鉄道車両の型式番号は「後から作られたほうが大きい」が通例だ。100形よりは200形のほうが新しく、4000系より4500系のほうに最新技術が投入されている。もちろん例外もあって、例えばつくばエクスプレスの場合、開業時から「1000系」と「2000系」の2種類を投入した。この2形式、外観はそっくりだが決定的に違う部分がある。
では、さっそく見てみよう。つくばエクスプレスの1000系と2000系が以下の写真だ。
外観はそっくり……だが、2000系は赤い帯が多い。ただし、これは最近増備されたタイプである。開業時から運行している2000系は赤帯が上部だけで、1000系と本当にそっくりだ。しかし、よくみると外観の違いは1つ見つかる。「1000系」は1編成あたりのパンタグラフが3本あって、「2000系」は4本あるのだ。
通勤や通学などでつくばエクスプレスを利用している人は、さらに違いがあると気づいているだろう。「1000系」は全車両がロングシートだ。「2000系」は中間にクロスシートの車両がある。秋葉原で見ていると、「1000系」はすべて守谷行き。「2000系」は守谷行きとつくば行きがある……。モバイルPCユーザーなら「2000系」にはブロードバンド設備がると知っているだろう。もっともこれは後から付けられた機能である。
こうして見ていくと、なんとなく「2000系は長距離列車用」という意図が伝わってくる。しかし、これも妙な話だ。つくばエクスプレスの路線延長は58.3km。秋葉原駅 - 守谷駅間は37.7km。守谷駅と終点のつくば駅は20.6km。たった20km程度の差で、車両の用途を分ける必要があるだろうか。すべての車両を同じ形式で揃えたほうが、製造コストも安く済むはずだ。それにもかかわらず、つくばエクスプレスが開業時に「1000系」と「2000系」の2種類を投入した。そこにはこの路線ならではの理由がある。
守谷駅の北と南で電化方式が違う
つくばエクスプレスは、秋葉原駅 - 守谷駅間が首都圏の大手私鉄と同じ直流電化、守谷駅の少し先からつくば駅までは交流電化になっている。これは、気象庁の地磁気観測所が茨城県石岡市にあるためだ。直流電化区間は地磁気の観測に影響を与えるため、わざわざ交流電化区間として建設された。
では、全線を交流電化にすればよかったのでは? と思われるかもしれないが、そうはいかない事情もあった。つくばエクスプレスは構想段階で「常磐新線」と呼ばれ、JRが運行する予定だった。地下鉄など都心の直流電化路線との乗り入れも考えられていたという。さらに、交流電化は電圧が高いため、秋葉原付近の地下区間には危険だったという説もある。
こうした経緯で路線の途中で電化方式が変わり、「2000系」は直流区間と交流区間の両方に対応している。一方で、都心に近い区間は列車の本数も多く設定されることから、直流電化区間専用で「2000系」より製造コストの低い「1000系」も作られた。
つくばエクスプレスは今でこそ営業成績が好調だが、建設当時はかなり収支予測が厳しかった。そこで、少しでも車両製造コストを削減するため「1000系」と「2000系」の2本立てになったという。
ただし、現在は営業成績が好調となっており、列車も増発を続けている。そこで増備される車両は「2000系」が主だ。これが「赤帯付きの2000系」である。運行区間に制約のない「2000系」を増備したほうか運用しやすい。新規製造分は「2000系」に揃えたほうがコストメリットがあるということだろう。