いまなお昭和の雰囲気を残す中央線沿線の穴場スポットを、ご自身も中央線人間である作家・書評家の印南敦史さんがご紹介。喫茶店から食堂まで、沿線ならではの個性的なお店が続々と登場します。今回は、西荻窪から少し離れた場所にある「食事処 マツダ」です。

  • 「食事処 マツダ」(西荻窪)(写真:マイナビニュース)

    「食事処 マツダ」(西荻窪)

最寄り駅の西荻窪から歩いたとしたら、10~15分くらいかかるでしょうか。つまり実際のところ、最寄駅はないようなもの。青梅街道沿いなので、隣の荻窪からバスに乗るのがいちばん楽かもしれません。

そもそも、ネット上にさえほとんど情報がないのです。でも、通りかかるといつもしっかり営業しているように見えるので、それなりに需要はあるんでしょう。謎が多いですね。

だから妙に気になってしまい、以前にも平日に2度ほど訪ねてみました。が、なぜだかそのたび休業。ネット情報によれば、日曜定休だったはずなんだけどなぁ。

ネットの情報はあてにならないということの証明でしょうか? それとも、たまたま臨時休業に当たってしまったのでしょうか。

真相はわかりませんが、どっちにしても、そうなるとますます気になってくるわけです。ってことで後日また挑戦したところ、今度は無事に営業中でした。これぞまさに三度目の正直。でも、そんな経緯があっただけに、ちょっとドキドキしちゃうよなぁ。

  • 80年代っぽいロゴマークに味わいが

常連客とのやりとりはホームドラマのよう

1980年代っぽいロゴマークが入った扉を開けると、右にカウンター席があり、左にテーブル席がいくつか。扉横の頭上にあるテレビでは、お昼のニュースが流れています。

  • なるほど、店内はこういう感じだったのか

それにしてもメニューが豊富。つい迷ってしまいますが、ベーシックなところからということで、デジタル看板で表示されている(妙にハイテク)「本日のランチ おろし焼肉定食」を注文してみました。

広すぎず、狭すぎもせず、どこか家庭の居間っぽくもあるお店を切り盛りするのは、品のいい老夫婦。見る限り、調理は奥様が担当されているようです。

  • 品数豊富で目移りしてしまいそう

印象的だったのは、ご主人がワイシャツにネクタイを締め、その上からエプロンをかけていたところ。きちんとした身だしなみは、それだけで安心感を与えてくれるものですね。

予想どおり需要はあるようで、そこそこお客さんが入っています。といっても僕が入っていったとき2組のお客さんがいただけですが。でも、決して好立地ではなく、しかもお昼前にそれだけ人がいるということは、やはり地元に根差したお店なのでしょう。

そして、常連さんも少なくない様子。僕のあとに入ってきた方は、カウンター席につくなり、ご主人に仕事の愚痴をこぼしていました。でも、それが嫌な感じじゃないんだよなぁ。なんだかホームドラマみたいで。

  • カウンターの上にはペン立てまであったり

家庭の味の理由とは……?

ところで、真正面にあった厨房の棚に、すごいものを見つけてしまいました。なんと、丸美屋麻婆豆腐の素、ハウスバーモントカレー、ハウス北海道シチューなど市販品がズラリと並んでいるのです。

  • 堂々と存在感を示す市販品の数々

ちょっと驚きましたが、隠そうともしていないあたり、逆に潔さを感じてしまいます。つまり、家庭の延長ってことだな。それはそれで充分にアリではないでしょうか。

さて、そうこうしているうちに、おろし焼肉定食が登場しました。「(大根おろしに)味ぽんをかけるとおいしいですよ」と奥様。ここでも市販品と共存しているわけで、やはり家庭の延長で間違いないようです。

  • まさに「家庭のごはん」感

焼肉はそこそこ量があり、サラダもたっぷり。うれしいのは、たけのこ、高野豆腐、こんにゃくなどの煮物がついていることです。なんだか、おばあちゃんの家でごちそうになっているような気分。ホッとするなぁ。

  • ひとつひとつ、ていねいにつくられている印象

味のほうも、いい意味で"普通"。可もなく不可もないわけですけれど、こういうお店はこうであってほしいという気がします。そう、必要以上にこだわっていたり、面倒なウンチクを傾けられたりするよりも、この程度がちょうどいいのです。

ビールやお酒もあるようなので、常連さんになれたら、さらに居心地がよくなるでしょうね。

お会計をする際、「前から来てみたかったんですよ」と奥様に声をかけると、「そうなんですか、だったらこれからも」とシンプルなご返事。必要以上に気を遣われるよりも、これくらいさりげないほうが温かみを感じます。

聞けば40年もの歴史があるのだとか。だから80年代っぽい雰囲気なんですね。

気になるメニューはいくつもあったし、近くを通りかかったらまた利用してみよう。やっぱり気になるのは、市販品を使用した麻婆豆腐、カレー、シチューあたりだな。いや、いい意味で。


●食事処 マツダ  住所:東京都杉並区上荻4-25-13
営業時間:月~金8:00~夕方
     土8:00~お昼
定休日:日曜日

著者プロフィール : 印南敦史(いんなみ・あつし)

作家、書評家、フリーランスライター、編集者。1962年東京生まれ。音楽ライター、音楽雑誌編集長を経て独立。現在は書評家としても月間50本以上の書評を執筆中。『読んでも読んでも忘れてしまう人のための読書術』(星海社新書)、『遅読家のための読書術――情報洪水でも疲れない「フロー・リーディング」の習慣』(ダイヤモンド社)、『プロ書評家が教える 伝わる文章を書く技術』(KADOKAWA)ほか著書多数。