な工夫もあり、まったく飽きさせない。
■最年少79歳、最年長96歳の早押しクイズ
もう1つの主要コーナーとして放送されたのは、「―過去の自分へ贈る言葉― ご長寿ビデオレター」。若いころの自分に言ってやりたいアドバイスや激励を語りかけてもらうコーナーなのだが、笑えるだけでなく、人生の教訓などの深みも感じさせた。
たとえば、現在96歳の女性は、終戦を迎えた22歳の自分へ「米兵からもらった石けんがなかなか泡立たず困っていると思いますが……それはチーズです。食べなさーい!」という爆笑系。
83歳の男性は、人生で初めて浮気しようとしている27歳の自分へ「会社の車をコッソリ使ってデートに行ったが、砂にハマって動かなくなってしまうから気をつけろ」というトホホ系。
84歳の男性は、左腕を失った30歳の自分へ「東京オリンピックの聖火ランナーに選ばれるよ。全国障害者スポーツ大会で金メダルを2回も取ったおかげだよ。希望を持つことをあきらめないでくれてありがとう」という感動系。
スタジオゲストの日村勇紀が「今までの『ご長寿クイズ』が面白くって、急にこのコーナー挟むのズルい」と笑いながらコメントしていたように、ときどき考えさせられるのがこの番組の隠れた魅力だ。しかもご長寿たちの背景は、北海道から九州まで全国各地の地方色あふれるロケーションであり、どこか郷愁を誘われてしまう。
メインコーナーの「ご長寿早押しクイズ」に話を戻すと、全国予選は計6組実施。年齢と性別を列記していくと、1組目:87歳男性、83歳女性、81歳男性。2組目:79歳男性、82歳男性、94歳男性。3組目:96歳女性、85歳女性、81歳女性。4組目:95歳男性、85歳男性、85歳女性。5組目:84歳男性、85歳男性、87歳男性。6組目:82歳男性、83歳女性、88歳男性の計18名が参加し、男性12名・女性6名で、最年少が79歳・最年長が96歳だった。
中には、当番組の常連となっているお年寄りも多く、「〇年連続の出場」と紹介されると、ホッとした気持ちにさせられる。反面、過去の映像には、「すでに亡くなっている人も多いのでは……」という切なさがあり、複雑な気持ちになってしまう視聴者もいるだろう。
■よくできたコント台本のような結末
3時間番組が残り25分になったところで、いよいよ決勝戦がスタート。全国予選で珍答を連発していた82歳男性、85歳男性、94歳男性、88歳男性、96歳女性が選ばれたが、やはり5人に増えるとボケの破壊力が増していた。
すさまじい珍答合戦が繰り広げられ、まったく正解するムードがない中、最後の問題は「(日村勇紀の写真を見せて)この人が結成しているお笑いコンビの名前は何でしょう?」。
あるお年寄りが日村のおかっぱ頭を見て「ヘルメットデザイナー」と答えると、他のお年寄りも「ヘルメットのデザイナー」「ヘルメットデザイナー」「ヘルメットデザイナー」と立て続けにかぶせ、やっと違う答えが出たと思ったら「練りもの界を変えた男」という斜め上の珍答が飛び出すなど、もはや大喜利状態。
進行役から「〇〇〇マン」というヒントを出されても、「ムーニーマン」「ムーニーマン」と2人のお年寄りがまさかのユニゾン珍答をしたほか、「ドーベルマン」という解答を聞いた別のお年寄りが立ち上がって「秋田犬ワワワワ~ン、ワワワワ~ン」と遠吠えし、また別のお年寄りが「お座り~!」としつけるなど、よくできたコント台本としか思えないシーンが続出する見事なクライマックスだった。
もちろん制作サイドがある程度の誘導はしていて、編集の妙もあるだろうが、80・90代の超高齢者を思い通りにコントロールすることは難しい。たとえば台本を用意しても覚えてくれないどころか、読んでさえもらえないのではないか。
そして何より感心させられるのは手数の多さ。どんどん押してしゃべり始めるアグレッシブさは、「これぞ若手芸人に求められるものでは」と感じてしまった。けっきょく紅一点の女性が優勝し、商品券10万円分を獲得したが、それはほとんどおまけにすぎない。
この手の企画は必ずと言っていいほど、「お年寄りを笑い者にするなんてけしからん」という声が届くものだが、誰よりも本人たちが楽しそうなのだから大きなお世話だろう。むしろ、「こんな明るいお年寄りになりたい」と思う人のほうが多そうだ。
どこまでも「主役はお年寄り」というコンセプトの番組であるため、MCの明石家さんまに加え、日村勇紀、吉村崇、平野紫耀、滝沢カレン、近藤春菜をそろえたスタジオゲストのトークは、あくまで箸休めレベルに過ぎなかった。どんな笑いも自分のものにしてしまう“お笑い怪獣”さんまが一歩引いたポジションから見ていることがそれを証明している。
番組の構成・演出上そうあるべきなのかもしれないが、「特大クラスの笑いでければお年寄りに太刀打ちできない」という思いもあるのではないか。それほど破壊力があるにもかかわらず、あとくされのない笑いは笑い納めにふさわしく、それはコロナ禍でも変わらなかった。「年末の風物詩としていつまでも続いてほしい」と願わずにはいられない。
■次の“贔屓”は…番組史上最大の夢をかなえる『さんま・玉緒 夢をかなえたろかSP』
来週後半放送の番組からピックアップする“贔屓”は、1月10日に放送されるTBS系バラエティ特番『さんま・玉緒のお年玉! あんたの夢をかなえたろかSP2021』(18:30~21:54)。
「日本全国からかなえたい夢を募集し、番組からのお年玉として実現させる」というコンセプトの特番で、27年目の放送となる。
コロナ禍だからこそ、どんな夢を選び、かなえてあげるのか? 今回は制作サイドのセンスが問われる放送になるのではないか。「番組史上最大数の夢をかなえる」とうたっているだけに、重苦しいムードを払拭してくれそうな期待値は高い。