JR東日本では、自社の車両だけでなく、東武鉄道や東京メトロ、小田急電鉄などの電車も走る区間がある。相互直通運転を行っているから、というのが理由で、お互いの電車がお互いの線路を行ったり来たりしている。ところで、JR東日本と西武鉄道は現在、相互直通運転を行っていないけれど、JR東日本の線路なのに西武鉄道の車両しか通らない区間がある。自社の車両が走らないとは、一体どういうことだろう?
JR東日本の線路だけど西武鉄道の電車しか通らない。そんな奇妙な区間は、武蔵野線の新秋津駅(東京都東村山市)付近にある。同駅から西武池袋線の所沢駅を結ぶ連絡線だ。単線で、新秋津駅寄りの1.6kmがJR東日本、残りの区間は西武鉄道が保有している。
西武側の線路はしばらく池袋線と並んでいるので、連絡線とは判別しづらい。しかし、所沢駅から秋津駅に向かう電車に乗って外を眺めていると、やがて右側の線路が池袋線から離れていくのが見える。その線路が途中からJR東日本の所属に変わり、トンネルを通り抜けて新秋津駅の南側に出て、武蔵野線に合流する。
西武鉄道はかつて貨物列車を運行していた。沿線から採取されるセメントや石灰石をはじめ、沿線の工場向けに重油やカーボン素材を、入間航空基地へジェット燃料や小麦粉、飼料、紙などを輸送していたという。当時から旅客列車による西武鉄道と国鉄(現JR)の直通運転はなかったけれど、貨物列車は直通していた。
ちなみに貨物輸送が始まった当初、おもに池袋駅と国分寺駅から乗入れが行われたという。その後、都心部の旅客列車が急増により、貨物列車の運行に支障が出てしまうことから、都心を迂回する目的で武蔵野線が建設され、武蔵野線と西武池袋線を結ぶ線路も新たに設けられた。これが現在の新秋津~所沢間の連絡線である。新秋津駅では国鉄の機関車と西武鉄道の機関車との付替えが行われたという。
1996年に西武鉄道の貨物列車が廃止された後も、この連絡線が役割を終えることはなかった。たとえば西武線へ新型車両を運ぶ場合、各地の車両メーカーからJR貨物の機関車に牽引され、貨物列車扱いで新秋津駅にやって来る。そこから所沢駅へ、西武鉄道の機関車に付け替えられ、搬入されていた。西武鉄道の機関車が廃止された現在では、同社の電車が機関車役となり、新秋津駅に出迎えに行く。
これとは逆に、西武鉄道からJR東日本の線路に入る電車もある。改造のために車両メーカーへ向かう電車だ。また、西武多摩川線は西武鉄道の路線網から孤立しているため、多摩川線用の電車が検査のために池袋線に出入りする際、この連絡線を使用する。
新秋津~所沢間の連絡線は、貨物列車が廃止された現在、西武鉄道の車両しか走っていない。うち1.6kmはJR東日本の保有だから、「西武鉄道の電車しか走らないJR東日本の線路」ということになる。ここを走る電車は回送扱いだけ。一般の利用者は乗車できない。
JR武蔵野線の新秋津駅と西武池袋線の秋津駅に関しては、「乗換えが不便」という声も多い。だったら新秋津~所沢間の連絡線を活用して相互直通運転を行えば便利なのに……、と思うけれど、いまのところその予定はないらしい。