いまなお昭和の雰囲気を残す中央線沿線の穴場スポットを、ご自身も中央線人間である作家・書評家の印南敦史さんがご紹介。喫茶店から食堂まで、沿線ならではの個性的なお店が続々と登場します。

今回は、高尾のレストラン「多花美」をご紹介。

  • 1978年創業の老舗レストラン「多花美」(高尾)

昭和レトロそのものな店名

以前、高尾の「高尾名店街」内にある「おしゃれとコーヒー オルム」という喫茶店をご紹介したことがありました。実はそのときから、同じフロアで営業しているレストランのことがすごく気になっていたんですよ。

  • 駅からすぐの高尾名店街

なぜって「多花美(たかみ)」という名のその店は、まさに昭和レトロそのものだったから。

  • 階段を上がると2階がレストランフロア

  • ここがお目当ての「多花美(たかみ)」

ビルの階段を登るとすぐ左側。通路側は大きなガラス張りの窓になっており、開放感があります。でも、その窓を遮るようにアンパンマンのゲーム機、そして14台ものガシャポンが並んでいるあたりがなかなかシュール。

  • 華やかなショーケース

とはいえ昭和のレストランの定番メニューがずらりと並ぶショーケースをチェックしてみれば、ここが歴史のある店であることは容易に想像できます。だから2年間ぐらい、このお店のことが頭からずっと離れなかったんですよ。てなわけで、ついに行ってまいりました、高尾まで。

  • 広く席数の多い店内

店内は入り口右側が厨房になっていて、その向かいにはカウンター席も。けれど、そちらは常連さんでない限り座れそうもなさそうですね。でもご安心を。左側に目をやれば、テーブル席がずらりと並んでいるのですから。

4人用席が、窓際に4卓、奥の壁際にも3卓。その間の中央部分には10人用のテーブル席がふたつあり、さらには左奥にも4人用席2卓に6人用席1卓。外から見るよりも広々としているため、席と席の間にも余裕があるのです。これならDJ機材を持ち込んで、貸し切りパーティーなんかも余裕でできそうですな。

  • 奥の席はとくに落ち着けそう

とはいえダンス・ミュージックがかかっているわけではなく、それどころかBGMは演歌。正直なところ、「なぜここで演歌なのか?」という疑問は残ってしまったのですけれども、それもまたこのお店の個性ということなのでしょう。

ちなみに平日午後13時半の店内には、入り口近くの席に常連さんらしき女性がひとり。そして奥の席では70代くらいの方々3人が昼飲みしておりました。うらやましいなあ。

  • メニューの情報量がすごい

ところでね、メニューの多さにビックリなんですよ。なにせスパゲティだけでも6種類、ハンバーグステーキにいたっては8種類もあるんですぜ。他にもトースト、サンドイッチ、ピザ、おこのみやき、サーロインステーキなど、無敵の“なんでもあり”状態。昭和のデパートにあった大食堂みたいで、なんだかワクワクしちゃいます。

  • ランチメニューも充実

時間が時間だったのでランチメニューにしようと思ったのですが、こちらも固定メニューが11種類。いちばん上に書かれている「ドイツ風コロッケ」かなぁとも思ったのですが、視線を下にやると「ポークピカタ」なんでシブいものまであるじゃないですか。ランチでポークピカタを出す店って、けっこう珍しくないですか? ということでドイツ風コロッケではなく、こっちをオーダーしてみたのでした。

  • 「ポークピカタ」の圧倒的存在感

ところが、冷奴、カップに入った味噌汁に続いて登場したそいつを見てビックリ。全面にグラスソースがたっぷりかかっているので、ポークピカタって感じがしないんですよ。でも、ここまで大胆なことをするということは、デミグラスソースに自信を持っているとみた。

なお、つけあわせはマヨネーズのかかったキャベツの千切り、コーンソテー、フライドポテト。別皿のライスも山盛りなので、かなりのボリュームです。食べている途中で若者が入ってきたのですが、なるほどこの近くには大学が多いから、学生にはありがたいかもしれませんね。

  • デミグラスソースがたっぷり

で、お味です。きわめてオードソックスなポークピカタと、対照的にコッテリ濃厚なデミグラスソースは相性抜群。必然的に、ご飯がどんどん進んでしまいます。いかにも昭和のレストランの味って感じですね。特別なことはやっていないんだけど、だからこそ魅力的だといいましょうか。

が、なにしろ全体的に量が多いもので、最終的にはご飯を少し残すという結末に。ホールを担当する愛想のいいアジア系のおばちゃんに「ご飯、多すぎた?」とツッコミを入れられてしまったので、「すみません、食べきれなくて……」と敗北宣言するしかなかったのでした。

とはいえ、昼間から酒盛りをする先輩方も、食べ盛りの学生も受け入れることのできる包容力はさすがというしかありません。

  • アイスティーは普通のグラスで

帰りがけにお聞きしたところ、創業は1978年なのだとか。ということは、「僕が生まれる前からあるんですよ」とおっしゃっていたオーナーさんは二代目なのかもしれませんね。

いずれにしても、今後もこの地で営業を続けていただきたい。いつか、ドイツ風コロッケも食べてみたいものです。

●多花美
住所:東京都八王子市初沢町1227-4
営業時間:10:00~23:00
定休日:無休
※新型コロナウイルス感染拡大等の影響により、営業時間・定休日が変更となっている場合もあります