テクノロジー、ビジネス、ライフスタイル、カルチャーを中心とした幅広いテーマで執筆や企画を行っているフリーランスジャーナリスト、松村太郎氏。現在も米国カルフォルニア州バークレーからさまざまなメディアに寄稿している。本稿では、モバイルやSNSへの造詣が深い同氏に、現代のコミュニティの作り方を伺っていきたい。

  • カリフォルニア在住のITジャーナリストが語る日本と米国のコミュニティ

    左から、日比谷尚武氏、松村太郎氏、徳本昌大氏

聞き手は、マイナビニュース別稿で"人脈"について対談を行った、ビジネスプロデューサー・書評ブロガーの徳本昌大氏と、IT企業 Sansanで"コネクタ"の肩書きを持つ日比谷尚武氏の2名。SNSを活かした人脈構築に早くから取り組んでいる3氏のお話から、日本と海外のコミュニティの違い、そして活用の仕方を探っていこう。

米国から情報を発信するジャーナリスト

松村氏は、ITに関する鋭い視点で知られるジャーナリスト。慶應義塾大学 政策・メディア研究科修士課程在学中の、2004年からCNET Japanでモバイルメディアなどをテーマとしたコラムを連載。数多くのITメディアで記事の執筆に携わっており、2005年からは慶応大学SFC研究所上席研究員として「個人メディア」の研究活動および講義も行っている。2007年に新しい学びを研究するキャスタリア株式会社の取締役に就任、2014年にはプログラミング必修の通信制高校コードアカデミー高等学校の設立に携わるなど、その活躍の場はいまも広がりを見せている。

豊富な知見をもとに執筆した書籍も多数。『プログラミング教育が変える子どもの未来 AIの時代を生きるために親が知っておきたい4つのこと』(翔泳社)、『LinkedInスタートブック』 (日経BP社)、『サードウェーブ・コーヒー読本』(エイ出版社)などの著書がある。

SNSは人と人のつながりを補完するもの

米国カルフォルニア州を基点として、取材やイベントで各地を飛び回っている松村氏は、取材を行い、すぐ現地を離れるという毎日を送っている。今回の対談も、たまたま松村氏が東京に来るタイミングを計ってセッティングしたもの。忙しい毎日を送るビジネスパーソンほど物理的な距離に阻まれ、意図的に会おうとしなければ直接会う機会が減っているという現実がある。

そのような環境ではSNSが有効に働く、そう考えるのが自然だ。しかし、松村氏はそれをやんわりと否定する。SNSだけでつながっている相手よりもメールアドレス、さらには電話番号を知っている相手の方がより人間関係が近く、リアルで会う相手は当然さらに親密な関係といえる。「SNSは、あくまで面識がある人とのつながりを補完するためのもの。物理的に会うことが大事」というのが松村氏の考えだ。

物理的に会いやすい空間、コミュニティは有効

この傾向は、とくに日本国外で顕著だという。海外では名刺の交換は「日本的儀礼」とまで言われるほどだという。連絡先の情報を一度にまとめて得ることが難しい。また名刺に書かれたことは最新でも網羅的でもない可能性がある。コミュニケーション方法の価値が日本と異なると同時に、リアルな面識の有無がもつ重要度が高い。だからこそアメリカではビジネスカンファレンスの重要度が高く、会場では製品の紹介や営業以上に、参加者同士のコミュニケーションが最大のコンテンツだ。

だが物理的な接点を求めると、どうしても場所と時間の制約が大きくなってしまうという問題に突き当たる。アメリカの場合、テクノロジーはシリコンバレー、金融はニューヨークといった具合に産業の中心が離れており、気軽に会う事ができない。シリコンバレー内であっても、サンフランシスコからサンノゼまで100kmに拡がる公共交通機関未発達で毎日大渋滞に見舞われるエリアでの移動は、想像以上に負担だ。

「会ってください」とコンタクトを取ったとしても、相手に「あなたと会って私はどんなメリットが得られるの? 」と冷たくあしらわれることも珍しくなく、相手に有用な情報を与えられなければ成功しない。会うために使われる時間は、まさにマネーだからだ。

そう考えると、さまざまな産業が集まり、名刺文化が醸成されている東京という場所は、人と人の物理的な距離が近く、人脈の構築に有利な場所といえる。東京では、知らない人と新しい繋がりを作るために求められる要求が、海外ほどシビアではないのだ。

ずっと東京にいると、こういった違いを感じることは難しいだろう。「実は東京は非常に恵まれた場所。そのこと気づいて、もっと人脈に活かしてほしい」、松村氏はそう述べる。

出会いの機会を「なんとなく」で過ごさない

どんな場所で仕事をするにしても、それぞれメリットは存在する。海外にいれば日本でのプレゼンスは下がり、日本では当然その逆になる。人がいるところで仕事をする価値もあれば、人がいないところでする価値もある。それでは、ビジネスパーソンはどこで仕事をし、どのようにコミュニケーション手段を選ぶべきだろうか。

「自分に合ったコミュニケーション手段がメールなのかソーシャルなのかは人によって違うし、相手によっても異なるはずです。好きな手段を選べればいいし、ストレスに感じるならば無理にやらなくていい。自分の興味あること、強みが活きる場所と手段を選んでください。そのために、まずは自分がどの界隈に属していると思っているのか、見られているのかを意識しましょう。そのうえで、その界隈とのかかわりを深めていくのか、それとも外に出ていくのかを判断すると良いと思います」(松村氏)。

さらに松村氏は、こういった判断を支える人脈を作り、ビジネスにつなげるため、出会いの機会を「なんとなく」で過ごさずに、大事にしてほしいとまとめる。どのような場所を拠点とし、どのようなコミュニケーション手段を選ぶか、これがビジネスパーソンの将来を左右する。自身の興味や強みを振り返り、属する界隈を正確に判断することで、自分に合ったコミュニティを築いてほしい。