特に手帳に関心がある人でないと「手帳イベント」とは何のことだかわからないと思うので、まず説明しておきます。これは、手帳が好きな人が、特定のテーマの元に集まって開催されるものです。

手帳イベントとは

おそらくその最初は、私が2012年に開催した、"手帳を作ってしまう人"をパネラーに立てたイベント「手帳を楽しむ会」でしょう。この手帳イベントは私が2007年から独自開催している手帳オフの派生イベントで、パネラーの中には、あの「ジブン手帳」の佐久間英彰氏もいらっしゃいました。そしてこの数年、手帳マニアが集まった団体が各地にできるようになりました。

その一つが、今回紹介するイベントの主催である「日本手帖の会」であり、そこからわかれた「手帳社中」というわけです。今回は銀座と蔵前でそれぞれの団体が開催したイベントをレポートしましょう。

「手帳100冊書き比べ総選挙」会場の東急ハンズ銀座店

手帳100冊書き比べ総選挙(@東急ハンズ銀座店)

日本手帖の会主催のこのイベントは、今年で6回目。コンセプトは「たくさんの手帖の中から100冊を選んで書き比べをしてもらう」というものです。今年は東京(9月30日~10月1日/終了)・神戸(10月7日~8日)・横浜(10月28日~29日)の全国3箇所で開催され、東京会場となった東急ハンズ銀座店の6Fフロアの一画には、各種什器の上に手帳100冊が簡単な解説と投票欄付きでならんでいました。

会場の様子。合計102冊の手帳が展示されており、自由に手に取ることができる

このイベントの特長は、「各社の各種手帳を手に取ることができ、また試し書きができる」こと。自分の筆記具で手帳に書くことで、書き心地やインクのノリ、裏抜けなどが実際に体験できるのは、紙とペンとの相性がまちまちな手帳というアイテムを選ぶときには重要なポイントです。またレイアウトや綴じ方などもネットや雑誌の情報ではわからないこともあるので、この種のイベントには意味があるといえます。

アンケート用紙。投票用のシール3枚が付属しており、手帳の解説用紙に貼って投票する

来場者の割合は75%が女性。この会がふだんから開催しているイベントでは、手帳好きな方が多数来場され、常連さんのような方がいらっしゃるそうですが、この総選挙の場合はちょっと様子が違うようです。「手帳に関心があるけれどマニアではない人が、興味深そうに色々手にとってごらんになっています」(同会代表・おりひかいくお氏)。来場者は専用のアンケート用紙に回答しつつ、各手帳の投票欄に専用シールを貼ることで投票を行います。

手帳と解説用紙

100冊のセレクトは手帖の会の面々が選んで決めているそうです。また第1回のときには、会の自己負担で手帳を購入していたそうですが、現在ではメーカーからご提供いただいているとのこと。その中には、東急ハンズでの取り扱いがないものもあるそうですが、総選挙イベントの会期中は限定で扱ってもらったり、イベントをきっかけに扱うようになったりするものもあるようです。

手帳のセレクトについては、第1回ではスタッフの興味で選んでいたそうですが、現在は小さいメーカーのよい手帳を発掘することを意識しているそうで、キュレーター的な役割も果たしているといえそうです。

102冊の展示リスト

なおこのイベントはメーカーから提供されている多数の手帳以外は、すべてスタッフの自己負担だそうです。今も小規模ながら手がけている物販を拡大するなど、もう少し安定的にリソースを確保したいとおりひか代表は語っていました。

「手帳! 展(ててん)」(@蔵前4723+creative garage)

上述の手帳総選挙と同じ10月1日に蔵前で開催された「手帳! 展」(以下「ててん」)。私はイベントの内容は大差ないと考えていましたが、実際は色々違っていました。

「手帳展(ててん)」会場の蔵前4723+creative garage

案内のボード

多数の手帳が解説付きで展示されているのは同じですが、違うのは付随する企画です。「手帳NAVI」と題された企画では、全国の手帳ユーザーが送ってくれた自分の手帳の記入例が多数展示されています。中にはあまり知名度のない手帳もあり、会場内に実物があれば比較することで、その手帳の利用のされ方がよくわかります。

手帳NAVIのコーナー。ユーザーの記入例画像

「ててん」のコンセプトは、「手帳の実際の使い方をシェアしユーザーがコミュニケーションをはかる場を設けること」だそうです。

手帳社中代表の宮崎じゅん氏。当日は革の手帳を作るワークショップも開催。革はある程度下ごしらえして準備したものを利用し、参加のハードルを下げている

物販コーナー。メンバーが用意したラベルやはんこうや、アクセサリー、ラベルなどが販売されていた

この記入例の写真自体にも工夫があります。まずユーザーはA4のコピー用紙の上に手帳を置いて撮影することがレギュレーションとして決まっています。手帳社中のスタッフはそれら画像をPhotoshopで台形補整やコントラスト補整をしてA4用紙に出力。こうするとほぼ原寸大の利用例ができあがるというわけです。ちょっとした工夫ですが、これを思いついたスタッフの慧眼には頭が下がります。

展示の様子。合計121冊の手帳が解説とともに展示されていた。試し書きも可能。また、記入例がある手帳も多数

また投票用紙がないのも総選挙と違うところです。これは上記コンセプトを考えればうなずけるところです。

アンケート用紙。参加者から広く意見を募ろうという意思が感じられる

終わりに

2つの手帳イベントに展示されていた手帳の中には、入手しにくいものや、量販店ではあまり見かけないものもありました。実際、雑誌の手帳特集ではあまりお目にかかれないようなものがまだまだあるのです。そういう製品の存在を伝える場としては、これらのイベントは貴重です。また、共に試し書きができ、手帳を好きなだけ手に取ることができるのは、店頭では難しいことで、これも意義があると感じました。

そして、両イベントに共通して感じたのが、新しく珍しい手帳をいち早く一般に紹介しようという意欲です。リアルなイベントであるだけにこの試みが奏功するかどうかはわかりませんが、そういう情熱があると感じられました。

ただし、手帳にそこまでのことを求めるユーザーの絶対数がどれぐらいいるのかは、現時点では未知数です。手帳総選挙では過去に3会場合計でのべ600人の来場があったそうですが、これが何十倍にもなる日が来るかどうかはわかりません。

ともあれ、これが手帳マニア以外の多くの人にも愛好されるイベントになれば、ただでさえマニアックな日本の手帳がもっともっと発展するのかもしれません。

執筆者プロフィール : 舘神龍彦

手帳評論家、ふせん大王。最新刊は『iPhone手帳術』(エイ出版社)。主な著書に『ふせんの技100』(エイ出版社)『システム手帳新入門!』(岩波書店)『意外と誰も教えてくれなかった手帳の基本』(ディスカヴァー・トゥエンティワン)『手帳カスタマイズ術』(ダイヤモンド社)など。また「マツコの知らない世界」(TBS)、「ワールドビジネスサテライト」(テレビ東京)などテレビ出演多数。手帳の種類を問わずにユーザーが集まって活用方法をシェアするリアルイベント「手帳オフ」を2007年から開催するなど、トレンドセッターでもある。手帳活用の基本をまとめた歌「手帳音頭」を作詞作曲、YouTubeで発表するなど意外と幅広い活動をしている。

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