本連載の第211回では「抽象化思考で業務を効率化しよう」という話をお伝えしました。今回は過去の経緯や前提条件を取り払って考える「ゼロベース思考」で仕事を見直し、改善する方法についてお話します。

ビジネスの世界は常に変化し、進化し続けています。そのため、私たちは状況に合わせて自分自身の仕事のやり方を見直して改善する必要があります。その方法の一つとして、ゼロベース思考があります。

ゼロベース思考とは、すべてを全く何もないところ、まさにゼロから考え直すアプローチを指します。慣習や前提に縛られず、完全に新しい視点で物事を考える思考法です。ゼロベース思考を駆使すると、従来の方法に縛られず新しい視点から物事を見ることができます。また、過去の手法や流れにとらわれることなく、今この時点で最適な方法を見つけ出すことができます。また、状況が変化したときに素早く適応し、新たな対策を練ることを可能にします。

こうした特性は仕事の改善に活かすことができます。

1. 既存の業務フローを見直す

まずは、既存の業務フローをゼロベースで見直してみましょう。これまでの業務フローが必ずしも最適であるとは限りません。前提条件や慣習を忘れてゼロベースで考えることで、環境の変化で既に必要性がなくなった業務を洗い出したり、新しいソフトウェアツールの導入や、データの自動収集、あるいはレポートのテンプレート化など、業務効率化の新たな方法を見つけることができるかもしれません。

2. 情報共有の方法を再考する

次に、情報共有の方法をゼロベースで再考してみてください。一度、全てをゼロから見直すことで情報共有の新たな形を見つけられるかもしれません。

現在、情報共有は日常のミーティングや電子メールによって行われているかもしれません。しかし、これらが必ずしも最も効率的な方法とは限りません。ゼロベース思考を用いて情報共有の方法を見直し、より効率的な手法を探すことができます。

例えば、次のような手法が考えられます。

  • 週次ミーティングの見直し

週次の全体ミーティングは、全員が同じ情報を共有し、プロジェクトの進捗や課題などを把握するために重要な場かもしれません。しかし、全員が全ての情報に対して同等に関心を持っているわけではないかもしれません。その場合、一部の情報は不要なノイズとなり、全体の生産性を下げる可能性があります。

これに対し、ゼロベース思考では、このミーティングが本当に必要なのか、またどの情報が本当に必要でどの情報が不要なのかを見直すことができます。その結果、ミーティングの頻度を減らす、あるいは必要な情報だけを共有するようにミーティングの内容を絞り込むといった改善が可能になるかもしれません。

  • 非同期の情報共有ツールの導入

電子メールによる情報共有は、送信者と受信者が同時にオンラインでなくても情報を共有できるという点で有用です。しかし、電子メールは情報が散在しやすく、必要な情報を探すのが困難になることがあります。

ゼロベース思考では、この情報共有の方法をゼロから見直すことができます。例えば、SlackやMicrosoft Teamsなどのチームコラボレーションツールを導入することで、情報が一元管理され、必要な情報を探しやすくなる可能性があります。

これらの手法は、現状の情報共有の方法をゼロから見直すことで、新たに考えられる具体的な例です。どの手法が最適かはチームの状況や目的によりますが、ゼロベース思考により新たな視点から情報共有の方法を考えることができます。

3. スキルセットや役割の再評価

チーム内のスキルセットや役割分担も、ゼロベース思考で見直すことをお勧めします。それぞれのメンバーが現在どのような役割を担っているのか、その役割が本当に彼らのスキルや能力を最大限に活用できているのかを考えてみてください。

もしかしたら、メンバーのスキルをもっと効果的に活用するために、役割のシフトや新たなトレーニングの提供を考えることが必要かもしれません。ゼロベース思考を用いることで、チームのパフォーマンスを最大化する新たな方法を見つけることができるでしょう。

ここまではゼロベース思考を使った仕事の見直しについてお伝えしましたが、ゼロベース思考を活用するには留意点もあります。

全てをゼロから見直すのは時間とリソースを必要とします。そのため、一部の組織ではゼロベース思考が過度に使われると、分析に時間をかけすぎて意思決定が遅れる「分析麻痺」を引き起こす可能性もあります。

また、既存の方法や手順を見直すことは抵抗感や不安を引き起こす可能性があります。周囲の皆さんが変化を受け入れ、新たな手法を採用するのに時間がかかる恐れがあることも考慮に入れましょう。

ゼロベース思考は、前提条件を取り払って全く新しい視点から業務生産性を向上させるための強力なツールです。過去の慣習や前提から自由になり、新たな効率化の道を模索しましょう。毎日の業務に対する新しい視点が、仕事の生産性を飛躍的に向上させるかもしれません。