働き方改革の必要性がかまびすしく叫ばれていながらも、その変化を感じにくかった昨今の日本社会。だが、突如として降ってわいたコロナ禍により、皮肉な形ではあるがその姿は一変した。大手企業をはじめとする多数の会社でテレワーク(在宅勤務)が推奨・励行されたり、フレックス勤務が取り入れられたりするなど、私たちが働く環境は大きく変わった。

その一方で、緊急事態宣言で外出が制限された影響もあり、人々の経済活動は停滞し、国内の景気は一気に冷え込んだ。その経済的ダメージは国内企業にも暗い影を落とし、いわゆる「コロナ倒産」も相次いだ。ビジネスパーソンは襟を正して仕事をする必要があるだろう。

では具体的に、新型コロナウイルスがまん延している「アフターコロナ時代」において、どのような働き方が求められ、どのような人材が会社から必要とされるのだろうか。生産性向上による働き方改革コンサルティングや、コンサルティングスキルを実践形式で学べるビジネスブートキャンプを手掛ける、ビジネスウォリアーズの相原秀哉代表取締役に解説してもらった。

  • これからの時代、会社員は変化の波に対して敏感なことが求められる

緊急事態宣言は解除されたものの、第2波、第3波の脅威が去ったとは言えません。休業要請が緩和されても航空、観光、飲食、娯楽など多くの業界では感染防止のために活動の制約を受けており、客数もコロナ前の水準には戻っていません。新型コロナウイルス感染症によるパンデミックが私たちの社会に大きな影響を与えていることは反論の余地がないでしょう。

世界中の国々で都市のロックダウンが起き、日本では外出自粛要請に続く緊急事態宣言の発出に伴い経済活動がほぼ全面的に止まり、海外からの旅行客はおろか国内においても人の移動が大きく制約を受け、出勤すらままならない。こんな状況をたった1年前、いや半年前の時点ですら想定できた人はほとんどいないのではないでしょうか。

新型コロナウイルスとの闘いはまだ当分続きそうですが、たとえ収束したとしてもグローバル化が進んだ今の社会では、感染症に限らず世界のどこかの出来事が瞬く間に日本にも大きなインパクトを与えるような事態がいつ起きても不思議ではありません。

それにも関わらず会社の経営戦略にせよ個人のキャリアにせよ、過去の延長線上でしか物事を考えられないようだと致命的な打撃を受けかねません。会社としても個人としても、社会の急な変化によるダメージを緩和しつつ、むしろ変化をテコのように利用して飛躍できる人材はこれから特に重宝されるのではないかと考えます。

そこで本稿では働く環境に焦点を当てて、会社の上司と部下の双方の立場において、どのような力を持った人が活躍できるかを考察します。

社会の変化から目を背けず自ら働きかける構想力と具現化力

人間誰しも自分にとって不都合な真実からは目を背けたくなるものですが、今回の危機のような社会に対する突発的かつ大規模なインパクトが発生したときに、そこから目を背けることは取り返しのつかない事態に自らを追いやってしまいかねません。

そのため、上司の立場では変化に正面から向き合い、社会や業界、顧客、自社、あるいは自部門にどのような影響を及ぼすのかを見極めて迅速に組織としての対応の方向性を打ち出せるかどうかが問われます。

そこで上司に求められるスキルは「構想力」です。それは今回の危機のような大きな波が目の前に押し寄せてきているときに、その波を乗り越えて自分の組織と社員が生き残るためにクリアしなければならない課題を定義し、その課題を構成する要素間の構造を解き明かし、そこから最もレバレッジが効く要所を特定し、その要所にリソースをどう集中して対応するかを考える力です。

なお、ここで重要なのは「対応すべき点を絞ること」と、そこに「リソースを集中させること」の2点です。そもそも対応すべき点が絞れていないとリソースを集中させることができませんし、絞れていても少ないリソースでは十分な効果を発揮できないと考えられるからです。もし要所が特定できないのであれば、それは課題の定義が甘いか、課題を構成する要素間の構造がわかっていないことに起因のではないかと疑い、再考する余地があるでしょう。

一方、部下の立場に立つと上司が立てた構想を現場の観点から肉付けして自身の作業計画に落とし込んだり、関係者との詳細な調整スケジュールを策定したりすることなどが求められるでしょう。それはいわば「具現化力」とでもいえるものです

なお、構想を具現化する過程において矛盾点を発見したり、より良いアイディアを思いついたりした場合はすぐに上司に伝えて矛盾点を修正してもらったり、アイディアを取り込んでもらったりするとよいでしょう。建設的な意見のやり取りを通じた構想のブラッシュアップが期待できます。

変化の波を乗り越えるのに必要な仲間を巻き込む力と成し遂げる行動力

変化を乗り越えるために上司が立てた構想と、それを部下が肉付けした計画がいかに素晴らしくても、そのために必要な仲間が協力してくれなければ実行に移せませんし、実行に移せても最後までやり遂げなければ、たとえ途中までうまくいっても元の木阿弥になりかねません。

そのため、上司の立場としては自分の部下はもちろんのこと、他部署や場合によっては社外の人を説得して変化を乗り越えるための構想を実現するための協力を取り付けなければなりません。そのために上司には「巻き込み力」とでも呼べる力が必要です。

