記録的な興行収入を達成した一方で、宗教的な理由から上映の禁止措置や反対運動が行われた国もあったという『ダ・ヴィンチ・コード』から3年、シリーズ最新作『天使と悪魔』がいよいよ登場です。まずは予告編をどうぞ。

舞台はサンピエトロ広場。鐘が鳴り響く中、キャスターの実況が流れます。

「大群衆が広場に集まっています 新ローマ教皇が選ばれます」

時はローマ教皇が亡くなった後に枢機卿たちによって行われる新しい教皇の選挙"コンクラーベ"の真っ最中。"コンクラーベ"はラテン語で「鍵がかかった」という意味。文字通り選挙の行われるシスティナ礼拝堂に頑丈な鍵をかけ、ローマ教皇を選出するまで選挙者たちは缶詰状態……という、カトリック教会の歴史の中で何世紀もかけて練り上げられてきた厳粛なシステムです。ちなみに2005年からはこの缶詰システムは廃止されました。

新ローマ教皇が選出された証である白い煙が立ち昇るのを待つ群衆の中、誰かにぶつかって落としてしまった人形を拾い上げようとする少女の顔がクローズアップされます。人形のわきには血の跡…。少女の視線が辿る先には、血を流してうずくまる修道服の男。少女の悲鳴が群集のざわめきを切り裂く印象的な予告編オープニングです。

「我々の手に負えない事件だ」と、ローマ教皇に仕える侍従・カメルレンゴが宗教象徴学者であるラングドン教授に捜査協力を要請し、いよいよ予告は本筋に入ります。

彼は神の秘密を解き明かした 今、ヴァチカンに迫る危機に立ち向かう─

このナレーションで前作『ダ・ヴィンチ・コード』でラングドン教授が、レオナルド・ダ・ヴィンチの謎を解いたことを観客に思い出させ、新たなる謎を解き明かすために再び物語が始まることを示唆します。

地下で発見される死体、そこに残された写真、そして文字のようなものが書かれた紙を逆さまにしてラングドン教授が呟きます。

「イルミナティだ」

いよいよラングドン教授の豊富な知識と発想に裏打ちされた捜査が開始されます!!

「ヴァチカンの書庫に行くぞ」 「何を探すの?」 「ガリレオの著書だ ここに暗号が」

ヴァチカンの書庫で分厚い本を手にしたラングドン教授。今度の謎はガリレオの暗号だということがここで判明します。

「イルミナティは科学者たちの秘密結社で─地球誕生の真実を発見したといわれている それゆえ協会は抹殺を命じた」

ここで簡単に、私たちにはあまり馴染みのない"イルミナティ"についての説明が挟まれます。観客はこの説明で、なんとなくではありますが、科学者たちが創設した"イルミナティ"が、キリスト教に反する存在であることを理解します。ガリレオといえば偉大な天文学者。コペルニクスの"地動説"を支持し、ヴァチカンから有罪判決を受けた科学者です。本作ではガリレオを中心とする科学者たちによって構成されたイルミナティと、その科学者らが自らの著書に隠したという暗号が、事件を解く大きな鍵となっています。

「復讐が始まる」

イルミナティの復活を確信するラングドン。そして

ダヴィンチコードから3年─新たな歴史の謎が暴かれる─

というコピーが現れた後、五芒星形、アンビグラム、オベリスク、そして連呼される「サイン」という台詞……様々な象徴(サイン)が登場し、ラングドン教授が宗教象徴学者という観点から謎を解いてゆくのだと念を押すように、観客に印象づけます。

宗教的で荘厳なBGMが加速し、最高潮にまで盛り上がったところで予告編は終了。最初に登場する天使の像に対して、最後に一瞬だけ姿を見せる悪魔の彫刻が脳裏に焼きつけられます。

この予告編は、本国アメリカのバージョンをベースに制作されました。アメリカバージョンでは、本作で鍵となるガリレオのことがあまり描かれていなかったため、日本版では前作ダ・ヴィンチに並び、本作ではガリレオの暗号を解くということを印象付けるように作られたそうです。

さて、ここで前作『ダ・ヴィンチ・コード』でラングドン教授は、オプス・デイ、そしてシオン修道会を軸にレオナルド・ダ・ヴィンチが描いたキリスト教にまつわる異説の謎を解きつつ猟奇殺人を解決しましたが、この事件をきっかけにヴァチカンに嫌われることになります。

しかし本作ではそのヴァチカンを救うため、ガリレオが残した暗号の謎を追って奔走します。400年前、ヴァアチカンと敵対していたイルミナティですが、つまりそれは宗教VS科学ということ。今回ラングドンは新ローマ教皇候補の誘拐事件を追うのですが、本編冒頭の世界最高峰の科学施設「CERN(セルン)」から反物質が盗まれる事件も絡み、400年の時を超えて再び宗教VS科学の対立が蘇ります。

本編で注目したいのはなんと言ってもラングドンの専門分野である"象徴"。前作でも登場しましたが、"五芒星"は黄金比を持ち、世界を成す5つの要素を並列的に図案化したものだと言われています。また、太陽を中心とした公転で金星は1.6年ごとに地球を追い越しますが、その追い越す地点を、軌道上で順番ごとに結ぶとその軌跡が五芒星を描くのだとか。"アンビグラム"はいかなる方向からでも読み取れる美しく完成された不思議な文字列。そして日時計としても使用され、太陽神のシンボルとして光を反射させて輝くように工夫されていたという"オベリスク"。他にも天使のレリーフや彫像など、映画の至る所に象徴が登場します。また、通常コンクラーベは非公開であり、実際にはシスティナ礼拝堂から立ち上る煙でしか経過を目にすることが出来ませんが、本作でその最中の内部が描かれているのも実に興味深いです。

おりしも今年2009年は、ガリレオが初めて天体望遠鏡で夜空を眺めた1609年からちょうど400年。"世界天体年"の今年、天文学の父ガリレオを一風違った側面から覗いてみてはいかがでしょうか?

かつらの予告編★ジャッジ

内容バレバレ度
本編との共鳴度 ☆☆☆
知的好奇心刺激度 ☆☆☆☆☆

『天使と悪魔』

世界最高峰の科学施設"CERN(セルン)"から反物質が盗まれ、次期ローマ教皇の選挙当日に、新ローマ教皇の候補者4人の誘拐事件され、次々と猟奇殺人が起きる。秘密組織イルミナティの復活を確信し、協力要請を受けたラングドンが、ガリレオ暗号の謎をもとに事件解明に奔走する…。

監督: ロン・ハワード
出演:トム・ハンクス、アイェレット・ゾラー、 ユアン・マクレガー ほか

5月15日(金)、世界同時公開

春錵かつら(はるにえ・かつら)

映画予告編評論家 / ライター

CMのデータ会社にて年間15,000本を超える東京キー5局で放送される全てのCMの編集業務に3年ほど携わる傍ら、映画のTVCMについてのコラムを某有名メールマガジンにて連載。2004年よりフリーライターとして映画評論や取材記事を主とした様々なテーマを執筆しながらも大手コンピュータ会社の映画コンテンツのディレクターを務めたのち、ライター業に専念、現在に至る