俳優の米倉涼子が麻薬取締法違反(共同所持)の疑いで「書類送検された」と報じられたのは1月20日のこと。「逮捕との違い」「書類送検の意味」などを解説する記事も多く見られたが、その一方で「お蔵入りの可能性」「深刻ダメージ」「復帰への道は相当厳しい」といった、あえてマイナスイメージを強く印象付けるような記事も散見された。

  • 米倉涼子

    米倉涼子

その後、米倉は公式サイトを通じて「不起訴処分になりました」と報告。「これをもって、私に対する捜査は結論が出たものと認識しております」と改めて状況を説明し、「私が発言することで、その内容が独り歩きし、思いもよらない形で各方面へご迷惑をおかけする可能性もあるため、弁護士の指導を踏まえ、私からの説明は控えさせていただきます」と理解を求めた。

2月10日、都内で行われたPrime Original映画『エンジェルフライト THE MOVIE』完成披露試写会に出席。活動自粛以降では、初の公の場となり、「ファンの方の熱い思いと、そしてすべての関係者の方の手厚いサポートのおかげで、こうやってここにいられることに感謝しております。そして何より、キャストの皆さんと一緒に登壇できていることを本当に感謝して、嬉しく思っております」と胸の内を明かした。

私たちが当たり前のように目にする「書類送検」報道。特にそれが署名人であれば、SNS上でも様々な憶測が飛び交うことから、不確かな情報との接触機会も増えてしまう。今後も必ず目に飛び込んで来るであろう「書類送検」報道を、人々が冷静に受けとめるために知っておくべきこととは。新たな視点で様々なテーマを追う連載「日曜トライアル」の第13回では、アディーレ法律事務所の南澤毅吾弁護士が「書類送検」報道を多角的な視点から解説する。

法的にどのような状況だったのか

南澤弁護士:ここまでの報道を元にすると、米倉涼子さんは、麻薬取締法違反で「書類送検」されています。この背景として、自宅から違法薬物が発見されてしまったという事実があります。違法薬物は、所持しているだけで麻薬取締法違反となるため、米倉涼子さんが自分の意思で持っていたのであれば、犯罪になってしまいます。一方、同居人など他の人が持っていて、米倉涼子さんがまったく知らなかったということであれば、麻薬取締法違反は成立しません。

いずれにしても、犯罪の疑いがあり、真相を確かめるため、検察が取り調べをしないといけない状況と判断されたことで、「書類送検」に至ったと考えられます。その後、米倉涼子さんには「不起訴処分」が下ったと報じられています。不起訴処分の理由は明らかにされていませんが、一般的には、捜査の結果、犯罪の疑いがなかった、十分な証拠がなかったという結論に至ったということでしょう。

「書類送検」報道の課題と注意点

南澤弁護士:「書類送検」とは、警察に逮捕されず、日常生活を送りながら、検察から取り調べを受ける状態になることを意味します。逮捕の上で行われる身柄送検とは区別されます。事案が軽微な場合や、本人が取り調べに協力的な場合など、逮捕の必要性が低い手続きについて取られます。

書類送検された事案のうち、起訴される割合は一部に留まります。送検された刑事事件全体のうち、不起訴となる割合は7割ほどという統計もあり、書類送検に絞ればその割合はより高いでしょう。もちろん、書類送検のみで不起訴処分となれば、前科はつきません。実際に今回のケースも不起訴処分となっています。

しかし、マスコミはこの「書類送検」のタイミングをセンセーショナルに報道します。今回の報道を通じて、米倉涼子さんが罰金などの処罰を受けたと誤解された方も少なくないでしょう。このように、司法手続の実態と乖離している点は、報道の課題といえます。

有名人が「書類送検」段階で実名報道される社会的意義とリスク

南澤弁護士:「書類送検」は、必ずしも起訴や有罪が確定したことを意味する手続きではありません。それにもかかわらず、なぜメディアは有名人が書類送検された段階で実名報道を行うのでしょうか。

その背景には、メディアが視聴者やスポンサーによって支えられているという事情があります。視聴者やスポンサーは、有名人を「お茶の間に登場する存在」として捉え、一定の清廉さや信頼性を求める傾向があります。そのため、たとえ書類送検の段階であっても、テレビ出演などが適切ではないと判断する企業が一定数存在することは避けられません。

また、視聴者・スポンサー・番組側はいずれも、適切な情報に基づいて有名人を評価・判断する権利を有しています。実名報道によって事実関係が公にされることで、こうした判断に必要な情報が提供される点は、社会的意義の一つであると言えるでしょう。

一方で、今回のケースでは、書類送検後の捜査の結果、米倉涼子さんは不起訴処分となりました。結果的に、刑事責任を問われることはなく、刑事上は無実であったと言えます。しかし、報道が過熱したことで、「刑事罰を受けたのではないか」と誤解する人が生じた可能性は否定できません。

