手帳は工業製品としては販売時期が限られる商品の一つです。また、ユーザーが求めるタイプは千差万別です。さらにいえば、これほどマニュアル的な書籍が毎年のように趣向を変えて登場する製品ジャンルも珍しいといえます。

いっけん、枯れた工業製品の代表のような手帳という製品ジャンルに、毎年のように新しいタイプのものが登場します。これはなぜなのでしょう。そしてちょっとでも手帳の便利さに目覚めたユーザーは、自分の使い方にぴったりの手帳を、あたかも"運命の人"のように求める。これはなぜなのでしょうか。

この熱の入りようは他の文具とはちょっと比べられないかもしれません。だからこそ手帳はこれだけ多種多様になっているともいえます。

あえて3分冊にした手帳「DiscoverDiaryWallet」

さて本題に入りましょう。私、舘神龍彦は、2種類の手帳をそれぞれ発案・監修しました。そしてこれは上述の手帳事情に私なりに対応しようとした結果なのです。

DISCOVER DIARY WALLET(ディスカヴァー・トゥエンティワン)。1日1ページ3分冊・A5スリムサイズ。この冊子構成とサイズの手帳はほかにない。同社の1日1ページ手帳の中でも人気の唯一無二の存在

2016年に考案したのは、「DiscoverDiaryWallet」(以下WALLET)。その名の通り、出版社のディスカヴァー・トゥエンティワンから発売されている1日1ページタイプの手帳です。その特徴は、1日1ページタイプでありながら3分冊になっていること。そしてA5スリムサイズであることです。これは同年末に2017年版が発売されました。

WALLETの冊子構成。上に広がっているカバーの右側に下段の月間冊子(左)をセット。左側には、6月いっぱいまでは1日ページ前半(中央)、7月からは1日ページ後半(左)を差し替えて使う

このタイプの元祖であり、先行者たる「ほぼ日手帳」には、「avec」という1年を1月~6月・7月~12月の2分冊にしたものがあります。一方のWALLETは、1年の前半と後半を2分冊に分けた1日1ページの冊子と、月間の冊子を独立させた3分冊構成にしました。詳細な予定やメモは半年分をまとめた冊子に記入でき、マンスリーの冊子でいつでも1年の大体の予定が把握できるようにしたのです。

WALLETの月間冊子。6段、土日均等のオーソドックスな月間ブロックタイプだが、方眼ベースで細かい予定などもかける

1日1ページの手帳は、それまでもありました。ただ分冊タイプは上述の「avec」のように年の前半と後半がすっぱりとわかれた2分冊だったのです。そこで「月冊子は1冊のままで、1日ページの冊子は分割していればもっと便利だろう」と考えて発案したのがこれです。

1日1ページ冊子。しおりが付いている。時間軸は横方向。6時~24時を中心に事実上24時間利用できる。メモスペースは4分割されており、各種応用が可能

こうすることで月冊子には、通年で参照・記録する情報を記入できます。そして全体として軽くなるはずです。さらには1日冊子をカバーから外して持つこともできます。特に旅行などのときにはこの方が気分も軽くなるでしょう。サイズはジブン手帳などと同じA5スリムサイズにしました。

日付周りはシンプル。4つの☆マークや4つのチェックボックスなど、ユーザーの工夫次第で活用できる

それまでディスカヴァー・トゥエンティワンでは、1日1ページタイプの手帳を販売してきたのですが、その同社内でもWALLETは人気だそうです。そして一般のユーザーにも受け入れられ、おかげさまで2年目を迎えることができました。2018年版も発売されています。

各ページの右上にはその月のカレンダーあり。見開きの日付が○でかこってあり、「その日が週のうちのどこかわからない」問題を解消している

ガントチャートを組み合わせた「G.B.Planner」

もう一つは、「G.B.Planner」(アートプリントジャパン)です。特徴は、ガントチャートと月間ブロックが同時に参照できることです。

G.B.Planner(アートプリントジャパン)。広がるガントチャートが特徴

ガントチャート(G)と月間ブロック(B)を同時に見たところ。G.B.Plannerの名前の由来はここから

この2つの記入フォーマットが並んでいる手帳はほかにもありますが、G.B.Plannerの特徴はガントチャート部分にあります。

月間ブロック部分。やはりオーソドックスな構成。六曜と月齢も入っている

写真のようにガントチャートは、見開きの右側に2つ折りになっています。そして反対側に折り返すことで、翌月への引き継ぎが簡単になっているのです。これは、ガントチャート部分が単なる冊子ではなく外に広がりを持った構造だからこそ可能になった特徴です。

ガントチャート部分。右側ページを広げるとこうなる。日付の数字は上下にあり見やすい。また折り返し部分にもプロジェクト名が記入できるようになっており、視線の移動が少なくてすむ。項目名は12

この手帳は同社から相談をうけて私が監修し、細部して発売に至りました。こちらもおかげさまで好評のようで、銀座・伊東屋や大手雑貨店で販売中です。

ガントチャート部分を折り返したところ。翌月にプロジェクトを引き継ぎやすい。折り返すことができるページならではの構造

「正解」「万人向け」の手帳はない

最初の問いに戻ると、手帳は多種多様な使われ方があります。目的も記入方法もいろいろであり、これが正解と一言でいえるような手帳はありません。強いていえば「能率手帳普及版1」(JMAM)のようなものはありますが、あれはいわばビジネス手帳のメートル原器的な存在であり、万人向けというのとは違います。

自動車という工業製品のジャンルには、スポーツカーから4WD、軽自動車、トラックといろいろなタイプがありすべて用途が異なります。手帳もまたこれに近いのです。販売時期と利用期間が限られており、製品価格は比べるべくもなく安いものではあります。それでも、ユーザーが熱望し、自分にぴったりな新しいものを望んでいる度合いは自動車と同じ、いやひょっとしたらそれを上回るかもしれません。

そしてメーカー、いやクリエイターならば、どうせなら冊子の構造から見直して、既存のものにない新しい製品を作りたいという思いがあります。かくして私は上記の2種類の手帳を発案・監修しました。

これは上記の「自分が使いやすい手帳を発案した」というのともちょっと違います。手帳のユーザーの多様なニーズを想定し、こういう手帳はまだ世の中にない。こういう手帳ならば受け入れられるのではないかと想像力を働かせ、なけなしの知恵を絞ってつくりあげたものであるわけです。

この2種類の手帳は、2種類をあわせても売れ筋の1種類の数字にはかなわないのかもしれません。つまりビジネスとしては決して得なやり方ではないともいえます。だとしても、全く異なる2種類のユーザーに利便を提供できているのであれば、それは大きな意義があると思えます。

2種類ともまだまだ進歩・改善の余地はあるでしょう。それはユーザーとともに発見して育てていければと自負しております。

執筆者プロフィール : 舘神龍彦

手帳評論家、ふせん大王。最新刊は『iPhone手帳術』(エイ出版社)。主な著書に『ふせんの技100』(エイ出版社)『システム手帳新入門!』(岩波書店)『意外と誰も教えてくれなかった手帳の基本』(ディスカヴァー・トゥエンティワン)『手帳カスタマイズ術』(ダイヤモンド社)など。また「マツコの知らない世界」(TBS)、「ワールドビジネスサテライト」(テレビ東京)などテレビ出演多数。手帳の種類を問わずにユーザーが集まって活用方法をシェアするリアルイベント「手帳オフ」を2007年から開催するなど、トレンドセッターでもある。手帳活用の基本をまとめた歌「手帳音頭」を作詞作曲、YouTubeで発表するなど意外と幅広い活動をしている。

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