バイクの楽しさはいろいろあるが、「ツーリング」はバイクの醍醐味のひとつ。ツーリングは"旅"の意味だが、クルマの旅行をツーリングとは呼ばない。クルマは空間が閉じられていることもあって、移動の手段になりがち。バイクは移動そのものが旅になる。流れて行く風景に身をゆだねて走り続ける楽しさは他では得られないものだ。加えて一昨年から高速道路の二人乗りが解禁になった。後ろに彼女や奥さんを乗せて、遠くまで出かけることができる。このタンデム(二人乗り)ツーリングについてアレコレ考えてみたいと思う。

リヤシートの狭いバイクはタンデムに適さない

高速道路(自動車専用道路を含む)での二人乗りが解禁になったのは2005年4月1日のこと。まだ2年ちょっとしか経っていない。解禁といってもいくつか制限はあって、まず20歳未満は高速道路での二人乗りはできない。それと二輪免許(普通・大型)を取得してから3年以上経過していること。もちろんこれは運転者の話であって、後ろには免許を持たない人でも乗せることができる。

また、すべての高速道路で二人乗りできるわけではなく、首都高速の中心部を始めとした一部の高速道路では二人乗りできない。これは明らかに危険な道路という意味なので、初心者は一人でも走らないほうがいいだろう。車両については126cc以上としか制限はない。もちろん二人乗りのための装備(タンデムステップなど)は必要になる。

とまあ、ここまでは法的な話。快適に、安全にタンデムツーリングを楽しむなら、はるかに多くの制限が出てくるはずだ。まず車両だが、余裕をもって120km/h以上で巡行できないバイクでの高速二人乗りは止めたほうがいい。というのも現実にそのくらいの速度で流れている高速道路が多く、交通の流れに乗れないと危険だからだ。たとえば200ccクラスのオフロードバイクは最高120km/hぐらいだから、高速の二人乗りは止めるべきだろう。

もうひとつ、リヤシートの大きさや安定性も重要だ。やはりオフロードバイクのリヤシートは狭く、長距離はとても疲れる。またレーサーレプリカはリヤシートが狭く、異様に高い位置にある。これも緊急用と考え、タンデムツーリングは避けたほうがいい。

撮影用に借り出したカワサキ「W650」。シートもたっぷりしていて、ツーリングにも疲れない

オフロードバイクのスズキ「ジェベル200」。シートは狭く、長距離はつらそう

レーサーレプリカのホンダ「CBR600RR」。パッセンジャーは高く、離れたところに置かれる

タンデムツーリングへの準備

タンデムだからといって、バイクに特別な装備は必要ない。ただ、リヤに大きな荷重がかかるので、リヤのプリロードを上げておくのがいいだろう。これはライダーやパッセンジャー(後席に乗る人)の体重や好みによって変わるので、いったん目分量で上げておき、しばらく走った後、休憩時などに再度調整するのがいいだろう。

空気圧も要チェック。以前は乗り心地などを考えて、一人乗りと二人乗りで異なる空気圧が指定されているバイクが多かった。しかし最近は一人乗りでも240kPaのような高圧が指定されているバイクが増えている。この場合は二人乗りでもほとんど変える必要はない。上げすぎると逆にグリップが下がることもある。いずれにしても指定された空気圧が基本で、好みで多少変えてもかまわないが、増減の幅は指定圧の1割程度だろう。空気圧は冷間時(タイヤが冷えている状態)で測るのが基本だ。

荷物はどうするか? しっかりしたキャリアやパニアケースがあればいいが、普段リヤシートに荷物をくくり付けているようなバイクだと、二人分の荷物の置き場所に困る。デイパック(背負うタイプのバッグ)とタンクバックを併用するのが妥当だろう。キャンプのような場合は別として、できるだけ少ない荷物でツーリングに行くのがツウというものだ。

ライダーがジャケットなどを着るのは当然として、パッセンジャーも同じような装備が必要になる。最低でも長袖のシャツ、長ズボンはほしい。夏場といえどもTシャツ1枚というのは感心しない。ずっと風が当り続けるわけだから、考える以上に体が冷えるし、ひどい場合は神経がおかしくなることもある。また、夏の昼間、晴天時なら1時間もしないうちに日焼けが始まる。そのまま数時間走れば火傷状態だ。そもそも肌を出すのは危険。転倒の可能性だってあるし、虫が飛んでくることもある。

