のと鉄道は能登半島の七尾~穴水間で列車を運行(七尾~和倉温泉間はJR七尾線)する第三セクター鉄道。2011年に放送されたアニメ『花咲くいろは』に登場した縁で、現在も「聖地巡礼」に訪れるファンがいるという。のと鉄道ではアニメキャラクターを描いたラッピングトレインを走らせているし、アニメで「湯乃鷺駅」として登場した西岸駅には「ゆのさぎ」の駅名標もある。

  • のと鉄道能登線(2005年廃止)の位置(国土地理院地図を加工)

ところで、のと鉄道で2005年に廃止された穴水~蛸島間の能登線に「いろは……」の順に命名されたトンネルがあった。アニメ放送開始の6年も前で、関連性はなさそうだけど、偶然にしてはおもしろい。アニメの登場人物の名前に「輪島」「和倉」など石川県の地名が使われているため、もしかしたらこのトンネルたちも関連があるかな? と思うけれども、『花咲くいろは』の題名の由来に関する公式発表はないようだ。

能登線は1959年、国鉄能登線として穴水~鵜川間22.9kmが開業。トンネルの数は11カ所だった。それから少しずつ延伸し、1964年に蛸島駅まで開業した。穴水~蛸島間は61.1km。トンネルの数は49か所になった。しかし自動車交通が発達した影響で乗客数は減少したため、赤字路線だった。能登線は赤字国鉄の経営再建のため、廃止またはバス転換を検討すべきという路線のリスト「赤字83線」にも入ってしまった。

その後、1987年に石川県が主体となり、第三セクター鉄道「のと鉄道」を設立。能登線を引き受けて存続させた。しかし乗客減に歯止めがかからず、能登線は2005年に廃止されている。のと鉄道は発足当時の路線が廃止され、後から引き受けた七尾線一部区間のみ存続するという形になった。

  • 能登線のトンネル入口にひらがなが表示されていた(2005年、筆者撮影)

能登線にトンネルが多かった理由は、トンネル掘削技術が進んでいたこと、経由地を最短で結ぶために直線的なルートを選択したこと、用地買収が少なくなり、建設費や運行経費を低くできることなどがある。戦後に着工された鉄道路線に共通する特徴といえる。

能登線のトンネル(隧道)をまとめた。実際は正式なトンネル名があり、49カ所から連想して、愛称として「いろは……」の順でひらがなを振ったようだ。

穴水駅
1 穴水隧道
2 麦ヶ浦隧道
3 仲居隧道
仲居駅
4 第一比良隧道
5 第二比良隧道
比良駅
6 川尻隧道
鹿波駅
7 鹿波隧道
8 野並隧道
甲駅
9 黒崎隧道
10 沖波隧道
沖波駅
前波駅
古君駅
11 大円山隧道
鵜川駅
12 鵜川隧道
七見駅
矢波駅
13 波並隧道
波並駅
藤波駅
14 第一宇出津隧道
宇出津駅
15 第二宇出津隧道
16 第三宇出津隧道
17 第四宇出津隧道
18 第五宇出津隧道
19 第一田の浦隧道
20 第二田の浦隧道
21 第三田の浦隧道
22 第四田の浦隧道
23 第一羽根隧道
羽根駅
24 第二羽根隧道
25 第三羽根隧道
26 第一小浦隧道
27 第二小浦隧道
28 第三小浦隧道
小浦駅
29 第四小浦隧道
30 第一真脇隧道
31 第二真脇隧道
32 第三真脇隧道
縄文真脇駅
33 小木隧道
九十九湾小木駅
34 越坂隧道
35 新保隧道
36 長尾隧道
白丸駅
37 樋山隧道
38 九里川尻隧道
九里川尻駅
39 第一九里隧道
40 第二九里隧道
松波駅
41 松波隧道
42 恋路隧道
恋路駅
43 宗玄隧道
鵜島駅
44 第一鵜島隧道
45 第二鵜島隧道
46 第三鵜島隧道
南黒丸駅
鵜飼駅
47 谷崎隧道
上戸駅
飯田駅
48 春日隧道
49 すず 珠洲隧道
珠洲駅
正院駅
蛸島駅

トンネルの数は49カ所。「いろは……」は48文字。49番目のトンネルが余ったけれども、ここには「すず」と書いてあった。珠洲隧道という正式名称からだろうか。

能登線は能登半島の東岸を走っていた。駅名に「波」という字が多いことからもわかるように、海岸沿いの景色の良いところを走る路線だった。とくに恋路駅は悲恋の伝説があるところだという。現在、のと鉄道は観光列車「のと里山里海号」を走らせている。もし能登線が健在だったら、恋路駅とからめた観光列車を作れたかもしれない。