テレビ解説者の木村隆志が、先週注目した“贔屓”のテレビ番組を紹介する「週刊テレ贔屓(びいき)」。第152回は、11日に放送された日本テレビ系特番『第40回全国高等学校クイズ選手権(高校生クイズ)』をピックアップする。

1983年の第1回放送から40回目を数える日テレきっての歴史を持つ特番だが、今年はコロナ禍の影響をモロに受けてしまった。放送日は例年の9月から12月に変わり、決勝まですべての戦いがリモートで開催されたという。

はたしてこの形でも盛り上がったのか? 今年は伊沢拓司が『東大王』(TBS系)の枠を超えてブレイクしたほか、「QuizKnock」の人気も勢いを増すなど、クイズを取り巻く環境が好転しているだけに、各局のテレビマンたちにとっても注目の放送となるだろう。

■リモートとアバターでコロナ禍に対応

『高校生クイズ』総合司会の桝太一アナウンサー

今年のコンセプトも昨年に続いて、「知識や学力だけでは測れない難問に地頭力最強高校生たちが挑む」。つまり、クイズ研究会やクイズ部が有利な“クイズ王決定戦”ではなく、誰にでもチャンスがある間口の広い戦いとなった。

そして初めて導入されたのが、「高校生たちは地元からリモート参戦」「芸能人たちをアバターとして自由自在に操って問題を解くバーチャル形式」の2点。まさに前例のない試みであり、部活動の各種大会が中止されて高校生たちを落胆させる中、この形式を採り入れることで実現にこぎづけた制作サイドの勇気と努力は称えられるべきだろう。

まずは、全国の2,303校から予選を勝ち抜いた各県の代表50校が1回戦に挑む。「与えられた8つのライフポイントが不正解のたびに減り、0になったら敗退」というルールだが、50校分のリモート画面が映る映像は壮観そのもの。極寒の北海道と温暖な沖縄の服装差が見えるところも面白い。

着用する色違いのビブス、マウスシールド、ライフポイントのボード、答えを書くスケッチブックなどが各校に送付されるなど、スタッフによる事前の地道な準備もうかがえる。また、不正解者がライフポイントを減らす過程が高校生の手作業のため、間違いや不正がないようにスタッフが50校の様子をチェックしなければいけないことも手間の1つだろう。

50校はCGを駆使した「シュミレーション・ザ・ワールド」「バーチャル漢字クイズ」、乃木坂46の秋元真夏がバスガイドを務めた「行ったつもり修学旅行」、松丸亮吾考案の「ナゾトキデリバリー」、かぶらない答えを書く「THEオンリーアンサー」、対戦相手を指名できる「THEワーキングカー」「世界の地頭クイズ」が行われ、ジワジワと敗退校が増えていく。画面左上の「現在残り〇校」という表示がシビアであり、サバイバル感を醸し出していた。

■乃木坂を思いのままに操る高校生たち

1回戦を突破した15校が5校ずつ3組に分かれ、さらにゲストチームを含めた「6チーム中3チームが脱落」という形式で2回戦に挑んだ。どう見ても噛ませ犬のゲストチーム(乃木坂46、3時のヒロイン、JO1)を入れた理由は笑いと華か。6チームで「リモート古今東西」を行い、解答の文字数で次に答えるチームが決まるという形がユニークな対戦形式だった。

2回戦を勝ち抜いた9校が挑む3回戦は、130kgのおもりが乗った4.5m四方の風呂敷を取り出す「エスケープ・ザ・フロシキ」。クイズの内容そのものよりも、「乃木坂46と3時のヒロインをアバターとして高校生がリモートで指示を出す」という解答形式が新しい。制限時間の5分間、「芸能人と会話をかわしながらクイズを解く」という経験は、コロナ禍だから得られたものであり高校生たちにとっては貴重だ。

3回戦を勝ち抜いた5校が挑む4回戦は、共通する法則を見破る「サバイブ・ザ・4ゾーン」。不正解のたびに芸能人アバターがクリームバズーカ、墨汁プール、鉄球、トリモチを食らうという罰ゲームがバラエティらしい。アバターとなるのは、3時のヒロイン、JO1、四千頭身、YouTuberのはじめしゃちょーと水溜りボンドだが、「高校生と乃木坂46にはここまではやらせられない」というレベルの罰ゲームを仕掛けられるのもリモートバトルだからだろう。

4回戦を勝ち抜いた4校が次の「発泡スチロールの橋にある工夫を加えてJO1が折ることなく渡り切れば成功」というクイズに挑むも、まさかの全滅。決勝に進めるのは3校のみのため、専門家から「最も単純な方法を使った」と判断された高校が敗退した。