街の中でよく見かけるのは、運転するライダーはそれなりのヘルメットを被っているのに、パッセンジャーに半キャップをかぶせているようなシーン。当然ながら同乗者も十分な性能のヘルメットをかぶるべきだ。運転者はパッセンジャーの命を預かっているのだ。

リヤプリロードの調整。初期位置を変更することで、対応荷重を変化させる。バイクによって調整方法は大きく違う。W650は5段階で、簡単に変更できる

空気圧のチェック。指定の二人乗りの空気圧に合わせるのが基本。エアゲージぐらい買っておこう

よくあるバイク乗りの装備。夏でも長袖、長ズボン、グラブは必須。半キャップは論外

腕のむき出しは止めるべき。石が飛んでくることもある。もちろんグラブも必要

ヒールに生足。街の中で実際にこれで乗っているのも見かける

パッセンジャーはどう乗ればいいか?

パッセンジャーの乗り方はどうだろうか? ライダーが立派な体格をしていれば多少乱暴に乗り込んでも大丈夫だが、ヘタに乗るとバランスを崩して転倒することもある。まず、バイクの左側に立ち、左足をステップに掛ける。そのまま乗ると左に傾くから、右側に上体を乗り出すように、バイクの中心に体重を掛けるようにするのがいい。そして素早く右足をステップに乗せる。

コケやすいのは信号待ちでも同じ。バイクは走っていると後ろの人が多少動いても大丈夫だが、止まっているときに左右に動かれるとけっこう簡単にバランスを崩してしまう。止まっているときはあまり動かないよう、パッセンジャーに注意しておこう。

パッセンジャーはどこをつかめばいいのか? 古いバイクはシートの真ん中にベルトがついていたが、これは低すぎて安定しない(そのため現在は必須でなくなった)。リヤにグリップを備えるバイクもあるが、低い位置にあると体が反り返ってしまう。結局、ライダーのズボンのベルトあたりをつかむのがもっとも安定する。若いアベックだと、べったり張りついて乗っているのも見かけるが、あまりいい乗り方ではない。ライダーの動きが疎外されるからだ。見ていても暑苦しいし(笑)。同様に、肩につかまるのもダメ。一度、安全なところで試してみるといい。急に運転しづらくなるのがわかるはずだ。

しかしライダーのベルトがつかまりやすければいいのだが、ベルトがつかみづらい位置にあることも珍しくないし、第一、ジャケットの下だから手を突っ込まなければならない。そしたら最近は、「タンデムベルト(グリップ)」なる用品が販売されるらしい。恥ずかしながら今回調べていて初めて知った。

これはベルトなどにパッセンジャー用のグリップが付いたもので、ジャケットの上から着用する。なるほど。これならつかみやすいし、どんなウェアでも関係ない。さらに調べていくと、タンデムグリップの付いたデイパックやジャケットなども販売されている。バッグはあまり荷物を積め込むとパッセンジャーが圧迫されそうだが、ジャケットはポケットに収納式のグリップが入っているというもの。二人乗りの機会が多いなら、こういった製品を手に入れておくと便利そうだ。

左側に思いきり体重を掛けると、いくらライダーが支えていても、ぐらつくことがある

右側に乗り出すようにして、バイクの中心に体重を掛ける感じで乗るのが正解

ライダーのベルトあたりをつかむのがいいが、つかめないこともある

デイトナの「タンデムベルト21」。グリップ位置は調整可能。価格は4,200円(M)、5,250円(L)

