本連載の第101回では「成果を上げるには時として費やした努力を忘れることが求められる」と題し、努力が無駄になるのを恐れずにより良い方法を模索しましょう、というお話をしました。今回はビジネスパーソンの必須スキルに認知されて久しいロジカルシンキングについてお伝えします。

一昔前までロジカルシンキングはあまり一般的ではありませんでしたが、今では広く認知されているようです。詳しいことは知らなくても、どこかでなんとなく耳にしたことがあるという方もいらっしゃるでしょう。

ロジカルシンキングは端的に言うと「一貫していて筋が通っている思考」です。こう聞くと大抵の方は「そんなの社会人ならできて当たり前じゃないか」と思われるのではないでしょうか。しかし、その「できて当たり前」のことが実際にできている人は案外少ないように感じます。

ロジカルシンキングが出来ていない例として、とある会社の営業部でのやり取りを見てみましょう。

課長「今年度に入ってから課全体の営業成績が芳しくないですね。たるんでいるんじゃないですか? ここで一度気合を入れ直して見込み顧客にしっかり営業をかけてください」
社員「はい、ですが既に多くの見込み顧客に営業をかけていますし、既存顧客からの問い合わせへの対応にかかる時間も膨大になっています。これ以上営業をかけろと言われても人手が足りません」
課長「売上が下がっているのに人を増やすことはありえません。忙しくても工夫しながらなんとか顧客への訪問頻度を上げてください」

表現は大分抑え気味にしていますが、現実にはもっときつい言い方をしている職場も少なくありません。そして、さらに気になるのは課長の話の論理展開です。

前半の課長の話の論理展開
主張: 今年度に入ってから課全体の営業成績が悪い。
理由: (社員が)たるんでいるから。
指示: 気合を入れて見込み顧客に営業しろ。

そもそも「営業成績が悪い」という表現が漠然としています。エリアや人、商品・サービスなどの複数の切り口で分析して「具体的にどの部分が悪いのか」を明示すべきなのと、「悪い」という形容詞についても「売上目標に対して何パーセント下回っている」などの具体的な数値を用いて説明すべきです。

こうした分析ができていないため、営業成績が悪い理由として「たるんでいるから」と決めつけることしかできないのです。さらには「たるんでいる」とは具体的にどういう状態なのか、そしてそれが営業成績の低迷にどのように影響しているのかという論理的な繋がりが不明瞭です。

それに加え、問題への対応策が「気合を入れろ」では、お粗末すぎて目も当てられません。きっと営業成績低迷の原因分析がしっかりできていないために、そう言うしかないのでしょう。当然のことながら社員は納得がいきません。案の定、これ以上頑張れと言われても業務量がひっ迫していて無理だと反発しています。

後半の課長の話の論理展開
主張: 人は増やさないが顧客への訪問頻度を上げろ。
補足: 忙しいのは工夫で何とかしろ。

この主張はあまりにも乱暴なので今すぐ課長職を辞任して頂きたいレベルです。さて、ここで問題なのは社員から「業務量がひっ迫している」と説明を受けているのにも関わらず、さらなる業務量の増大を招く訪問頻度の引き上げを指示していることと、そのための工夫を社員に丸投げしていることです。

社員からは「既存顧客からの問い合わせへの対応にかかる時間が膨大になっている」という情報を得ています。そこで、百歩譲って見込み顧客への訪問頻度を上げるにしても、その前に問い合わせにかかる時間の増加という現象の原因を探り、適切な手を打つことで問い合わせによる負荷を減らすことが必要でしょう。

ここまで見てきたように課長の話には突っ込みどころが満載ですが、これはひとえに課長がロジカルシンキングを全くできていないことに起因します。ロジカルシンキングは「適切に考えること」と「適切に伝えること」を行うための土台になります。両方できなければ全く話になりません。適切に考えても適切に伝えられなければ「よさそうだけど何を言っているかよくわからない」、適切に伝えても適切に考えられなければ「言っていることはわかるけど、それが何なのか」となってしまいます。

そのため、ロジカルシンキングはビジネスにおける共通言語と言っても過言ではないでしょう。互いにこの共通言語を用いることで初めてまともな議論やコミュニケーションができるので、全てのビジネスパーソンが身に着けるべき素養の一つとして捉えてもよいのではないでしょうか。

本稿ではビジネスにおけるロジカルシンキングの重要性を理解してもらうための説明を行いました。次回以降ではロジカルシンキングについてもっと深堀りして説明をしますので、ご期待ください。