現在、国内を走る旅客列車は電車または気動車が主流となり、機関車・客車で運行される列車は少数派となった。気動車はしばしばディーゼルカーとも呼ばれる。ディーゼルカーを示す記号「キ」は気動車の「キ」だ。しかし、正確には気動車とディーゼルカーがまったく同じ意味というわけではない。

  • ディーゼルカーは気動車の分類のひとつ

日本の気動車のほとんどがディーゼルカーという状況だけど、気動車は「内燃機関を搭載した客車」を意味し、気動車の中でディーゼルエンジンを搭載していればディーゼルカーとなる。では、ディーゼルエンジン以外の内燃機関には何があるのか。自動車でいえば、ガソリンエンジンが内燃機関の代表だろう。

かつて、日本の鉄道にもガソリンエンジンを搭載した車両があり、「ガソリンカー」と呼ばれた。しかし、ディーゼルカーが使う軽油に比べて、ガソリンは高価で揮発性が高く、火花などから引火しやすかった。そこでディーゼルエンジンが主流になっていった。戦時中は物資不足から、木炭ガスを使った気動車も製造された。その他、ガスタービンや天然ガスを使用した気動車もあったそうだ。

さて、気動車の燃料がいろいろあると理解した時点で、もうひとつ、鉄道で使われた燃料を思い出してほしい。そう、蒸気機関車の燃料である石炭だ。蒸気機関の多くはボイラーで石炭を燃やす。ディーゼルエンジンを搭載した客車をディーゼルカーと呼ぶなら、蒸気機関を載せた客車、スチームカーがあってもおかしくない。その予想は当たり。実際に蒸気機関を搭載した気動車もあった。蒸気動車だ。

  • 蒸気動車ホジ6005形

愛知県のリニア・鉄道館では、蒸気動車の実物「ホジ6005形式蒸気動車」が展示されている。車両の片側にボイラーを搭載し、シリンダーを介して車輪に動力を伝える方式だった。ただし、外観は機関車と異なり、電車のように両側に運転台を有する。蒸気動車では石炭をくべる機関助士も乗務した。

リニア・鉄道館の展示資料によると、「ホジ6005形式蒸気動車」は1913(大正2)年に製造されたとのこと。蒸気機関車と客車を一体とし、「2両で走るところを1両で済ませよう」というコスト意識で作られたようだ。

  • 車内にボイラーがある

  • 車輪には蒸気機関車のようなロッドが付いている

現代のワンマン列車と比べたら、運転士と機関助手の2人必要なので人件費は上がる。しかし蒸気機関車と客車を組み合わせ、車掌の業務を機関助手が担当すれば、列車の乗務員を1人減らすことができた。まさしく合理的で、蒸気動車は戦時中だけでなく、戦後もしばらく地方ローカル線で活躍したという。