エコカーの代表はハイブリッド自動車だ。エンジンとモーターを搭載し、低速時はモーターで、フル加速時はエンジンも使う。エンジンだけのクルマより大幅に低燃費だという。最近ではバスにもハイブリッド車がある。そして、鉄道にもハイブリッドカーが登場した。
世界で初めて実用化されたハイブリッド鉄道車両は、JR東日本が開発した「キハE200形」だ。2007年に3両が製造され、小海線に投入されている。通常は2両編成で運行し、1両は予備や点検のため待機しているという。書店で発売されている大判の時刻表で小海線を調べると、キハE200形を使用する列車には「ハイブリッド車両で運転」と明記されている。
実態は「発電所を搭載した電車」
キハE200形は、ディーゼルエンジンで発電機を回し、発生した電力でモーターを回転させて走行する。ディーゼルエンジンは車軸とは直結していない。自動車のハイブリッドカーのベストセラーとして知られるトヨタ「プリウス」や、そのライバルとされるホンダ「インサイト」はエンジンの力を車軸に直接伝える機構があるため、E200形とはちょっと違う。
また、ディーゼル発電機は電力発生のみ、という機構は、古くから「ディーゼル・エレクトリック」方式として実用化されていた。国鉄時代にもディーゼル機関車の一部に採用されており、近年ではJR貨物のDF200形ディーゼル機関車も「ディーゼル・エレクトリック」方式だ。
それでは、キハE200形が「ハイブリッド」な理由は何かというと、バッテリーを搭載しているから。モーターを回すエネルギー源として、エンジンからの電力とバッテリーからの電力を組み合わせる(ハイブリッドする)仕組みになっている。自動車にも似たような仕組みがあり「シリーズ方式」と呼ばれている。トヨタのマイクロバス「コースター」や三菱ふそうの路線バス「エアロスター」がこの方式だ。
「プリウス」や「インサイト」は低速時はモーターのみ使用する。だから街中の走行中は静かだ。しかしE200形は従来のディーゼルカーと比べて意外と騒がしい。発車した直後や駅の停車中こそ静かだが、走行中のほとんどの時間は常にエンジンを回転させている。これは小海線に勾配区間が多く、常に大きな駆動力が必要なためだろう。そして筆者の乗車時が真夏で、エアコンのためにも電力が必要となり、発電機がフル回転していたからかもしれない。
もっとも「ハイブリッドカー=静か」という図式は、モーター駆動の副産物のようなもの。ハイブリッドの本来の意味は低燃費である。キハE200形は回生ブレーキも搭載しており、減速時の車輪の回転力で発電機を回し、発生した電力をバッテリーに蓄える。また、低速時もエンジン回転数を高めてフル発電し、余った電力はバッテリーに蓄えられる。そのバッテリーの電力を駆動力に利用するため、従来のディーゼルカーより約10%の省エネルギーを実現したという。
また、E200形のメリットは「有害排出物を削減して自然環境に優しい」ことだ。エンジンは最適な回転数より低いと不完全燃焼しやすくなって、有害排出物が増える。燃料を効率的に燃焼させるには一定以上の回転数が必要だ。従来のディーゼルカーは低速時はエンジン回転数が低くなり、有害排出物が出やすかった。E200形は、排気ガス対策機構付きのエンジンを常に効率的な回転数で稼働できるため、従来のディーゼルカーよりも有害排出物と粒子状物質を約60%削減できるという。
八ヶ岳山麓や清里高原の自然を守るために、キハE200形はぴったりといううわけだ。なお、JR東日本はこの方式のハイブリッド方式を採用したリゾートトレインを製造しており、今後、五能線、津軽線、大湊線、大糸線で走らせる予定とのことだ。