本連載の第131回では「論点を駆使すれば相談をきっかけにポジティブな変化を起こせる」と題し、あまり前向きでない相談を人から受けた時でも、論点を上手く使ってポジティブな変化を起こせるという話をお伝えしました。今回も引き続き論点に着目し、様々な条件次第で論点が異なることと、それが時系列で変化することもあるというお話をします。

「自分のことしか考えていないで、もっと周りのことも考えるように視野を広げましょう」
「目先の利益にばかり捉われていないで、物事を長期的に考えるようにしてください」

会社の上司や先輩社員から、このような指摘を受けたことはありませんか。自分では一生懸命に考えているつもりでも、経験値で勝る社員から見ると至らないところが目に付くのも無理はないのかもしれません。

しかし、だからといって多くの経験を積むまで成長を諦めるというのも残念ですね。そこで使えるのが「論点」です。なお前提として、ここでは論点を「解くべき問い」と捉えることにします。

仕事をしていると、日々色々な論点と対峙することになります。営業担当者であれば「新規顧客を開拓するにはどのエリアから攻めるべきか?」とか「最速でキーパーソンに会うには何から始めればよいか?」といった論点に対して自分なりの答えを出して行動に移していくことになるでしょう。

なお、この論点というものは唯一無二の固定的なものではなく、目的、状況、立場などによって異なります。会社全体でペーパーレス化を進める上での対象部署を選定するシーンで考えてみます。もし、目的が「用紙代・印刷代・FAX代削減」であれば、最初の論点は「最も多くの紙を使用している部署はどこか」になるかもしれません。しかし、目的が「業務効率化」であれば、「紙を用いた作業に最も工数を割いている部署はどこか」という論点の方が妥当だと判断するかもしれません。

また、会社で働き方改革を推進しようとしている場合でも、コロナ前であれば論点は主に「残業を今より30%減らす上で乗り越えなければならない障壁は何か」や「副業の解禁による自社のビジネスに及ぼすリスクは何か。また、それは許容できる程度のものか。」といったことが挙げられていたかもしれません。

しかし、コロナ禍に突入した当初は「どうやって社員の出社比率を7割減らせるか」とか「リモートワークを導入しても業務品質を維持するには何を押さえておくべきか」といった論点に変化したのではないでしょうか。

そしてコロナ禍に入って2年近く経過した今では「リモートワークでの社員のモチベーション低下をどう防ぐか」や「コロナ禍で進んだ社内のデジタル化を契機にDX(デジタル・トランスフォーメーション)をどう実現するか」などが論点になっているところも少なくないでしょう。

一口に「働き方改革の推進」といっても状況の変化とともに、論点はこのように移り変わってきているということです。

それでは論点が立場によって異なるというのはどういうことでしょうか。このことを理解する上では立場を「水平」と「垂直」の2軸で捉えることが必要です。まず立場の「水平的な違い」ですが、これは営業、購買、商品開発、経理、総務、人事などの部署や、支社支店などの場所が違えば論点も変わるということです。

ここでは部署によって論点が異なる例を見てみましょう。会社全体で「今期の売上目標を達成するために何をすればよいか」という論点を立てた場合、それを受けて各部署で議論する論点は以下のように異なることが予想されます。恐らく営業担当者は、まず「期末に向けて受注を如何に増やすか」といった論点を立てるでしょう。

その一方、購買担当者は「期末は他社からも注文が殺到して物流に遅延が起きる可能性がある。自社に優先的に対応してもらうための発注先との交渉に如何に取り組むか」という論点を立てるかもしれません。

次に立場の「垂直的な違い」による論点の違いについてです。これは平社員、係長、課長、部長などの同じ組織内の上下関係を想定しています。この立場の違いによっても論点は変わります。営業部を例に取ると、同じように「売上目標の達成方法を考える」といっても役職によって論点は変わるでしょう。

営業担当の平社員であれば「自分が抱えている既存顧客の中で、追加で発注を頂けそうな見込みがあるのはどこか」といった個人レベルで論点を考えるでしょう。係長であれば自分が束ねるメンバーを念頭に「個々人の強みを活かした中長期的な営業スタイルの確立と短期的な売上目標達成のバランスをどう取るか」というような論点を考えることがあるでしょう。

そして課長や部長になると「自部署の今期の売上達成に向けて梃入れが必要なチームへの助言は当然行いつつも、その先の安定的な売上増加を実現するために今のうちにできることは何か」といった、より広範囲かつ長期的な視野に基づいた論点を立てることが求められます。

このように、論点は目的や状況、立場などによって異なる上に変化することもあるということを押さえておくことが大事です。その上で、「今問うべき論点は何か」とか「この人にとっての論点は何だろうか」と問う姿勢を常に持ち続けることで視野を広げ、考える力を洗練させることができるでしょう。