さらに、不起訴処分であったにもかかわらず、インターネット上では「政治的な配慮があったのではないか」「いわゆる上級国民だったのではないか」といった根拠のない憶測が広がることもあります。これは、事実関係よりも、「メディアが悪者として報じた人物は悪者である」という固定観念が社会に浸透していることの表れではないでしょうか。

確かに、有名人はメディアを通じて知名度を高め、経済的利益を得てきた以上、ある程度のリスクは引き受けるべきだとする見方も存在します。しかし近年は、SNSの発達により、不祥事が娯楽的に拡散されやすい環境が整っています。報道内容に真偽不明の情報や誇張が加わり、実態以上に名誉が毀損され、人権が侵害されるおそれは、もはや看過できない問題となっています。

判決が出る前に「社会的死」を迎えてしまう現代の危うさ

南澤弁護士:これまで述べたように、有名人は「書類送検」の実名報道だけで、社会的地位が失われる時代です。社会制度としては、裁判によって刑罰が確定するという建前であるものの、実態としては、裁判よりも前の「疑惑」によって、社会的制裁を受けるようになってしまっています。

また、一般人もこのような事態と無縁ではありません。メディアに「書類送検」として実名が出てしまえば、退職に追い込まれることや、地域社会での居場所を失うことがあります。このように、「書類送検」という事実は、社会的制裁につながる大きなインパクトをもっています。

さらに最近では、警察の捜査前にSNS上で情報が拡散され、私的制裁が加えられることがあります。「暴露」「私人逮捕」など、一個人があたかも警察のように社会的制裁を主導することが、ひとつのムーブメントになっています。

これらの社会的制裁は、一見、世論にしたがって正義が実現されているようにも見えますが、様々なリスクと隣り合わせです。仮に当人が無実であった場合、加担した人々はどのように責任を取るのでしょうか。過去に、スマイリーキクチさんが、殺人犯であるという根も葉もない噂を拡散されたことで、大変な風評被害を受けてしまった実例があります。社会的制裁は、誤った情報で無実の人が責められるリスクと隣り合わせです。

また、犯した罪以上に過激な社会的制裁が加えられることもあります。不適切・不謹慎な発言をしてしまったというだけで、小中学生があたかも重罪人のように晒し上げられてしまう光景をSNS上で目にします。当人らが反省すべきであるとしても、子どもたちに過度に社会的制裁を与えることは、本当に社会のためになるのでしょうか。犯罪者であるかのようなレッテルを貼られた子どもたちは、より重い非行に誘導するきっかけになってしまうかもしれません。

以上のように、裁判ではなく「社会的制裁」が行われてしまうことは、取り返しのつかない結果を生じてしまうリスクがあります。

どのように「書類送検」報道と向き合うべきなのか

南澤弁護士:私たち一般大衆の目線だと、「書類送検」を含めた犯罪報道は刺激的で、拡散・共有したくなるトピックです。疑惑がある人が社会的立場のある人・有名人であればなおさらです。真っ当に生きている人ほど、義憤を刺激されやすい状況といえます。

しかし、SNSやAIの発達によって、今まで以上に玉石混交な情報が氾濫している時代です。事実を誤認しないよう、正しい姿勢でメディア・報道に向き合うことが求められる時代でしょう。

そのための具体的な行動としては、ひとつは、刑事手続の全体像を把握し、報道されているのがそもそも犯罪・事件であるのか、そうではないのか、またどの局面であるのかを理解することが重要です。最近では、素人や初学者に向けた専門書籍も増えていると思います。

また、情報の正確性について、これまで以上に警戒する姿勢が重要です。昨今では、インターネット・SNSで様々な情報が拡散し、現実そっくりのディープフェイク映像が作成されることも珍しくありません。安直に報道を鵜呑みにせず、複数の情報源を比較し、検証することが重要になるでしょう。

また、SNSでの社会的制裁に対しては、距離を置くことも必要です。義憤に駆られて人を批判・制裁することは、正義感を満たしてくれるかもしれません。しかし、それが虚偽の事実であった場合は問題です。安直な拡散は、「名誉棄損」という犯罪と隣り合わせであることは理解しておくべきでしょう。

■プロフィール
アディーレ法律事務所 南澤毅吾 弁護士
「パチスロで学費を稼ぎ、弁護士になった男」という異色の経歴を持つ。司法修習時代は、精神医療センターにて、ギャンブルを含む依存症問題について研修を受けた経験があり、一般市民の悩みに寄り添った、庶民派の弁護士を志す。アディーレ法律事務所・北千住支店長として対応した法律相談数は、累計数千件に及び、多様な一般民事分野の処理経験を経て、現在は交通事故部門の責任者となる。