ドバイ商品取引所の理事長と筆者

仕事柄、今回のテロ事件の映像をたくさん見ていると、あることに気がついた。それはIS(Islamic State)とアルカイダの違いだ。

絶句するISテロメンバーの親たち

アルカイダは本部・支部が指令系統で動く中央集権的組織。資金力もあり、911のような大規模テロを綿密に計画して時間をかけ実行する。対して、ISは組織図が不明瞭で、地方分権的な集団だ。少人数のテロリストグループが無作為に各地に形成され、殺戮行為を繰り返す。標的も、サッカー場から街中のレストラン、そして民間ロシア機に至るまで、多様化している。ゆえに「次の標的」を特定しにくい。場合によっては、イスラム教徒を巻き込む可能性が高くても、無機質に実行に及ぶ。その点、アルカイダは、イスラム教徒に危害が及ぶ状況は避ける傾向があった。

更に、ISは、少人数で無作為に動くので、国境警備の網をすり抜けやすい。そして、ISのテロリストは、両親が自慢の息子だったりする。家庭内で自分の部屋に引きこもり、ジハード思想に染まり、過激化してゆく過程で、家族でさえ気が付かない事例も少なくない。まさか、と絶句する母の顔が映った映像が忘れられない。息子は、親孝行な29歳だったという。家庭内の様子も、普通の中産階級の構えだ。アルカイダはというと、組織で動くので、犯行後に何らかの足跡を残す場合がある。

ゆえに、アルカイダの摘発には警察機構の強化が有効だが、神出鬼没でモグラ叩きの様相を呈するIS掃討作戦には軍隊の助けが必要になる。

最近は、アルカイダとISの間で、若者リクルート合戦が展開されている印象も強い。「テロリスト希望者求む」なんて洒落にもならないが、リクルート用のPRビデオを見ると、この世の楽園のごとき光景が広がるISの(自称)社会が、キレイに仕上がった映像に纏められている。貧困・差別にあえぐ若者の心に響くのだろう。今後も、この二つのテロ集団に、他のグループも混じり、テロのリクルート競争が激化してゆきそうだ。

なぜ起きた? トルコによるロシア機撃墜

なお、今回のトルコによるロシア機撃墜は、ISとの関連もさることながら、両国独自の理由が背景にあるようだ。

まず、現場の地形だが、トルコ領土がシリア領土に対して半島の如くつきだしている。その半島型の先端近くをロシア機が侵犯したか否かで両国の言い分が異なるわけだ。客観的に見ると、ロシア機が、その半島型の先端部を通過する時間は約17秒とされる。従って、判定も困難で、狙い撃ちもかなり難しい状況だったようだ。

それでも、両国には譲れない事情があった。まずロシア側。現地近くの反政府勢力に多くの外国人傭兵が混じり、かなりの部分がコーカサス地方出身(特にチェチェン人)で占められている。チェチェン人といえば、ロシア支配に最後まで強硬に反抗したツワモノとして知られる。ロシア側から見れば、彼らをここで徹底的にたたき、かりにもロシア国内に異分子として侵入することがないように自衛措置を講じる必要があったのだろう。

一方、トルコ人の同胞であるトルキスタン人が同地域に居住。トルコ側は、「いとこ」達を守る必要があったわけだ。結局、ロシア、トルコともに、今回の事件に限っては、ISの事は二の次。まずは、自国の利害優先で動いたといえる。思想的問題に民族問題、そして原油の利権などがからむことが、シリア情勢の読みを難しくしている。

金も中東では相変わらず人気が高い。「無国籍通貨」として購入・保有されている。米国に対する憎しみが強いので、米ドルは持ちたがらず、敵国の通貨扱いだ。ユーロも未だ不安をかかえるので、金が選択される。シリア国内の惨状を見るにつけ、中東の人たちが実物の金に強い愛着を持つ気持ちも分かるような気がする。NYの投機筋がどれほど先物で金を売りまくっても、中東の人たちはここぞとばかり金を買い集める。金を買う余裕がない人たちは、銀を買う。銀は「貧者の金」と呼ばれ、中東でも根強い人気があるのだ。

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著者プロフィール

●豊島逸夫
豊島逸夫事務所(2011年10月3日設立)代表。2011年9月末までワールド ゴールド カウンシル(WGC)日本代表を務めた。1948年東京生まれ。一橋大学経済学部卒(国際経済専攻)。 三菱銀行(現・三菱東京UFJ銀行)入行後、スイス銀行にて国際金融業務に配属され外国為替貴金属ディーラーとなる。豊富な相場体験をもとに金の第一人者として素人にも分かりやすく独立系の立場からポジショントーク無しで金市場に限らず国際金融、マクロ経済動向についても説く。またツイッターでも情報発信している。

【連載】25歳のあなたへ。これからの貯”金”講座

25歳。仕事や私生活それぞれに悩み不安を抱える年齢ではないだろうか。そんな25歳のあなたへ、日本を代表するアナリスト・豊島逸夫ウーマノミクスの旗手・治部れんげがタッグを組んだ。経済と金融の最新動向をはじめ、キャリア・育児といった幅広い情報をお届けする特別連載。こちらから。