構想の実現によって変化の波をどう乗り越えるのか、その先に自社や業界、その先の社会がどんな姿になっているのか、それによって人々はどのようなメリットを享受できるのかなどの話をストーリーとして語り、理屈による説得だけではなく感情を揺さぶって共感を得て、心から協力したいと思わせることができれば理想的でしょう。

無論、自身にカリスマ性があれば放っておいても自分の周囲に人が集うかもしれませんが、カリスマ性がなくても常に誠実な態度で人と接し、高い熱量を持っている人であれば論理と感情をバランスよく使うことで「巻き込み力」を存分に発揮できるでしょう。

その一方で部下として最も大事なのは「行動力」です。それは自分に与えられたミッションをやり遂げる力と言い換えられますが、「ただ一生懸命にやる」ということではありません。特に困難な仕事であればあるほど、そして関与する人や組織が多くなればなるほど、そして長期になればなるほど、当初予定通りに最後まで何事もなくスムーズに進むことはまずありえません。

環境の変化に伴い計画の大幅な修正が入ったり、誰かのミスが発覚して遅延したり、組織間の利害不一致に伴う軋轢が生じたり、諸事情により仲間が離脱したりと、影響の大小はあれど、ほぼ確実に何らかの障害が発生することでしょう。このような障害にいち早く気づいて上司に報告したり、場合によっては自ら障害の発生原因を特定して対応したりといったことができなくてはなりません。自分に与えられたミッションを全うすることだけではなく、こうした課題の発見と解決もできることも含めての「行動力」が求められるということです。

状況変化に応じて方向転換できる決断力と柔軟性

今回のような危機が起きたときに迅速に構想を立てて具体的な計画に落とし込み、社内外の多くの仲間を巻き込んで多くの課題を乗り越えて邁進できたとしても、それだけではまだ不十分な点があります。

もし計画を実行している段階で、誰も全く予想していなかった深刻な悪影響が出ることが発覚してしまったらどうしますか。または、元々対応していた危機とは全く異なる危機がさらに発生してリソースが一気に散逸してしまったり、破壊的なテクノロジーによって対応の前提が根底から崩れてしまったりしたらどうしますか。

そこで発生した課題がどれも解決できる可能性があるものならば構想や計画の微修正で対応できる余地はありますが、状況の変化によって構想や計画そのものが無効化してしまったり、実現可能性が極端に下がってしまったりした場合にはそれらを根本から見直さざるをえません。

ただし、自分のことを信じて協力してくれた大勢の努力が注ぎ込まれている取り組みを中止、あるいは大きく変更するのは相当な覚悟が要ることです。急な方針転換に納得がいかずに反発する人や、やる気を失って意気消沈してしまう人もいるかもしれません。

しかしながら状況が変わったことを無視して当初の構想に向けて計画を進めることは、却って周囲を危険な目に遭わせることになると肝に銘じるべきです。例えるなら標高が高く険しい山への隊列を組んでの登山中、急な悪天候に見舞われた際に「多くの隊員の努力をムダにするわけにはいかない」という理由で強行突破しようとして遭難に遭ってしまうようなものです。

先々のことをどれだけを見通そうにも、100%正確な予測というものはありえません。それを踏まえて刻一刻と変化する状況を的確に捉え、もし既存の構想と計画の修正では対応しきれないほどの変化が生じた場合には、上司の立場としては批判を覚悟の上で計画の中止や延期、大幅な変更を自らの責任で決める「決断力」が求められるでしょう。

そして部下の立場としては、そうした意思決定によって自分がそれまでにかけた多くの時間や努力、そして想いがムダになってしまうと上司に反発するのではなく、「状況が変わったのだ」と計画の変更を受け入れて前に進むことが必要です。

「既にこれだけの努力を投じてきたのだから、それをムダにするわけにはいかない」というのも気持ちとしてはわかりますが、「過去の努力」は既に回収が不可能なサンクコスト(埋没費用)です。これまでにどれだけ頑張ってきたとしても、そのことは「自分がこれからどう行動すべきか」と切り離して考えられなければなりません。そうやって臨機応変に対応できる「柔軟性」を身に着けることが激しい変化の波を乗り越えていくために重要です。

本稿ではアフターコロナの世界で多くの変化が生じることを前提に、変化に適応できる力を持つことが生き残るために必要ではないか、とお伝えしました。そのために上司と部下のそれぞれの立場から必要な能力をまとめましたが、もちろん上司向けとして説明した能力を部下が必要とするパターンも、その逆のパターンもあるでしょう。

いずれにせよ、こうした能力を身に着けている人材はどの業界においても広く求められるでしょう。本稿の内容がアフターコロナの世界を生き抜くために読者の皆様に少しでも役に立てれば本望です。

筆者プロフィール: 相原秀哉(あいはら ひでや)

株式会社ビジネスウォリアーズ代表取締役
慶應義塾大学大学院修了後、IBMビジネスコンサルティングサービス(現日本IBM)入社。グローバルスタンダードの業務改革手法、Lean Six Sigmaを活用したコンサルティングを得意とし、2012年に日本IBMで初めて同手法の伝道師 "Lean Master"に 認定される。その後、幅広い組織や個人の生産性向上に寄与するべく独立。生産性向上による働き方改革コンサルティングや、コンサルティングスキルを実践形式で学べるビジネスブートキャンプを手掛ける。