日暮里・舎人ライナーは東京都交通局が運行する新交通システムの路線で、日暮里~見沼代親水公園間9.7kmを結び、所要時間は21分。日暮里駅から乗ると、都道放射11号線「尾久橋通り」に沿って高架線を北へ進み、隅田川と荒川を越え、毛長川の手前の見沼代親水公園駅に着く。そこから約300mで埼玉県川口市との境界になる。

  • 日暮里・舎人ライナーに昨年導入された新型車両320形

新交通システムは高架区間が多く架線もないため、上空がすっきりとしている。とくに日暮里・舎人ライナーは眺めが良いと思う。「公園の上にいるようだ」といえば少し言い過ぎだけど、川を渡る場面や舎人公園付近はとくに気持ちが良い。市街地区間も周辺の建物と離れており、沿線の植栽も多い。晴れた日に乗ると青空が広く見える。

この日暮里・舎人ライナーの良い眺めは偶然ではない。じつは、足立区の景観条例によって保たれている。足立区は2004(平成16)年に制定された「景観法」に基づき、「自然」「歴史」「にぎわい」などを軸とした景観計画を策定。その中で「日暮里・舎人ライナー沿線地区」という区分を作り、建築物、工作物、開発行為の基準を設けている。

たとえば、建築物では「沿道に建築する場合は、道路側に空地を確保する」「高さは、周辺建築物群のスカイラインとの調和を図る」「3階を超える部分は、放射11号線の道路境界から外壁を後退させるなど、圧迫感の軽減に努める。また、低層部の屋上を緑化するなど潤いのある景観の創出に努める」など、15項目が定められている。

広告看板や外壁などの工作物については、「周辺のまち並みから突出する長大な壁面の工作物は避け、圧迫感の軽減を図る」「軌道より高い部分は、放射11号線の道路境界から後退させるなど、圧迫感の軽減に努める」「外壁や柱の素材は、美観が損なわれにくく、極端に光沢があるものは避ける」など、5項目が定められている。

土地の開発に関しては、「敷地内に、樹高が10m以上で幹周り1.2m以上(足立区保存樹対象基準)又は樹高15m以上の樹木や地域のシンボルとなる樹木がある場合は、それらの保全に適切な植栽土地面積の確保に努める」とある。つまり、大きな木を切ってはいけない。

足立区が定めた景観条例によると、これらの基準に反する建築物、工作物、開発について新しい案件は許可されないという。基準に反する案件は助言または指導ができる。ただし、重要事項を調査審議するために、識者による足立区景観審議会を設置する。

景観条例や景観に関する制限は、全国の自治体で定められている。しかし、足立区のように特定の路線の沿線を指定地域とする例は珍しいかもしれない。

こうした背景を考えると、市街地に派手な看板が少ないことも納得できる。バブル期なら、車窓から目立つ場所に赤いサラ金の看板が立ち並んでもおかしくなかった。夜間の景色は少し地味で、オフィスや住宅の窓の明かりと街灯がある程度。ただし、手前の風景が落ち着いているため、遠くの夜景が見えて楽しいともいえる。

こうした足立区の施策もあり、日暮里・舎人ライナー沿線はそこに住む人や舎人公園・見沼代親水公園に行く人だけでなく、ただ乗って景色を眺めるだけでも楽しい路線になっているようだ。