今日の一杯を求めて訪れたのは小伝馬町。神田から人形町にわたり、このエリアは立ち食いそばが充実していて、これまでにも何度か取り上げてきた。有名チェーン店から知る人ぞ知る名店まで。その中で今回訪れたのは、東京メトロ日比谷線「小伝馬町駅」4番出口出てすぐ、「田そば」だ。店名は「でんそば」と読む。
300円からと良心的
クラシカルな屋号に「立喰そばうどん」とのみ染め抜かれた短いのれん。扉は開け放たれており、両側にそれぞれ3~4人が並べるサイズの立ち食いカウンター、正面に厨房の小さな店内は、路上から全て見通せる。訪れたのは平日の11時過ぎ。ランチタイム前だったが、既にシャツ姿のビジネスマン何人かがそばをすすっていた。
AMラジオの流れる店内に入って、すぐ右手に食券機。かけそばが300円からの良心価格設定。月見、たぬき、きつね……に、三陸産わけめそば、花巻(黒ばらのり)そばのようなオリジナルメニューも見られる。
また、食券機には「当たりが出たら次回お好きな一品をサービスします」とのシールが貼られていて、何気にクジ付き。外観から想像したよりも遊心のある店らしい。黒ばらのりそばと迷ったが、「とろろそば」(税込400円)を注文。
激戦区ゆえのこだわり素材
厨房に渡して、水をくみ、待つ。脇にはバットに並べられた天ぷらがあり、春菊天や紅しょうが天、ゲソ天やちくわ納豆天なんてタネもある。数は少ないが、ツボをおさえた好打線である。
壁に目を移すと、「鹿児島県産近海一本釣りの本枯節(ほんかれぶし)」を使用しているとのこと。また、「生そばを使用しているので3分時間がかかる」「国産野菜を使用しており、無添加無化調である」とも書かれていた。やはり一見地味に見えても、激戦区で店を構えるのにはそれなりのこだわりが必要というわけか。
書いてあった通り、3分待って到着。青のりで彩られたとろろが上品に載せられ、刻みネギが少し。ツユは少し濃いめで、自慢のダシは香りもコクも抜群だ。肝心の麺は丁寧にゆで上げられただけあって、しっかりとした歯ざわり。ツユを吸ったとろろと絡めてゆっくり味わうのがよい。
どこを切り取ってもレベルの高い一杯だが、ボリュームが少し物足りないのは残念。朝食代わりに、またおやつタイムに食べるのが合うのかもしれない。
筆者プロフィール: 高山 洋介(たかやま ようすけ)
1981年生まれ。三重県出身、東京都在住。同人サークル「ENGELERS」にて、主に都内の銭湯を紹介した『東京銭湯』シリーズを制作している。