鉄道路線の「奈良線」といえば、近鉄奈良線とJR西日本の奈良線のふたつがある。路線名は同じだが方向は違っていて、近鉄奈良線は大阪と奈良を結び、JRの奈良線は京都と奈良を結んでいる。まぎらわしいので、現地では「近鉄奈良線」「JR奈良線」と社名を付けて案内されることもあるそうだ。

JR奈良線では、日中の時間帯に「みやこ路快速」が運行されており、京都駅と奈良駅を44分で結ぶ。古都を巡る観光客にも利用される路線だ。ところが、同路線の正式な区間は京都~木津間で、奈良駅に到達していない。そればかりか、木津駅は京都府にある駅なので、JR奈良線は奈良県さえ通っていない。木津駅と奈良駅の間は関西本線だ。旅客案内ではわかりやすさを重視し、京都~奈良間の電車を奈良線として案内している。

奈良線の正式な区間は京都~木津間(写真はイメージ)

路線の正式名称は別名「線路の戸籍」とも呼ばれ、国へ届け出た路線名である。正式な路線名と案内上の路線名が違う例は多い。東京都心をぐるりと1周する山手線も、正式な区間は品川~田端間(新宿経由)のみで、戸籍上は東京~品川間が東海道本線、東京~田端間が東北本線だ。これらの区間に専用の線路を敷き、堂々と間借りしていることになる。

JR奈良線の電車も、木津~奈良間で関西本線に乗り入れている。しかし、山手線が「山の手」地域を通っているのに対し、奈良を通らない奈良線はズルくないか? 勝手に「奈良」を名乗られて、奈良の人はナラナラしい(馴れ馴れしい)とは思わないのだろうか……、とダジャレのひとつも言いたくなる(お粗末)。

もともとは京都~奈良間の路線だった

JR関西本線の前身・関西鉄道は当初、木津駅経由ではなかった

実を言うと、JR奈良線は当初、ちゃんと京都と奈良を結ぶ路線だった。同路線の前身は奈良鉄道で、1895(明治28)年に京都~伏見間が開業。その後、少しずつ延伸して、翌1896年には京都~奈良間が全通した。奈良鉄道は奈良駅のさらに先、桜井駅まで到達した。

この奈良鉄道は1905(明治38)年に関西鉄道に組み込まれた。関西鉄道は当時、名古屋から奈良まで到達していたが、奈良付近のルートは大仏峠を経由する難所であった。そこで奈良鉄道の木津駅へ接続する路線を建設し、木津~奈良間を関西鉄道の路線とした。すでに関西鉄道に組み込まれていた元大阪鉄道の路線と合わせ、名古屋から奈良経由で大阪方面へ至る路線が完成した。これが現在のJR関西本線だ。

その結果、京都駅と奈良駅を結んでいた旧奈良鉄道の路線は、奈良付近の区間(木津~奈良間)が関西鉄道の本線となってしまった。関西鉄道が国有化されると、京都~木津間の正式名称が「奈良線」と決まった。

つまり、現在の旅客案内における「JR奈良線」の区間が、もともとの奈良鉄道のルートだったわけだ。奈良線の名称も、単に「京都から奈良方面へ向かう路線」というだけの意味ではなく、「奈良へ到達していた奈良鉄道」を尊重しての名称とも考えられるだろう。