北陸新幹線の長野~金沢間が3月14日に開業する。そのために作られた車両といえばJR東日本E7系・JR西日本W7系だ。どちらもロゴマーク以外は共通の外観だけど、じつは最近の新幹線車両に必ず付いていたある部品がない。そのために、外観上、赤い"アレ"が丸見えになっている。
エッチなようでエッチじゃない、大人のジョークみたいな話だけど、もちろんこの話も真面目な話。赤い"アレ"とは「パンタグラフ」、最近の新幹線車両に必ず付いていた部品とは「遮音板」だ。JR東日本の他の現役新幹線車両、E2系・E3系・E5系・E6系はパンタグラフ付近に遮音板が付いている。JR西日本の現役新幹線車両、500系・700系・N700系も同じく遮音板が付いている。ところが、E7系・W7系には遮音板が付いていない。
遮音板はその名の通り、音を遮るための板。パンタグラフは最上部の舟体という板が架線に接触して電気を取り込んでいる。だから架線と舟体が接触し、高速でこすれ合っている。そのため、走行中はつねに「シュー」というという音が出てしまう。また、車体から飛び出しているので風切り音も出る。その他、車体の上下移動や風の巻き込みによってパンタグラフと架線が一瞬離れると、パチパチというスパークが起こる。
こうした騒音は新幹線沿線に迷惑をかけてしまうから、遮音板を設置して騒音を減らしている。かつては遮音板ではなく、パンタグラフの周囲を覆う「パンタグラフカバー」が使われていた。パンタグラフを取り囲む城壁のようなしくみで、かなり大きく外観上も目立った。パンタグラフカバーはパンタグラフの音を封じ込めてくれたけど、その後の研究開発によって、列車の速度が上がった場合、パンタグラフカバーそのものが空気抵抗となり、騒音源になっているとわかった。
そこで考え出された新たなしくみが遮音板と新しいパンタグラフだ。まず、パンタグラフの空力と架線への追随性を改善し、パンタグラフそのものからの騒音を減らす。その上で最小限の遮音壁を設置する。JR東日本はE5系の試作車「FASTECH360S」で実験を重ねた結果、騒音レベルを効果的に減らす遮音板を開発した。こうして、従来は大きなパンタグラフカバーを付けていたE2系なども、新しいパンタグラフと遮音板に変更されている。
それほど効果的な遮音板が、E7系・W7系では設置されていない。その理由は、走行区間の最高速度が時速260kmに設定されているからだ。パンタグラフからの騒音は、速度が高くなるほど大きくなる。東北新幹線や山陽新幹線では最高速度が時速300kmに達する。だから遮音板は必要。しかし時速260km程度だと、パンタグラフの騒音は比較的小さい。遮音板をなくしたことで、遮音板そのものから発生する風切り音も消え、好都合というわけだ。
同じ理由で、九州新幹線内を走行するJR九州の800系電車も遮音板がない。また、JR東日本の新幹線車両E1系(現在は引退)・E4系も遮音板がない。2階建て構造のため、車体が高く、パンタグラフのほうが車体側面に隠れた。車両自体がパンタグラフカバーの役割だったといえる。