本連載の第176回では「DAO(分散型自律組織)のスピードが圧倒的に速い理由」という話をお伝えしました。今回も引き続きDAOに関連して、テキストコミュニケーションについてお話します。

DAOとは、ブロックチェーンをベースとしたweb3界隈で流行っている「分散型自律組織」という全く新しい組織形態です。英語の"Decentralized Autonomous Organization"の頭文字を繋いでDAO(ダオ)と呼ばれています。

DAOでは目標や価値観を共有する人たちが自然発生的に集まって成り立っています。その集まる場所の多くはDiscord(ディスコード)と呼ばれるアメリカ発のチャットサービスです。テキストやボイスチャットで会話をしたり、画像や動画などのデータを送受信したりすることも可能です。

私は日本最大級のDAOに所属しており、そこのDiscordで仲間たちと日々コミュニケーションを取りながら働いています。しかし、私はDiscordではボイスチャットを使ったことはなくて、テキストチャットのみで会話をしながら仲間と共にアイディアを議論したり、進捗を確認したり、作成した資料を共有したりしています。

なお、DAOで一緒に仕事をしている仲間とは対面はおろか非対面でもお会いしたことがなく、本名や住んでいる地域、職業、年齢、性別などはお互いに全く知りません。それでもお互いにテキストチャットでやり取りしながら作戦を練ったり、プロダクトを作ったり、イベントを企画したり、情報発信したりできています。それも問題なくできている、どころか企業ではありえないぐらいの猛スピードで行っています。それでは以上を踏まえて、テキストコミュニケーションの利点をお伝えします。

メリット1. 明確に伝わる

対面でのコミュニケーションでは、その場の雰囲気で「なんとなく通じる」ということがあります。既に長年一緒に働いている同僚との会話であれば、まさに「阿吽の呼吸」で明確な表現を使わずとも言いたいことが伝わるかもしれません。

しかし、多様なバックグラウンドを背負った人たちが一緒にプロジェクトを進める上ではそのような「阿吽の呼吸」など全くありません。さらに顔が見えない中で互いに共通の理解を深めていくには明確な言語化が欠かせません。そしてそれをテキストチャットで伝達することによって、明瞭さとスピードの双方を兼ね揃えたコミュニケーションが初めて可能になるのです。

但し、同じテキストベースといってもメールだとスピード感が各段に落ちてしまいます。コミュニケーションを取るたびに宛先や題名、冒頭の挨拶などを入力して送り合うより、そういうものを全てそぎ落として内容だけでやり取りするテキストチャットの方がスピーディーなやり取りができるのは当然のことですね。

メリット2. 共有できる

「テキストコミュニケーションより電話やボイスチャットで話した方が早いのではないか」と考える人はいるでしょう。確かに、文字を書くより話す方が多くの情報を短時間で伝えることができるのはそのとおりです。

その一方で、会話で話した内容は記録を残さない限り「その場限りの情報」になってしまいます。その場に居合わせなかった人は、議事録に記録を残したり、新たな情報共有の機会を作ったりしない限り情報を共有することができません。

その一方、テキストコミュニケーションであれば、データが残された場所へのアクセス権を持つ人であれば誰でも情報を共有することが可能です。「誰と誰がいつ、どのような内容を話したのか」を誰にとっても明らかな形で共有できるというのは、認識の齟齬を防ぐのに役立ちます。さらに、テキストチャットツールの検索機能を使えば、必要な情報をピンポイントで見つけることができるのでさらに効率的な情報共有が可能になります。

メリット3. 時間に縛られない

対面であれば、基本的には同じ時間に同じ場所にいなければならないという制約があります。電話やボイスチャットなら場所の制約はありませんが同じ時間にコミュニケーションを取らなければならないので、時間の制約が残ります。

それに対して、チャットによるテキストコミュニケーションならば場所と時間の両方の制約から解き放たれます。仲間同士で意見や情報、資料、質問・回答などのやり取りをするといっても場所はそもそも遠隔ですし、チャットに残ったログを確認して対応すればよいので時間的な制約もありません。

お互いに好きなときに対応しながら仕事を進められる環境かどうかというのは、特に子育てや親の介護などで常時、イレギュラー対応が求められる人にとっては死活的重要な問題です。また、私自身もそうですが本業の合間に副業などの取り組みに関与している人にとっては非同期のコミュニケーションができることは大きなメリットになります。

以上、テキストコミュニケーションのメリットとして「明確に伝わる」「共有できる」「時間に縛られない」という3つをお伝えしました。ご自身の職場でのコミュニケーションにも活かしていただけたら幸いです。