テレビ解説者の木村隆志が、先週注目した“贔屓”のテレビ番組を紹介する「週刊テレ贔屓(びいき)」。第138回は、5日に放送されたTBS系バラエティ特番『審査員長・松本人志』をピックアップする。

同番組のコンセプトは、松本人志を審査員長に据えて、今まで開かれたことのなかった新しいコンテストを開催するというもの。同番組を放送する『土曜☆ブレイク』は単発特番枠で実験的な意味合いが強く、事実『ハイドアンドシーク~対戦型かくれんぼ~』『クイズ!オンリー1』などをゴールデンタイムに昇格させた実績がある。

松本を起用する以上、先の展開も予想されるだけに、見ておいて損はないはずだ。

  • 松本人志(左)と若林正恭

■開始早々、自ら大スベリする松本

松本が開口一番、「これ絶対『水曜日のダウンタウン』のドッキリよね?」と番組そのものを疑ってかかった。ボケではあるものの、確かに番組名も内容も、そう感じてしまいそうな感がある。

MCのオードリー・若林正恭が「違いますよ。レギュラー狙ってる番組ですよ」と否定すると、松本は「番組のタイトルが、『俺やる気満々』みたいな。『何か俺すげえ調子に乗ってる』みたいな。全然そんなんじゃないから」とボヤき続けて笑わせた。

ここで番組紹介のVTRが流れる。「『キングオブコント』や『M-1』で芸人たちの人生を激変させてきた松本人志の見極める目。何もそれは笑いに限ったことではない。そんな松本を審査員長に据えて開催するのは前代未聞の賞レース……照れずに読めば子どもが笑う絵本コンテスト、近未来テクノロジーコンテスト」というナレーションが聞こえてきた。内容こそ理解できたものの、松本の類まれな才能に特化した番組なのか、それとも、松本をイジって楽しむ番組なのか。この段階ではまだ分からない。

最初の賞レースは「照れずに読めば子どもが笑う絵本コンテスト」。3人の絵本マニアがそれぞれおすすめをプレゼンして大賞を決めるという。1人目は自宅に1,000冊を持ち、絵本の普及活動を続けるドンハマ★さんの「えがないえほん」。

ドンハマ★さんが「子どもたちは必ず笑い、200回以上やって一度もすべったことがない」と自信満々に語ると、すかさずMEGUMIが「逆にスベッたら読み方がクソ悪いってことですよね」とハードルを上げる。次に若林が「この絵本のスゴさを体感してもらうために、スタジオ内に読み聞かせ部屋をご用意しております」と説明したあと、「誰が読むか? 慣れている人がいいですよね……じゃあ、松本さん」と無茶振り。松本は「ホンマに聞いてない…。これはないんちゃうの、1発目」とボヤきながらも、5人の5歳児が待つ読み聞かせ部屋へ向かった。

松本は「この子たちは俺の芸能界でのランク分かってんのかな。それが分かってない子には僕はすごく非力なんだよね」とつぶやきながら入室したが、「誰? 誰?」と近づいてきた子どもたちを前に逃げ出してしまう。さらに、「ムリムリ。俺のこと知らんねんもん。俺は知ってるヤツにかますのが得意やねん」と弱々しい姿でボヤいて笑わせた。

早々から松本は「イジられ、嫌がりながらも続ける」という最近ではほとんど見せないMっ気を感じさせていた。この時点で土曜午後の番組とは思えない豪華さを感じた人は多かったのではないか。ちなみに、松本の読み聞かせは子どもたちにほとんどウケず、芸人としても大スベリしてしまった。もちろん松本は自ら大スベリに行ったわけであり、構成・演出としては大成功と言える。

■審査結果発表は『M-1』のパロディ

2人目は神保町唯一の子どもの本専門店店長・茅野由紀さんの「ぞうのボタン」。劇団ひとりが「これも員長ですよ」と松本に読み聞かせを振ったが、「俺の稼働多すぎるやろ」とツッコミを入れて、みちょぱこと池田美優が読むことになった。みちょぱは子どもたちから「もう1回読んで」とせがまれるなど大成功。松本は「(俺と)いい勝負だったね」と強がってここでもきっちり笑いを作っていた。

3人目は年間1,800冊を子どもに読み聞かせているナレーター・熊崎友香さんの「ちちんぱいぱい」。劇団ひとりが顔芸をフル活用した邪道な読み聞かせで失笑を呼び、松本に「顔芸のやつ、もしよかったら員長(も使ってみて)」と上から目線でアドバイスした。やはり松本に絡めて笑いを取ろうとしている。

けっきょく松本が読み聞かせをしたのは最初の1冊目のみ。もし松本をイジって楽しむことに徹する番組なら、すべて読ませるべきなのだろう。しかし、ゴールデン昇格を狙っているのなら、ゲスト審査員を絡めたほうがさまざまな形での笑いを生み出しやすい。松本が自ら口火を切り、ゲスト審査員にも体を張らせて異なる面白さを見せたことから、本気で昇格を狙っている様子が伝わってきた。

