いまなお昭和の雰囲気を残す中央線沿線の穴場スポットを、ご自身も中央線人間である作家・書評家の印南敦史さんがご紹介。喫茶店から食堂まで、沿線ならではの個性的なお店が続々と登場します。

今回は、神田のカレーショップ「インデラ」をご紹介。

  • すべてが変わらない昭和のカレー屋さん「インデラ」(神田)

イマドキっぽくはないけれどおいしいカレー

ずいぶん前にも書きましたが、かつて神田の会社で働いていました。もう25年以上前の話ですけどね。

今回ご紹介する「インデラ」というカレー屋さんは、そのころ何度かお邪魔したことのあるお店です。会社があった内神田からは少し離れていたのですけれど、てくてく歩いて行く価値は充分にあると感じていたんですよね。

  • 入り口はとても狭いけれど

なぜって、昭和そのもののレトロな雰囲気、そしてカレーの味が最高だったから。

ってなわけで、数十年ぶりに再訪です。

  • この先の階段を降りると……

神田駅南口を背にして「神田金物通り」を5分ほど直進すると、左側に縦書きで「インデラ カレーの店 インデラ」と書かれた黄色い看板が見えてきます。足元には「インデラ」と、黄色い地に4色で書かれた立て看板もありますねえ。あのころとまったく変わらないや。

間口は非常に狭く、足を踏み入れると目の前はすぐ階段。ドアはなく、階段を降りたら目の前がお店という変わったつくりになっています。しかもその店内が、なんとも個性豊かでね。

  • 階段から外を見るとこんな感じ

席は、黄色い丸椅子が並ぶカウンター席のみ。インドをイメージしたのであろうアーチがついた左側の壁には、エスビーカレーの赤缶が積み上げられています。小物も赤と黄色が基調になっており、オリジナリティにあふれているのです。

  • 個性の塊のような店内

なお、おそらく有線だと思われますが、BGMは70〜80年代のロックやポップス。カウンター席に座ったらすぐ、高校生のころに好きだったジェイ・ファーガソンの“Thunder Island”が流れてきたので気持ちがぐっと上がってしまいました。その後にはジョン・レノンの“Love”が聞こえてきたりもしたし、なんだかいい感じです。どちらもカレーっぽくはないけど。

  • メニューはいたってシンプル

メニューは「カレー」と「ハード」の2種、そしてトッピングの「タマゴ」のみ。ご飯の量は普通盛、大盛、特盛がありますが、記憶を頼りにする限り、普通盛りでもけっこうな量があったような。

そこで、ご飯は普通盛りで、昔と同じく辛さは「ハード」をチョイス。とはいえ「ハード」はいわゆる激辛ではなく、ピリカラという程度。辛いものが苦手は人でも無理なく食べられる、“昔の中辛”です。

ところでこのお店には、あとふたつ特徴があるのです。

  • 「ハード」に生タマゴをトッピング

まずひとつ目は、「速さ」。もちろんこの日も同じで、注文してからわずか10数秒で登場です。なおトッピングで生の「タマゴ」をお願いしていたので、お母さんが目の前でひとつ割って入れてくれました。カウンターに、たくさんの卵が積まれているんですよ。その横にはペーパーナプキンで包まれたスプーンがきれいに並べられたりもしていて、見た目にもかわいい。

  • タマゴがズラリと並んでいます

  • その横にはスプーンが

そして、もうひとつの特徴は副菜の多彩さ。福神漬けやらっきょうなどカレーの定番はもちろんのこと、きんぴらごぼう、ザーサイなど10数種類がカウンターにズラリと並んでいるのです。

  • 副菜がこんなにいっぱい

福神漬けとらっきょう、ピリ辛こんにゃくをトッピングしたところ、「こちらもおいしいですよ」と蓮根のごま味噌漬けを勧められたのでそちらもいただくことに。

  • 蓮根のごま味噌漬け

それにしても、見た目からしてあのころのまま。食べてみれば、もちろん味も変わらずです。わかりやすくいえば、いい意味で“家庭の延長”。もしくは、幼いころ、特別な日に連れて行ってもらったレストランで食べたカレーのような印象です。で、たしかに副菜ともよく合います。

だから食べていると、子どものころのこと、それから神田に勤めていたころのことが次々と頭に浮かんできてしまうんですよねー。イマドキっぽくはないけれど、いや、イマドキっぽくないからこそ、これは本当においしいカレーだ。

  • とっても懐かしい味

でも、昭和45年からこの地で営業を続けてきたお母さんは、ちょっと複雑な心境のようです。

「神田は変わった……。インデラは変わらない……」

たしかに神田も、いまやチェーン店だらけですものね。しかもコロナ後は客数が激減したのだとか。

「だって、みんな家で仕事してるから会社に来ないじゃない。だからコロナになってから、お客さんは(以前の)半分」

仕方がないことだとはいえ、これはつらい話ですね。

帰り道、焼肉のチェーン店に入っていくサラリーマン集団を目にしました。焼き肉をガツンと食べて、午後もがんばろうということなのでしょう。気持ちはわからないでもありません。

  • やさしい気遣い

でも、たまにはすぐ近くのインデラにも足を運んでほしいものだなと、余計なことを考えてしまったりもしたのでした。

お母さん、きっと喜んでくれるよ。

●インデラ
住所:東京都千代田区神田紺屋町6
営業時間:10:00〜18:00
定休日:土曜、日曜、祝日