本連載の第91回では「問題の原因分析でありがちな失敗を回避するための問いの使い方」と題し、解くべき問題の原因を突き止めるために使える問いをお伝えしました。今回は原因を突き止めた後に、その問題を解決するための打ち手を出すための問いについてお話します。
「問題の原因はわかった。これに対する打ち手のアイディアを出してほしい」
会議で上司からこう問われ、参加者が黙りこんでしまって気まずい空気が流れたということや、アイディアを出してはみたものの打ち手としてあまり効果的でなさそうなものしか出てこなかったという経験はありませんか。
仕事で起こる問題を解決する上で最も重要なのは「本当に解くべき問題を見極めること」で、その次に「問題の真の原因を究明すること」ですが、「有効な打ち手のアイディアが出ない」という悩みを聞くこともよくあります。
以下では有効な打ち手が見つからない代表的な理由と、事態を打開するために問いを活用する方法について説明します。
前例にとらわれている
よくあるのが、これまでの前例にとらわれて打ち手を出せないケースです。
「問題と原因についてはよくわかりました。でも今までこれでやってきたのに今さら変えろというのは……」
「これまでに誰か、他のやり方を実行した人はいるのでしょうか。いないなら上手くいくか分かりませんよね」
このような発言を耳にした場合にはこのケースに該当します。こういうときにそれぞれの発言に対して真っ向から論破するのはその後の議論に悪影響を及ぼす恐れがあるのでお勧めしません。
それよりは、次のような問いを投げかけてみるとよいでしょう。
「皆さんの不安は承知しております。ですが我々はこの問題を解決する必要があります。そこでお聞きしたいのですが今、もしゼロからその業務を設計するならどのように作りますか?」
ここでは業務について話していますが、内容は研修内容でもサービス内容でも何でも構いません。大事なのは「今、ゼロからそれを設計するならどうするか」という問いです。
既に問題と原因について話した後であれば、当然それを回避するようなアイディアを出してくれるはずですし、敢えて「ゼロから」と話すことで前例について一旦は脇に置いて話してくれるでしょう。
制約に縛られている場合
会社の規則や慣習などのルールや社員、お金などのリソースの制約に縛られているケースもよくあります。
「この問題に対処しようにも、会社の規則で定められているから業務を変えることはできませんね」
「打ち手を考えたくても、どう考えてもそれなりに投資が必要になりますし、対応するための人手もかかるでしょうから無理ですね」
このような発言が出た場合には一旦、次の問いを投げかけてみましょう。
「確かに規則で定められていて何も変えられないかもしれませんし、投資が必要になるかもしれませんね。ではもし、そのような制約がなかったとしたらどうしますか?」
何らかの制約にとらわれている人はそこで思考が停まってしまっているので、このような問いによって敢えて制約を外してあげることで発想の自由度を拡げてあげます。
最初から制約について考えてしまうよりは、自由な発想で打ち手のアイディアを出してから、それを実現するためにどう制約を回避するのかを考えた方が生産的です。
その上で、どうしても会社の規則が邪魔になるなら規則そのものを変えられないか検討し、投資が必要になるならどうやって稟議を通すかを考えた方が良い場合もあります。
視野が狭まっている場合
同じ仕事を長年続けていると、自分の仕事について客観的に考えることが難しくなっていることがあります。
「問題と原因については自分でもよくわかっていますが、打ち手についてはどうしても何も思いつきません」
「細かい改善策はありますが、抜本的な改善の打ち手を出すのは難しいですね」
このような発言が出た際には次の問いを投げかけてみましょう。
「では顧客の立場に立った時に、この業務はどうあるべきだと思いますか?」
これはケースに応じて「顧客」の代わりに「他部署」や「経営者」などに置き換えてもよいでしょう。いずれにせよ、この問いによって第三者の立場から問題について考えさせるきっかけを作ることができます。
当事者の視点からは見えないことでも、第三者の視点から眺めてみることで一気に視野が拡がって革新的な打ち手のアイディアが思いつくということは少なくありません。なお、この問いの力をより強力にするためにロールプレイで実際に顧客などの第三者を演じてもらうことも効果的です。
問題の原因を突き止めたとしても効果的な打ち手を出せなければどうしようもありません。私はこれまでに、打ち手を出すところで詰まってしまうケースを度々見てきました。その原因は様々ですが、ここに挙げた3つがよくあるケースでした。もし類似のケースに遭遇した場合には、ご紹介した問いを活用してみてはいかがでしょうか。