最終審査の結果は「『M-1グランプリ』とほぼ同じ開票画面」という遊び心を交えて発表され、くっきー!、みちょぱ、劇団ひとりが「ぞうのボタン」、MEGUMIが「ちちんぱいぱい」、松本が「えがないえほん」を選び、優勝者に“まつもトロフィー”が贈呈された。

続く、もう1つの賞レースは、「近未来テクノロジーコンテスト」。3人の研究者が「世界を変えるかもしれない発明品」を引っ提げてスタジオに現れた。

1人目は時空間を超えたハグができる「遠隔ハグマシーン センスロイド」の電気通信大学・高橋宣裕さん。まずは劇団ひとりとみちょぱが「不良少年と同級生」という小芝居を交えてハグを体感して盛り上げたあと、松本もくっきー!のハグを遠隔で体験し、「これすごいくる。アッ……アアッ……」ともん絶した。

2人目は舌に電流を流して味覚を操り、まずいものをおいしくできる「味エフェクター」の大阪芸術大学・安藤英由樹教授。塩水が濃くなったり、薄くなったりする装置をMEGUMIと松本が体感し、「プールで泳いでて、急に海へ出たみたい」と驚きの声をあげた。

3人目は自分の好きなタイミングでおもらしができる「失禁体験装置」の電気通信大学・亀岡嵩幸さん。劇団ひとりと松本が体感し、松本は「あっ……ごめん。ごめんなさい。出ちゃった。スタジオでおしっこしちゃった。マジマジマジ。モップある? ビチャビチャな感じする。気持ちよさもある」と動揺しまくって笑わせた。

3つとも、「まずゲスト審査員が体感し、次に松本が体感してオチをつける」という構成がそつなくハマっていた。この番組、タレントもスタッフも仕事の質が高い。

■話題・笑いに情報・教養のテイストも

最終審査の結果、松本、MEGUMI、劇団ひとり、くっきー!が選んだ遠隔ハグマシーンが優勝。最後に3つとも体験した松本が「ハグマシーンは今後いろんなものへの広がりを感じましたね」と称えつつ、「失禁マシーンも一部のマニアにはすごくウケると思います」とオチをつけて番組は終了した。

確かにハグマシーンは、遠距離恋愛やアイドルビジネスなどに使えるなど汎用性が高そうだ。また、味エフェクターと失禁体験装置は医療用での活用が期待できるなど、意外なほどガチな発明品がそろっていた。絵本のセレクトを見ても、単にお笑い寄りのバラエティではなく、「ちょっとためになる」情報・教養のテイストが含まれている。こうしたテーマ選びなら、ファミリー視聴の多いゴールデンタイムでの放送も十分可能だろう。

やはり特筆すべきは、松本が前面かつ全面に出て体を張ることで、希少価値の高さ=話題性につなげ、さらに笑いを生み出していたこと。劇団ひとりが「こんな審査員長が見られるなんて」と声をあげていたことからわかるように、それくらいの1周まわった新鮮さがあった。

ただ、前述した「松本の類まれな才能に特化した番組なのか、それとも、松本をイジって楽しむ番組なのか」という疑問に対する答えは、まだ分からない。実際、松本の才能に特化するようなシーンも、イジって楽しむシーンもあったし、情報・教養のテイストもあったからだ。「今回はあくまでパイロット版」というのなら、そのあたりのバランスはゴールデン昇格に向けて整えていくのではないか。

その他でも、穏やかに微笑みながらしっかり毒を吐く若林のMC、ゲスト審査員たちの一般人出演者イジリなど、細部に渡る笑いがきっちり組み込まれ、すでにパッケージとしての完成度は高かった。スタッフとタレントの力がガッチリ噛み合っていただけに、あとは枠とターゲット層を踏まえて、どう調整していくのか。次回の放送を楽しみに待ちたい。

■次の“贔屓”は…ビューティーコロシアムの再来!?『ビューティゴッドハンド』

『ビューティゴッドハンド』MCの千原ジュニア(左)と竹内由恵 (C)フジテレビ

今週後半放送の番組からピックアップする“贔屓”は、13日に放送されるフジテレビ系バラエティ特番『ビューティゴッドハンド 整形で生まれ変わりたい女性たち』(20:00~21:54)。

悩みを抱え、「外見を変えて人生も変えていきたい」という女性の思いに一流の美容外科医たちが応える……というコンセプトは、かつての『B.C.ビューティーコロシアム』を彷ふつさせる。同番組が終了してから時代が変わり、整形手術に対する価値観も変わる中、どんな構成・演出なのか興味深い。

気になる出演女性は、「韓流アイドルの顔になりたい23歳の女性」「家族を養うためにキャバクラで働くシングルマザー」「老けて見られる顔を何とかしたい」の3人。『世界の果てまでイッテQ!』(日本テレビ系)、『ポツンと一軒家』(テレビ朝日系)、『麒麟がくる』(NHK)、『半沢直樹』(TBS系)などの超人気番組がそろう中、良い意味で賛否を巻き起こせるか。