ラフ&ロード「タンデムグリップ2 RR6092」。他にウエストバッグなどが必要。価格は3,900円

ラフ&ロード「WSオールウェザー ジャケット RR5358」。タンデムグリップを内蔵している。価格は18,900円

ラフ&ロード「タンデムライドパック RR6051」。タンデムグリップを装備。価格は13,125円

よく見るスタイル。急ブレーキには強いかもしれないが、加速すると振り落とされそう

くっつきたいのもわかるが、運転しづらい。おまけにステップから足が外れている

これも意外にライダーが運転しづらくなる。止めとくのが無難

ふざけているとしか思えない

運転は「急」の付く動作をしないこと

さてタンデムの場合、ライダーはどんなことに気をつけて運転すればいいだろうか。当たり前のことだが、急加速、急ブレーキはできるだけしない。パッセンジャーが疲れるし、ひどい時には振り落とすこともある。意外と疲れるのがラフなクラッチワーク。ギクシャクした動きはパッセンジャーに余分な気を使わせる。スムースに走るのが一番。

目の前にクルマや子供が飛び出したらどうするか? もちろんフルブレーキだ。むしろタンデムだからといってフルブレーキできないというほうが危険。事前にタンデムでのフルブレーキを試しておけば、パッセンジャーもブレーキの感覚がわかるはずだ。もちろん安全を確かめた上で試すこと。

パッセンジャー経験のある女性、何人かに聞いてみたが、後ろに乗っていて一番恐かったのは、加速でもブレーキでもなく、実は「すり抜け」なのだという。ライダーは自分の感覚ですき間を判断するが、それはパッセンジャーには経験のないこと。無用なすり抜けは謹むべきだろう。

コーナリングだが、タンデムでも意外になんとかなってしまうもの。タンデムでは後輪により多くの荷重がかかるから、曲がるきっかけが得やすく、コーナーで困るようなことはない。二人乗りならハングオフなどはすべきでないが、リーンウイズや軽いリーンインでもけっこうなペースで走ることができる。それと、パッセンジャーは妙な気を使わず、荷物に徹するのがいい。コーナーでリーンインをして見たり、恐がって反対側に体を起したりすると(リーンアウト)、ライダーは運転しづらくなる。

無駄話をひとつ。私がカミさんと結婚したとき、新婚旅行はタンデムでの伊豆ツーリングだった。当時のバイクは真っ白な「VFR750F」。一泊しての帰り道、伊豆の丘陵を走る有料道路を通ったのだが、休日ということもあってけっこうな数のバイクが元気よく走っていた。うずうずしてきた私は、「おい、石になってろ」と後席に言い捨て、カミさんを乗せたまま追走。ステップを擦りながら大外からブチ抜くなんてこともしてしまった。いや、若かった。

バイクが傾いても、パッセンジャーはそのまま。自分が荷物になったつもりで乗る

恐いからといって逆方向に傾くと、よけい恐い目に遭う

しょぼい図だが、二人乗りでは全体の重心が後ろに移動するということが言いたかった

コミュニケーション

全体の行動だが、タンデムではできるだけ休憩を多くとること。特に初めてのタンデムツーリングなら、出発して30分くらいしたら最初の休憩を取るのがいい。「え、もう休むの?」というぐらいでちょうどいい。高速道路を使うのなら、最初のパーキングでひと休みする。なんともないつもりでも、最初は神経が緊張しているもので、一度休憩を取るとずいぶんリラックスできる。

いくらタンデムといえども、走りながら直接会話するのは難しい。高速道路では風切り音が大きいのでなおさら。そこで活躍するのがバイク向けの通話装置だ。老舗の「KTEL(ケテル)」や、デイトナの「ライドコム」などが有名だ。

バイクの通話装置というと、トランシーバーを使った無線装置を思い浮かべるが、タンデムは二人が近いところにいるので、シンプルな有線のシステムで十分。ただし乗り降りの際にケーブルの脱着が必要になる。最近は携帯電話とつないだり、音楽を聞けるような高機能製品も登場している。

バイクの世界を広げてくれるタンデムツーリング。何が素晴らしいかというと、バイク免許を持っていない奥さんもツーリングに連れて行けること。楽しんでくれれば、サイフのヒモも緩むかもしれない。安全にタンデムツーリングを楽しんでほしい。

KTELのタンデム用セット「KT129」。価格は26,040円。他にジェットヘル同士や無線機など、非常に種類が多い

デイトナ「ライドコム」のうち、オーディオ・携帯電話に対応した多機能セット「type-3(41034)」。価格は57,750円。他にシンプルな「type7(42641)」24,150円などがある。