本連載の第238回では「プロジェクトのキックオフ会議を進めるためのポイント」という話をお伝えしました。今回は会議において、フレームワークを使って議論の幅を広げたり深めたりする方法についてお話します。

「慣例や常識にとらわれず、幅広く議論をしてアイディアを出してほしい」

上司から、このような指示を受けたことはありませんか。しかしいくら考えてみても、長年の経験で染みついた考え方からは離れられず、何も思い浮かばなかったり、あまりに荒唐無稽なアイディアしか出なかったりするものです。

特に長年にわたって同じ組織で同じ業務に従事しているベテランであればなおさら、これまでの常識を覆すようなアイディアを出すのは難しくなるのが普通です。まだ社会や会社の常識に染まる前の新入社員の方が、既存の社員では誰も思いつかなかったようなアイディアを出せるのではないでしょうか。

その一方、アイディア出しをすべて新入社員に丸投げすればよいかというと、それはそれで無理があります。まだ業界や会社、業務のことをあまり知らないがゆえに、確かに斬新ではあるものの的外れなアイディアしか出ないことの方が多いでしょう。

そのため、本来であればベテランから斬新なアイディアを引き出すことができるのが最善です。そこで使えるのがフレームワークです。フレームワークとは問題解決や分析、計画策定などの際に、体系的かつ効率的にアプローチするための基本的な構造や枠組みのことです。ビジネス、ソフトウェア開発、研究など多様な分野で利用され、特定の目的を達成するための指針や手順を提供します。

それではフレームワークを使って議論を拡散させる具体例を見ていきましょう。

とある会社で業務改善プロジェクトを立ち上げましたが、会議で議論されるのはいつも納期遵守率を上げるための打ち手についてばかりです。確かに納期遵守は会社にとって極めて重要ですが、それ以外にも考えるべきことがあるのではないか、とプロジェクトメンバーの一人が考えています。そしてこのメンバーは、製造業などでよく使われるQCDフレームワークで議論を拡散させることを思いつきました。

QCDフレームワークは「Quality(品質)」「Cost(コスト)」「Delivery(納期)」の3つの要素で構成されています。このフレームワークは、製品やサービスを市場に提供する際に、これらの3つの重要な側面をバランス良く管理することを目指します。各要素について詳しく説明します。

Quality(品質): 品質は製品やサービスが満たすべき基準や顧客の期待を指します。
これには製品の耐久性、信頼性、機能性、顧客満足度、安全性などが含まれます。
高品質の製品やサービスは顧客の信頼を獲得し、ブランドの評価を向上させます。

Cost(コスト): コストは製品やサービスの生産、運営、流通に関わる総費用を指します。
目標は製造コストの削減、効率的な運営、価格競争力の維持などです。
コスト管理は、利益率の向上や市場競争力の強化に直接的に寄与します。

Delivery(納期): 納期は製品が製造され、最終顧客に届けられるまでの時間を指します。
迅速かつ正確な納期の遵守は、顧客満足度の向上や供給チェーン効率の重要な要素です。
製品の供給遅延は、顧客の信頼を損ない、機会損失につながる可能性があります。

このQCDフレームワークを使うことで、会議参加者の注意を品質やコストにも向けさせて、納期遵守に偏っていた議論の幅を広げることが可能です。しかし、QCDフレームワークを使用することによる効果はそれだけにとどまりません。それは、品質、コスト、納期の相互作用についても考えるきっかけを与えてくれます。

一般的には、品質とコストと納期は、どれか一要素を改善しようとすると他の要素を犠牲にするという、トレードオフの関係性にあると捉えられています。しかし、こと業務改善の文脈においてはこれらが相互に補完関係にあると考えて改善機会を探ることが重要です。この考え方について説明します。

  1. 品質の向上→コストの低減、納期短縮
  2. コストの低減→品質の向上、納期短縮
  3. 納期短縮→品質の向上、コストの低減

そんな都合の良いことがあるかと思われるかもしれませんが、ひとつずつ見ていきましょう。

1. 品質の向上→コストの低減、納期短縮

品質の向上を、ここでは業務上のミスを減らすことと捉えます。ミスが発生すると、ミスのリカバリーや迷惑をかけた顧客や部署への謝罪、再発防止策の追加などで余分な工数がかかります。これはすなわち、業務コストの増加を意味します。また、ミスのリカバリー分のリードタイムが追加でかかるため、納期が延びる恐れがあります。これらを踏まえると、ミスを減らして業務品質を向上させることはコストの低減と納期短縮につながると言えます。

2. コストの低減→品質の向上、納期短縮

ここでは、コストを業務の工数と捉えます。人が行う作業にはミスはつきものです。人的ミスが一定確率で発生することを考慮すると、工数が多くなればなるほどミスが増える、すなわち業務品質が低下することを意味します。また、工数が増えれば当然、納期も比例して伸びます。これらを踏まえると、工数を減らしてコストを低減させることは品質の向上と納期短縮につながります。

3. 納期短縮→品質の向上、コストの低減

納期が長くなれば、それだけ作業途中のもの(仕掛り)が増えて、その分だけ進捗の管理工数が余分にかかります。また、納期が長くなればなるほど、途中で変更がかかったりイレギュラーが発生したりする確率も上がり、そこへの対応も余分に増えます。そして作業途中のものが増えると、その分だけ注意が分散することになりミスが増える、つまり品質の低下を招きます。それは裏を返せば、納期を短縮できれば品質の向上とコストの低減を両方実現できるということです。

QCDフレームワークを使うことで、納期遵守に偏った議論を品質やコストといった他の要素に広げるとともに、それらの相乗効果を実現するロジックを可視化し、その実現方法を考えるきっかけを与えることができます。本稿ではQCDフレームワークを例にお話ししましたが、このような考え方は他のフレームワークにも適用できます。

ともすれば、フレームワークは「穴埋め」のように使われることもありますが、要素間の関連についても目を向けることで、議論の幅をさらに広げたり、深めたりすることにも役に立つのです。ぜひ、会議の場で使ってみてください。