3校が挑む決勝のクイズは、巨大なヌルヌル山を登る「クライム・ザ・スリップ・マウンテン」。出題者の松丸は「地頭力をフル回転させなければ答えにはたどり着けない、頂点にふさわしい難問を持ってきました」と自信満々に語り、「ロープ2本、角材2本、自転車タイヤ1本、新聞5部、手袋5双、塩500g」の使用が許可された。

ここでのアバターはタレントではなくプロのスタントマン3人。番組サイドは「身長、体重、50m走、握力、特技がほぼ同じ3人をそろえた」と説明したが、それでも体力や対応力などの個人差は小さくないだろう。だからこそ3人には、「公平にするために、この方法でなければ登り切らないでください」と正解を告げておいたのではないか。

■リモートでは高校生の熱気が伝わらず

福島県の安積、千葉県の渋谷幕張、長野県の長野が決勝に挑み、「編まれたロープをほどいてつなぎ合わせ、その先にタイヤをつけて頂上に引っかけて登る」という答えを見つけ出した渋谷幕張が優勝。優勝した渋谷幕張高校は、「3人とも不器用なのでスタントマンさんがちゃんと結んでくれて輪投げを成功させてくれて感謝しかないです」、気づくのが少し遅れた安積高校も「すごい良い問題でした」と語るなど、高校生らしい清々しさを感じさせるフィナーレとなった。

せっかくいい余韻だっただけに残念だったのは、その後の表彰と有料コンテンツPR。まず「渋谷幕張高校の代理で乃木坂46が優勝旗と副賞の世界研修旅行と研修費を受け取る」という光景は、どこか気まずさが漂う不思議なムードだった。スポンサー対応であり、儀式なのだろうが視聴者は冷めてしまう。

さらにこれで終了……と思いきや、「Huluで『高校生クイズ』の未公開映像配信決定」「実は今日の放送では入り切らなかったが、他のクイズでもしのぎを削っていた高校生たち」「さらにJO1が高校生の指示のもと、発泡スチロールの橋を渡る?」とまくしたてるようにHuluのPRが流れた。ここ数年間、日テレの「続きはHuluで」戦略は評判が芳しくないだけに、「高校生を前面に押し出したコンテンツなのだから、これは有料を避けてもよかったのではないか」と感じてしまう。

ただ当番組は以前ほどの勢いはなく、今回の視聴率も個人4.2%、世帯6.9%と例年より低調に終わってしまったのも事実だ。同局が重視するコアターゲット(13~49歳)の個人視聴率こそ不明だが、「そろそろスポンサーだけに頼らないマネタイズが必要な番組」ということなのかもしれない。

もちろん今回は「コロナ禍によるリモート大会」という不利があったことを考慮しなければいけないだろう。ここまで書いてきたようにリモートの長所もあるが、やはり高校生ならではの熱気は伝わりづらかった。この大会に懸ける情熱、クイズを楽しむ幸せ、勝ち抜いたときの歓喜、敗退が決まったときの絶望など、高校生たちの体温が伝わってきたとは言い難い。むしろ千鳥や3時のヒロイン、乃木坂46やJO1が入り乱れるタレントバラエティの感があった。

また、2018年から導入されている“地頭力”を競うスタイルの大会形式も、熱気をそぐ一因となっている。学力やクイズ歴に関係なく誰でも参加できる反面、「たまたまこの問題が解けた。たまたま解けなかった」「1問のみで勝ち抜け、敗退」というあっけなさが熱気をそいでいるのかもしれない。

2017年までのようにアメリカをめぐる大会形式に戻すのは難しいとしても、「もう少し高校生たちのあふれる熱気や、こぼれ出る感情を見せてほしい」と思うのは欲張りだろうか。

■次の“贔屓”は…M-1ファイナル前夜に異なる笑顔を 『笑顔の瞬間スペシャル2020』

『笑顔の瞬間スペシャル2020』総合司会の羽鳥慎一(左)と徳永有美 (C)テレビ朝日

今週後半放送の番組からピックアップする“贔屓”は、19日に放送されるテレビ朝日系バラエティ特番『笑顔の瞬間スペシャル2020~あなたから元気をもらった!~』(18:30~20:00)。

「コロナ禍に見舞われて暗いムードの中、とびきりの“笑顔”で日本中を幸せな気分にしてくれたアスリート、アーティスト、歌手たちの1年を振り返る」というコンセプトの特番。『羽鳥慎一モーニングショー』の羽鳥慎一と『報道ステーション』の徳永有美が初タッグを組み、池江璃花子、ミルクボーイ、NiziU、藤田菜七子(JRA騎手)、LiSAらをピックアップするという。

テレ朝系列では、翌日夜に『M-1グランプリ2020』(ABCテレビ制作)の生放送が予定されている。コロナ禍の厳しさが増す中、異なるタイプの番組で視聴者に笑顔を届けようとする同局系の試みそのものにも注目していきたい。