東海道線東京~小田原間で、通勤時間帯に「湘南ライナー」という列車が走っている。座席定員制だから必ず座れる。ただし、乗車するためには510円のライナー券が必要だ。

上り「湘南ライナー」のライナー券は、乗車前日の9時30分から販売。あるいは「ライナーセット券」といって、平日の毎月1日から末日まで1カ月分をまとめたきっぷもある。こちらは乗車月の前月の1日14時から乗車月2日前までの販売だ。下りライナー券は乗車日1カ月前の10時から販売する。こちらは特急券と同じタイミングである。

ライナー券は駅の窓口のほか、ホーム上の自動販売機でも購入できる。ただし、人気列車だから乗車直前にライナー券を買おうとしてもすでに満席。買えたらラッキーだ。特急形電車や2階建てクロスシートの座席でゆったりと通勤できる。

ところが、普段「湘南ライナー」乗り慣れていない人は車窓にびっくりするかもしれない。いつもの東海道線とは景色が違うからだ。スマホで地図を表示して、GPS機能で現在地を確認すると、横浜駅の北のほう、ずいぶん離れたところを走っている。一体「湘南ライナー」はどこを走っているのだろうか?

「湘南ライナー」にも使用される251系(写真はイメージ)

じつは、「湘南ライナー」の一部は貨物列車用の線路を走っている。「湘南ライナー」は下り9本・上り6本が走っているけれど、このうち貨物線を経由する列車は下り「湘南ライナー1号」、上り「湘南ライナー4・6・8・10・12号」だ。

上り貨物線経由列車の場合、小田原駅を発車するとすぐに東海道貨物支線に入り、東戸塚駅までは東海道線の旅客線と並行する。旅客線と貨物線の複々線区間だ。旅客線を走る普通列車を、貨物線を走る「湘南ライナー」が追い越す場合もある。

東戸塚駅からは東海道線を離れ、横浜駅を通らずに北側を迂回。羽沢貨物駅を通過し、鶴見駅付近で東海道線と並び、今度は横須賀線の線路を経由して品川駅着。東京駅に向かう列車はそのまま横須賀線の線路を走るため、新橋駅と東京駅は地下ホームに到着する。

この貨物線ルートは、小田原発新宿行「おはようライナー新宿」「ホームライナー小田原」も利用する。「おはようライナー新宿」は3本中2本が小田原駅から貨物線を走り、鶴見駅付近から湘南新宿ラインルートで新宿へ。もう1本は小田原駅から茅ケ崎駅まで東海道線を走り、茅ケ崎駅から貨物線ルートに入る。下りは新宿駅から湘南新宿ラインルートで、鶴見駅付近から茅ケ崎駅までが貨物線だ。

ちなみに、寝台特急「サンライズ出雲・瀬戸」も、上り列車は小田原駅から茅ケ崎駅まで貨物線経由。ダイヤが乱れて遅れた場合は、そのまま「湘南ライナー」と同じ貨物線ルートで品川駅に着き、そこで打ち切りとなる。

埼京線・湘南新宿ラインも、横須賀線も…

そもそも「湘南ライナー」は、「東海道貨物線を利用して旅客列車を増発しよう」というアイデアから生まれた。貨物線を利用すると横浜駅や川崎駅などの主要駅を経由しないため、都心へ直行する列車として設定された。

貨物線を利用した旅客列車は他にもある。じつは、湘南新宿ラインの田端駅付近から大崎駅までの区間は貨物線。埼京線の池袋~大崎間も重複しているけれど、この線路は山手線に並行する貨物線で、山手貨物線と呼ばれている。かつて恵比寿にあったビール工場からビールを運んだ列車もこの路線を通っていた。現在も早朝・深夜に貨物列車が走っている。名古屋発盛岡行の貨物列車「TOYOTA LONGPASS EXPRESS」も、1本はこのルートだ。

横須賀線・湘南新宿ラインが走る品川駅・大崎駅から西大井駅・新川崎駅経由で鶴見駅までの区間も貨物線だ。正式には東海道貨物支線。通称は品鶴線だ。

その他にも、大宮駅と八王子駅・府中本町駅を結ぶ普通列車「むさしの」は、武蔵野線の貨物支線のうち国立~新小平間や西浦和~大宮間を走る。大宮駅と西船橋駅・新習志野駅・海浜幕張駅を結ぶ普通列車「しもうさ」も、大宮~武蔵浦和間は武蔵野線の貨物線だ。

臨時列車の「ホリデー快速鎌倉」は南越谷駅と鎌倉駅を結ぶ。このうち、府中本町駅と鶴見駅付近との間が武蔵野線の貨物列車専用区間だ。

関西では、関空特急「はるか」と紀勢本線方面の特急「くろしお」が梅田貨物線の吹田貨物ターミナル~西九条間を経由する。京都駅・新大阪駅を経由して阪和線に入るために貨物線を利用している。したがって大阪駅を経由できない。

臨時列車を含めると、各地に貨物線経由の旅客列車が存在した。上に挙げた例はほぼ毎日走り、運行頻度が高い列車だ。もっとも、貨物専用線とはいえ、線路の所有者はJR東日本やJR西日本など旅客鉄道会社だから制約は少ない。わざわざ貨物線を乗車体験する団体列車が走った例もある。

京葉線や武蔵野線は貨物線として建設されて、後に旅客線となったし、あおなみ線やおおさか東線も貨物線だった。東海道貨物支線は旅客線化の要望が強い。東京と九州を結ぶ寝台特急が大阪付近で貨物線を経由した例もある。現在は「湘南ライナー」だけが走る羽沢貨物駅付近の貨物線も、2018年度内に相模鉄道との相互直通運転を始める予定だ。

現在は貨物列車専用という線路は、いつ旅客列車が走ってもおかしくはない。

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